リベラルアーツ研究教育院 News

子どもたちを育む教育の現場に、もっと東工大生を

【認知心理学、教育心理学】栗山 直子 助教

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2020.05.12

栗山 直子 助教

効果的に思考力を育むプログラミング教育を
他の学びにも生かす

私の専門は教育心理学、認知心理学です。最近は、子供のプログラミング教育に注目して研究をしています。

スタートしたのは2011年。最初は、自分の小学生の娘と一緒に夏休みに小学生向けのプログラミングのワークショップに参加したのがきっかけでした。私自身はもともと教育心理学や認知心理学を専攻していたのですが、論理的思考を育てるプログラミング教育は、論理的な思考の発達や育成に関する研究対象としても面白いのでは、ということに気づかされました。

すると運のいいことに、その大田区の小学校が理科教育の推進校になったのです。校長先生からも協力要請をいただき、以来、その小学校でプログラミング教育を実践することになりました。小学校は最先端のプログラミング教育を実施でき、私たちはその見返りに研究データが得られます。ウィンウィンの関係を築くことができ、現在の研究につながっています。

文部科学省は2020年から小学校でプログラミング教育を必修化すると決めました。最近では、さまざまな小学校から「出前授業」の依頼もあり、世田谷区や目黒区の小学校などでも、プログラミング教育の研究と支援を行っています。

小学校におけるプログラミング教育で、当初活用したのは「スクラッチ」です。スクラッチはMIT(米国マサチューセッツ工科大学)メディアラボが開発したビジュアルプログラミング言語で、画面のブロックをつなぎ合わせてさまざまなプログラミングを行います。スクラッチを使った授業では、子どもたちにまず魚の絵を描いてもらい、その絵をデータとして取り込んで、パソコン画面上で動かすプログラムを作成するワークショップからスタートしました。

小学生向けのプログラミング教育の人気は高まる一方で、年を重ねるごとに新しいプログラミング教材が登場し、今や小学校の習い事のトップにプログラミングが入るようになりました。初等教育におけるプログラミングを取り巻く状況は大きく変わりました。数年前までは、親御さんの中には「プログラミングってゲームみたいなものでしょ。教育によくないのでは?」とおっしゃる方もいらっしゃいました。でも、現在ではほとんどの親御さんがプログラミング教育の重要性を理解されています。

ちょっと話が脱線しますが、現時点のプログラミング教育は、自治体や学校によってかなりばらつきがあります。今の子どもたちはデジタルネイティブなので、小学校の先生よりも、私よりも、さっさとプログラミングのコマンドを理解して、やりかたを覚えてしまいます。

一現場の先生方は、プログラミング教育に関して得手不得手の振れ幅が大きい印象があります。児童・生徒よりも完璧に知っていなければ教えられないというある意味、正しいのですが、そのマインドセットがプログラミング教育にはネックになり、先に進めない先生もいらっしゃいます。その一方で、東京都からプログラミング教育推進校に指定されている小学校の先生がたは先端的な教育を進めていらっしゃるため、学生を授業等で学ばせていただいています。

私たちの研究が、小学校のプログラミング教育の全体的な向上にお役に立てるといいな、と思っています。科学研究費補助金をこの一連の研究で基盤C(2013-2016)と基盤B(2018-2022年)と継続していただいていること、科学的な検証にもとづいたしっかりした成果をまとめることを目指しています。

2015年からは「マインドストーム」や「アーテックロボ」、最近ではレゴの「WeDo2.0」、「ペッパー」、「Micro:bit」、「クムクム」という小さく、話もするロボットなど、いろいろな教材を使っています。マインドストームはLEGO社とMITの共同開発で誕生した教育用ロボットプログラミング教材です。東工大には、マインドストームを使って主に女子にプログラミングを教える「ロボギャルズ」というサークルがあり、そのサークルの学生がRA(リサーチ・アシスタント)をしてくれた時期もあり、一緒に小学生向けのワークショップをすることもありました。

また、プログラミングとは別に、コミュニケーションの研究でもレゴを使っています。子どもたちにはレゴでさまざまな「場面」を作ってもらい、それを撮影してiPadのアプリで4コマ漫画やストーリーを作るのです。グループで映画のようにひとつのストーリーを作る。その過程で、誰がリーダーになるか、誰が調整役になるか、という具合に子どもたちのコミュニケーションのありようを、データを取りながら分析し始めたところです。

