リベラルアーツ研究教育院 News

「教える」より「学び合う」場を創る

【コミュニケーション論】 中野 民夫 教授

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2019.12.11

中野 民夫 教授

みんなで作り上げる
本当の学びのための“場”を東工大に

私が東工大で担当している授業は、創造的な対話をする力を身につけるための「コミュニケーション論」などです。

この授業では、聴く力や話す力をつけるだけでなく、誰もが話やすい場をつくるファシリテーションを実践的に学びます。また大学院生を対象に「人間力を育む」とか「地球市民のためのエコロジーとスピリチュアリティ」や、今ここのありのままに気づく「マインドフルネス」の実習授業も行っています。

共通するのは「コミュニケーション」です。コミュニケーションは人間が生きていくうえで必要不可欠な行為であり、人間に根源的な喜びをもたらす行為です。人と人が一緒に考え、学び合い、なにかをともに創る。でも、一方でコミュニケーションほど難しいものもありません。どうすれば前向きで創造的なコミュニケーションができるのだろう。授業を通じて学生たちと日々考え、試行錯誤しています。

「コミュニケーション論」の授業には、100人ほどの学生が参加します。私の授業では、こうした大人数授業でも一方通行の講義には絶対にしません。机も椅子もなく、靴を脱いで素足や靴下であぐらをかけるフラットな大教室を活用し、学生たちをくじで4人位のグループに分けて、「ワークショップ」スタイルで授業を進めます。

「ワークショップ」という言葉は、広い意味で使われていますが、ここでは「講義などの一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加、体験して共同で何かを学びあったり創り出したりするスタイル」と考えてください。つまり先生が一方的に教えるのではなく、学生同士が学びあう。それがワークショップ型の授業です。

「ワークショップ」を活性化させるうえで不可欠な存在がファシリテーターです。ファシリテーターとは、ワークショップや会議などで、参加者みんなを巻き込みながら、コミュニケーションを活性化させて、有意義な学びや創造の場にする役割を担うひとのことです。ただの議事進行役や司会ではありません。ファシリテーター次第で、ワークショップの価値は大きく変わってしまいます。

そこで、聴くことやプレゼンの力だけでなく、誰もが話やすい場をつくる「ファシリテーション」を学生たちに教えていきます。「ファシリテーション」の基礎スキルを、私は、①場づくり、②グループサイズ、③問い、④見える化、⑤プログラムデザインの5つにまとめています。この中の“場づくり”において、画期的な対話促進ツールを、東工大のグループワーク型の授業では積極的に活用しています。

その名も「えんたくん」。直径1m弱の段ボールの円形ボードです。環境教育のパイオニアの川嶋直さんが創案し、商品化されたもので、4人1組のチームの膝の上に載せると「円卓」ができます。自然に物理的・心理的距離が縮まり、顔を見合わせて対話し、グループワークをやることになります。

ある回では、「未来の東京を考える」をテーマにして、各グループで「えんたくん」を使いながら、東京の好きな所から始めて、どんな東京に暮らしたいか、様々なアイデア出しをしました。

「えんたくん」には、同じサイズの円形の用紙を乗せ、それぞれが異なる色のカラーマーカーを手に、出てきた意見をお互いにどんどん書き出して、見える化しながら話し合いを重ねていきます。「東京はゴミ箱が少ない」「意外と緑が多い」「歩道が狭い」「電信柱が多い」などなど。個々人の考えや知識が「見える化」され、文字通り「輪になって対話」すると、話し合いが具体的かつ円滑に進み、やりとりの相互作用のなかで新しい知恵やアイデアが生まれやすくなります。

東工大の学生たちにとって、こうした参加型授業は立志プロジェクトで体験しているものの、まだまだ新鮮です。授業評価アンケートでもとてもポジティブな結果が出ています。学生たちからは「話すことが苦手で悩んでいたのですが、『えんたくん』を囲んで話し合ううちに、悩みが解消しました」「キャンパス内でも立ち話をするひとたちが増えて、東工大が明るい雰囲気になった」といった意見が寄せられています。

私は57歳からオリジナルソングを作り始めたこともあり、“輪になって座ろう、輪になって語ろう~”と「えんたくん」の心得を歌にしてギターを弾きながら歌ったりもしています。(笑)

