リベラルアーツ研究教育院 News

最先端科学技術を駆使して古代からの進化を探る。計算・デジタル考古学者的「考古学のすゝめ」

【考古学】ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

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2024.12.06

ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

皆さんの考古学のイメージは「発掘調査」「トレジャーハンター」「インディジョーンズ」などではないでしょうか? しかし、現代の考古学は⽂系と科学が融合するデジタル要素を取り入れた手法が主流になっています。私も計算・デジタル考古学者として統計学的分析や三次元(3D)分析を使った「科学研究サイクル」のやり方で、物質文化も⼈⾻も含めて、ホモ‧サピエンスや私たちの祖先について幅広く研究しています。

科学研究サイクル(Scientific Cycle)は、ある仮設を立てたうえで新しい技術などを取り入れながら実験や調査、分析を行い、その結果から仮設を証明するというものです。科学では一般的ですが、考古学でも活用されているのは、複数の実験や調査で得られた結果に対して自分の意見よりも論理的な説明を求められる分野であるからです。

考古学という学問の歴史が長く、私は大学院に入ってから考古学の研究を本格的にやり始めたということもあり、研究者としての自分のユニークポイントを考えたときに、従来とは違うことをやってみようと思ってこの分野に挑戦してみました。今までの考古学の伝統的な研究方法を勉強した上で、その方法でならの足りないところを発見し、伝統的方法や新しい方法の融合をする必要があると思いました。

大学院時代は従来の伝統的なやり方も学びましたが、デジタル考古学は教えてくれる人がいないので電子ジャーナルを見て独学で習得しました。また、国内外の学会にも修士課程、博士課程を修了する6年間で20回以上参加して、15回以上発表しました。学会発表は自分に足りないところについてプロの方々の意見が得られる重要な学びの場です。学会での発表はハードルが高そうですが、何か新しいことを少しでも発見したらなるべく早く発表したい、見せて意見もらいたいというのがあるので、自分の研究が少しでも進めば、積極的に参加して発表するようにしていました。

先⾏研究に関する違和感から、計算・デジタル考古学者を志す

ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

小さいころから考古学に興味がありました。幼稚園ぐらいの時には先生に「人ってどこから来たの?」といった質問をしていて、⼩学校2年⽣の時にはすでに「将来は考古学者になりたい」と言っていました。⼦供の頃の性格はかなりシャイで、ひとりの時間が多かった。暇な時は読書したりドキュメンタリーを⾒たり、ゲームをしたりしていましたが、内容はだいたい歴史か考古学に関するものでした。多⽂化環境で育ったからこそ、⼈と⼈の違い、⾃分のアイデンティティーやルーツ、⽂化の変化プロセスについて調べたかったんだと思います。考えてみたら、考古学以外の選択肢はなかったように思います。アメリカで大学に入学したあと日本に留学し、そのまま卒業して日本の大学院でようやく本格的に考古学を研究するようになりました。

大学院で考古学を学び始めると、先行研究に関する違和感をすごく感じるようになります。 それぞれの研究者のフィーリングがメインで科学的な研究が少ない。しかも海外の学会に参加している考古学者も数人ということもあって、留学生である自分が客観的に見ても国内と海外とでは、考古学のスタンダードのギャップが広がっているのは明らかでした。 そういった背景もあって、度々批判されました(笑)。違うことやってみたいと言っても、その必要があるか問われると、最初は上手く答えられなかったんです。でも、研究して挑戦して結果を出せば、少しずつ理解してくれるはずと自分を信じていました。時代的に3D利用者が増えているし、新しい分野での研究成果がオンラインでも見れるので、必ず理解してもらえるだろうと。新しいことに挑戦するのが人生で一番怖いことではあったのですが、今振り返ってみると、それは正しかったのだと思います。

発掘された土器を3D化する作業に取り組む(左)。北海道の離島にも長期滞在して発掘調査に携わる(右)

発掘された土器を3D化する作業に取り組む(左)。北海道の離島にも長期滞在して発掘調査に携わる(右)