やってみて、うまくいかなかったらもう一回試す。試行錯誤を通して論理的思考を磨く。学習にはそれがとても大事。子供向けに開発された最近のプログラミングのソフトウェアは試行錯誤と論理的思考のプロセスを可視化してくれる優れたツールです。だから導入する際には、子どもたちが試行錯誤し論理的思考を効果的に身につけることができるやり方を提案したい。プログラマーになるために学ぶのではなく、プログラミングで身につけた何度も試行錯誤をしながら、つまり失敗をしながら、工夫してゴールに近づく経験、それを他の教科の学習にも応用してもらうようにするのが目標です。

プログラミング教育の研究の過程で、条件分岐、いわゆる「もし~ならばこうなる」というif文など少し高度なことが理解できるのは、ある程度、抽象的な考え方が得意になってくる小学5、6年生からだとかなりはっきりわかってきました。また、条件分岐の理解ができるようになることはクリティカルシンキングとも結びついているということも、子供たちへのアンケート調査でも一部明らかになっています。

プログラミング教育を行うと、通常の勉強が得意な子が少し苦戦したり、普段ゲームばかりやっている子が大活躍したり、ということがけっこう起きます。単にゲームが得意かどうかだけではない。勉強ができる子や慎重で真面目な子は失敗することが苦手で、トライアンドエラーをあきらめてしまったり、プログラミングで後手に回ることがあるんですね。失敗を気にしない子が勢いよくいろいろなトライをするため結果として面白いプログラムを書けてしまったりする。クラスメートからも「すごいね!」と見直されたりする。プログラミング教育は、従来の座学では目立たなかった子の才能や能力に光を当てるきっかけになるかもしれません。

人間の柔軟な思考のメカニズムを解明するため、
文系から理系へ

栗山 直子 助教

私のバックグラウンドは認知心理学です。青山学院大学文学部では教育学科に所属し、当時は小学校教師を目指していました。学習によって人間が知識を得る認知メカニズムが解明できたら、子どもたちにもっと良い指導ができるのではないか、と考えるようになり、大学の卒業論文から研究に取り組むようになりました。

幸い大学のゼミの先生が認知心理学の専門家だったこともあり、いつのまにか研究が楽しくなってきて、目標が小学校の教師から教育の研究へと移っていきました。大学院への進学を希望したとき先生が「研究を続けるうえで理系の知識を持っていると視野が広くなる」と進めてくださり、修士課程から東工大に入ったのです。社会理工学研究科人間行動システム専攻ができた年です。博士課程を経て、日本学術振興会の特別研究員になり、東工大で研究を続けることができるようになりました。

私自身は、人間の柔軟な思考に興味があります。特に興味深いと感じているのが、今この瞬間であったものごとについて、すでに自分がよく知っている事象に置き換えて理解を深め、世界を広げていく「類推」のプロセスです。人間の論理的思考とセットでこの類推のメカニズムがどうなっているのかぜひ解明したい。今でもそれが根底にあり、現在の研究のモチベーションになっています。

研究者になった当初は、算数の応用問題を解くときに子供たちにどんなふうにヒントを与えたらうまく解けるようになるか、という研究をしていました。

また、心理学は統計を使うので、共同研究を通じて統計データを増やしていくことが多いんですね。このため、たくさんの共同研究にかかわりました。ソフトバンクから依頼を受けて、ペッパー君を使ったプログラミング教育の効果測定をやらせていただいたこともあります。プログラミング教育の研究も、人の推論のメカニズムを知りたいというのが大きなきっかけです。が、もともと小学校の教師になりたかった私にとっては、小学生の子どもたちがかわいくて現場から離れられなくなりました。大学の博士課程を経由して、大学の教員を務め、研究を行いながら、小学校で教える夢もかないました(笑)。

大学の授業として、
学校を支える仕組みをつくる

栗山 直子 助教

大学の授業では、学校教員の免許取得を目指す学生たちのための教職関連の教育実習がメインです。もうひとつは、やはり私の専門である統計にかかわる授業を主に受け持っています。統計系の授業については、ある程度基礎を教えた後は、研究においての統計の使い方や分析の方法、論文への書き方、統計ソフトの使い方などを中心に教えています。最近は統計を使わないのではと思うような研究室の学生の履修も増えていて、統計に興味を持つ学生が増えている印象があります。

教育実習を行う東工大生は年間10~20人で、そのうち教員志望は5、6人。かなり減ってはいますが、「先生になりたい」という東工大生は、ほとんどが夢をかなえています。