学生のよりよい学びのために
多彩な教員たちが協働

中野 民夫 教授

私は、もともと研究者ではありませんでした。自分の大学生時代は先生の講義を一方的に聞かされるだけの授業にうんざりして、入学後1カ月で休学し、自動車工場で働いてお金を貯め、東南アジアやインド、ネパール、アメリカ・中南米へ一人旅をしました。世界を巡ってさまざまな風土や人や文化に接し、宇宙や自然とのつながりを実感しました。大学では社会学の見田宗介先生のゼミに入りました。東工大リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行さんとはその頃のゼミ仲間で、一緒に先生の家に押しかけて、議論をふっかけたり、ゼミ合宿を盛り上げたりしていました。

でも、就職したのは大手広告会社の博報堂でした。オルタネティブな世界も経験していた私は、当時エコノミックアニマルなどと言われていた企業社会には背を向けていました。なのにあえて資本主義の権化のような会社に入った。どうせなら、あえて企業社会のただなかから変えてやろう、と思ったからです。初めは大阪の営業から始めていろいろと苦労しました。しかしいつの間にか、ミイラ取りがミイラになって、夢中になって働いていました。

その後、はたと我に帰り、思い立って休職して私費でカリフォルニアの大学院に留学しました。日本でバブル景気がピークを迎え、アメリカが湾岸戦争に参戦した頃です。この米国留学が今につながる私の道を拓きました。現地で、参加や体験や相互作用を重視する「ワークショップ」や「ファシリテーション」という方法に出会ったのです。

最も影響を受けたのは社会活動家でもあるジョアンナ・メイシー先生の一連のワークショップでした。まさに湾岸戦争の最中です。戦争という事態を「どう感じていますか?」“How do you feel?”と聴き合い、気持ちを大切にするところから始めて、最後は「何ができるのだろう」と問い合う場で、自分が世界中の出来事と深くつながっていることを実感しました。私自身も、湾岸戦争に対して「日本人という立場でできることは?」「私たちが日本に伝えるべきことは?」と、カリフォルニアで日本人同士が集う会を自ら企画して、多くの発見をし、様々な行動がそこから生まれました。

私たちは1人で問題が解決できないと、ついつい避けてしまいがちです。でも、ワークショップに参加すると、1人では立ち向かえなかった難題にも、みんなの力で何か応えることができるかもしれない、と前向きな力を実感することがたくさんあるのです。

「孤立せず、集いあって、問いあうことが力です」。ジョアンナ・メイシーさんの言葉です。本当にそうだと思いました。だからこそ、まず自ら場をつくり、人に呼びかけ、お互い問い合い、率直な気持ちをわかちあう。小さいけれど確実な第一歩がそこから始まるんですね。

広告会社に勤める会社員だった私が大学教育の現場に本格的に関わりだしたのは、愛知万博「地球市民村(NGO Global Village)」の仕事が一段落した2005年の後半からです。非常勤講師として大学に誘われることが増えました。そして、2012年、30年勤務した博報堂を早期退職し、同志社大学大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーション・コースと政策学部の教授になり、大学でNGO論やワークショップ、ファシリテーションの実践を教えるようになりました。

そして、2015年秋、教養教育改革の準備の佳境だった東工大のリベラルアーツ研究教育院に合流し、2016年4月からスタートする「東工大立志プロジェクト」の詰めにかかわりました。「立志プロジェクト」は、東工大の新入生全員の必修授業で、リベラルアーツ研究教育院の旗印ともいえるものです。

理系の優秀で真面目な学生たちが、専門性に加え、人間性・社会性・創造性を兼ね備え、大きな志を抱く人材になるためには、どんな教育を施せばいいのか、三島前学長のもと、上田先生を中心に改革は長い時間をかけて議論され、少しずつ準備されてきていました。私は、その具体的な仕上げに参画しました。

私が合流した時点で、「大人数で社会の第一線で活躍する人たちの講義を受け、その内容を少人数の40クラスに分けて振り返る」「大人数講義と少人数クラスを交互に積み重ねていく」という「立志プロジェクト」の基本形はすでに決まっていました。ただし、少人数クラスでの授業をどのように進行するかは不確定のままでした。また、少人数クラスを手分けして担当する予定の、人文学・社会科学、英語や第二外国語などさまざまな専門を持つ教員同士も、まだお互いのことよく知らない段階でした。そこで準備の中心となる先生たちと話し合いを重ねながら、少人数クラスの進行基本案をつくり、2016年3月には二日間の全教員研修を参加型ワークショップで実施し、皆で本番に向けて備えました。