2019年度からは、修士課程1年生2年生向けに「学校インターンシップ専修」という科目をつくり、学生に小学校の補習授業やプログラミング授業に入ってもらう授業を始めました。教員免許を持っていない学生も含め5名が小学校に行き、各自の課題を設定して小学校に行き、楽しそうに小学生のクラブ活動や補習教室などで先生方のご指導のもとお手伝いをしたり教えたりしています。2020年度からは教職科目にしていただけることになりました。

現在、小学校の現場では先生に大きな負荷がかかっています。東京都では、オリンピック・パラリンピックに関する教育に加え、英語科目の導入、道徳の教科化、そしてプログラミング教育を、小学校の先生が教えなければならない。保護者や地域の識者、社会貢献活動に熱心な企業が「チーム学校」として地元の小学校教育を支える仕組みが必要だと感じています。地域を巻き込んだ「チーム学校」の仕組みづくりは、私の科学研究費補助金の研究テーマの一つでもあるので、まずは地域ということで、大学生を小学校にサポーターとして派遣する仕組みができないかと考えました。

小学校の現場に大学生が行って子どもたちの教育に関わることは、子供たちにも大学生にも良い経験になると思います。単位として認めれば大学としてもありがたいですし、東工大から優秀な理系学生が派遣されてプログラミング教育をサポートするのは、忙しい小学校の先生方にお役にたつのではないかと考えています。

プログラミング教育は、すでにプログラミング塾など人気の習い事にもなっていますが、かなりお金がかかります。となると、まずは公教育を充実させなければ、教育格差が広げる分野といえます。授業の一環として東工大生を派遣する仕組みを工夫して構築し、公立小中学校の教育を充実させるためのお手伝いができればと考えています。

知らないことを知らないと言えるのが、
理系の良さ

栗山 直子 助教

私が東工大に来た当時は、修士課程の20数人中で女子は3人でした。青山学院大学文学部という女子の多い環境から東京工業大学の男子の多い理系の人ばかりの中に入って、最初は本当に衝撃を受けました。まず、ゼミの会話に出てくるコンピュータ用語が全く理解できない。宇宙語を聞いているようでした。でも、知ったかぶりをしないんです。東工大のひとたちは。自分がわからないことは「わからないんだ。教えて」とはっきり聞いてくる。文系の世界では、知識をたくさん持っている人がえらくって、知らないことは恥ずかしいという意識が比較的強く、知らないことを知ったかぶりする“いいかっこしい”のところがどうしてもありました。私もそうだったと思います。知らないことを知らないと言える東工大の人たちの姿勢は私もまねしようと思いました。

時代を経て現在の東工大では、当時に比べれば女子学生も増えました。男子学生たちも洗練されました。でも、知らないことを「知らないから教えて」と言える東工大生らしさはこれからも残してほしいですね。自分の好きなことに前のめりになる、いい意味で「オタク」な学生たち、私はすごいな、と思っています。その良さをこれからもキープしてほしい。ちょっとコミュニケーションは苦手だけど「おたく道」を求めて入ってくるような学生も排除しないでほしいですね。

2016年から始まって、私も参画しているリベラルアーツ研究教育院の取り組みは、とても面白いです。

私の大学時代、大学院時代は、学科や研究室がタコツボ化して横のつながりが全くといっていいほどありませんでした。となりの研究室が何をやっているのかもうかがい知れなかった。さまざまな学科の学生たちが集って、グループワークを行ったり、発表しあったりして、授業の後も関係が続く。そこから新しいイノベーションが起きるといいなと期待しています。

個人的には、おもちゃのレゴとコンピュータのプログラムと教育とを結びつけたマインドスームなどを生み出したアメリカのMITメディアラボで行われているような研究開発が東工大からも生まれるといいですね。ひとつの学科、ひとつの研究室にいただけでは体験できない、協業することで新しい知が生まれる瞬間を学生たちにたくさん味わってほしいです。

MITメディアラボのようなコミュニケーションに利用されるデジタル技術の教育、研究を専門としている場所が、東工大にできると良いなと思っています。そこの活動に単位をつけて、学生たちにもっと広い場でいろんなことを体験してもらいたい。そのためには、東工大生よ、もっと外に出よう!

Profile

栗山 直子 助教

研究分野 認知心理学、教育心理学

栗山 直子 助教

1996年、青山学院大学文学部教育学科卒業。2002年、東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員PDを経て、2003年より同大学大学院社会理工学研究科助手。2007年より現職。研究テーマは、学習転移のメカニズムの解明、類推・比喩を用いたコミュニケーション、類推的意思決定、児童の思考力を育成するプログラミング教育など。小学校と連携し、マインドストームなどを使ったプログラミングのワークショップ授業を行っている。

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