少人数クラスの進行基本案では、私が考案した「プログラムデザイン曼荼羅」というツールを使用しました。これは流れのあるプログラムを創るときの基本の「型」となるもので、先に述べた円卓「えんたくん」と同様、参加型授業に活用できる便利なアイテムです。

簡単に説明すると、まず三重の円を描き、外側の2つの円を縦横の線で4つに分けます。そこに右上から時計回りに「起承転結」の機能を持たせ、時間枠も決め、やってみたい内容などを思いつくままにどんどん書き込みます。真ん中の円には実現したい「ねらい」や「ゴール」を明確に書きます。

少人数クラスの基本案では、「ねらい」として真ん中に「講義を振り返り、小グループで話し合って、お互いに刺激学び合う」と記入しました。このときの“4人グループになって自己紹介→講義を振り返り要約する→感じたこと、学んだことを話し合う”という構成は、そのまま現在の少人数クラスでも実施されています。

教員同士の何度かのワークショップでは、何より参加した教員たちが、出会いながら盛り上がりました。この事前からの取り組みが功を奏し、立志プロジェクトは、多彩な教員たちが、新入生たちの学びをよりよいものにしようと熱く協働したことで、初年度から大きな成果を積み重ねてこられたと思います。

大学で志が芽吹き
リーダーシップを手にする

中野 民夫 教授

私は広告会社に勤めていた頃から数えても30年以上、ワークショップなどさまざまな場で“教えるより学び合う場を創る”ための取り組みを続けてきました。「参加型で学び合う場」で探究している“つながり”には4つあります。

それは、[1] 「人と人」:人と他者とのコミュニケーションをファシリテートして良い関係でつながること、[2]「人と自分自身」:自分自身の「身体」と「こころ」に触れ、自分自身の内側とつながること、[3] 「人と自然」:自然に浸り自分も自然の一部だと思い出すこと、そして[4] 「人と社会」:社会で“気になること”を追求しながら関わっていくこと、です。

そしてうまく“つながる”ための方法が「ワークショップ」や「ファシリテーション」です。また、自分自身を大切にしたり、思い込みから自由になるためにマインドフルネスが必要です。平和で持続可能な社会に向けて、学生たちと学び合っているのです。

今、東工大では、「教える」より「学び合う」場の魅力を知った学生が、自分たちでファシリテーションのサークルを立ち上げようとしています。蒔いた種が、ちらほら芽を出してきていると感じています。

私自身は、学院横断プログラムであるリーダーシップ教育院(ToTAL)で、東工大生にリーダーシップを育むプログラムづくりにも取り組んでいます。これは修士課程と博士後期課程の学生を対象に、世界を舞台に活躍できるそれぞれのリーダーシップを育んでもらう少数精鋭の場です。

日本の学生は海外から留学してきている学生と比較すると“リーダー”という言葉に対して、少し消極的な印象です。また関係ないものだと思って、あまり手を出さない傾向があるかもしれません。

しかしリーダーシップとは、主体的に生きていく中で大切な資質。これはリベラルアーツも同じです。リベラルアーツとは、自分たちが宇宙の中で生きている、生かされていることに対して、不思議だという感覚を持てる“学び”でもあると思います。つまり137億年という宇宙の歴史、46億年の地球の歴史の中で、奇跡のような存在である人間の数十年のいのちをどう花咲かせるのかを考えられるということ。リベラルアーツには、1人の人間としてこの時代を生き人生を味わうための「本当の学び」があると思います。

今後は、リベラルアーツ研究教育院の教養教育を受けた学生たちが、リーダーシップ教育院での受講の対象者になってきます。学生たちには、東工大に広がる「学びのコミュニティ」を通じて、生きることをより深く味わえる人間として、リーダーシップの多様な可能性を見つけて発揮していってほしいですね。

Profile

中野 民夫 教授

研究分野 コミュニケーション論、ワークショップ、ファシリテーション、マインドフルネス

中野 民夫 教授

1957年東京生まれ。1982年東京大学文学部宗教学科卒業後、株式会社博報堂に入社。1989年に休職留学し、1991年カリフォルニア総合学研究所(CIIS)の組織開発・変革学科修士課程修了。2012年に博報堂を早期退職し、同志社大学教授を経て2015年から現職。主な著書に『ワークショップ』、『ファシリテーション革命』、『学び合う場のつくり方』(共に岩波書店)、『みんなの楽しい修行』(春秋社)など。

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