考古学のイメージを壊し、考古学を通じて、
いろいろな分野の人と結びつく

ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

考古学者は人間が作った・使ったモノ(例:土器・石器など)をメインに研究しますが、私は計算‧デジタル考古学を専門として新しい分析手法を取り入れているため、土器のほかに骨についても分析を依頼される機会がよくあります。在籍していた大学院が自然人類学の分野で有名ということもあり、人骨が発掘されて、持ち込まれて整理作業(性別や病気などを検討する作業)を行う際に立ち会うことが多くあったからです。本来ならば人骨は自然人類学者の担当領域なのですが、私は人骨も分析できる手法を持っているので両方できるし、骨の取り上げ方や整理作業など伝統的な手法も豊富に経験している。だから考古学者でも人骨についても理解できるのが自分の最もユニークな強みだと思っています。

本学では⽂系教養科⽬で、主に「考古学‧⾃然⼈類学」という科⽬を担当するのですが、考古学と⾃然⼈類学の⼆分野の要素を入れた講義を行います。現代の先史学的研究によって過去のライフヒストリーが明らかになるため、⼈間が作った・使った「モノ」(考古学)とその⼈間の体「人骨」(⾃然⼈類学)も同時に研究するのが必要になってきています。

こういう人間の体や心、精神や魂といった全体像を捉える「ホリスティック」な 講義によって、リベラルアーツの魅⼒が学⽣に明確になると考えています。講義内容は、この⼆つの分野の⼊⾨となりますが、本学の学⽣に合わせて、テクノロジーやAIなどの最新の研究結果、現代のケーススタディーなども盛り込んだ講義を行っていきます。⾃分が⼀番知っている、「弥⽣時代の⼟器」などの細かいことを教えるより、学⽣が盛り上がりそうなことをあえて取り入れるようにしています。だから講義内容に関する質問やコメントは大歓迎。基礎的な知識はもちろん必要ですが、リベラルアーツの魅⼒を伝えるために、教員として、学⽣の知りたいことや勉強したいことに敏感に反応しようと思っています。理系を学ぶ学生の専門分野でないからこそ、学生の質問に対して次の授業で答えたことが、彼らにとって役⽴つ分野につながると思ってくれたら、教員として⼀番うれしいですね。

また、本学のリベラルアーツ研究教育院に着任したことで、さまざまな分野の⽅と共同研究プロジェクトが行えるチャンスが多くなるのではないかと期待しています。「考古学」とういう分野は、もともと色んな分野の組み合わせで出来上がった分野だし、専門的な知識がない一般の方でも発掘調査などに参加できるんですよ。考古学に興味がある人を募って、古代と現代のつながりに興味ある⼈にとって非常に魅力的なのサークルを作ってみたいと思っています。今の時点では、遺跡めぐりや博物館めぐり、ドキュメンタリーを⾒たり、有名な考古学者の講義を聞いたりするのがメインイメージです。

挑戦してみるのがリベラルアーツの魅力
専門外でも経験することで新たな発見につながる

ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

リベラルアーツとは、⼩さな「社会」だと思います。「社会」というのは、すべての⼈の考え⽅が同じではなく、いろいろな考え⽅を持っている⼈と交流する必要があり、その考え⽅の違いから、⾃分の世界が広がる。経験したことない、勉強したことない、慣れていないことに挑戦するのがリベラルアーツ魅⼒です。挑戦で得たさまざまな経験から、新しい社会‧⽂化‧テクノロジーが⽣まれます。同じ研究室で研究すると同じ考え方になりがちですが、現状に慣れてしまうことは、前に進んでいないのと同じ。関係ないと考えずに多くの学⽣がさまざまな分野に挑戦していくのが、サイエンスの未来だと思います。

考古学的‧⾃然⼈類学的なスタンスからすると、私たち⼈間は挑戦するのが上⼿な⽣き物であり、⼈間の歴史の中の全ての新しい技術の開発は「今までと違うことをやってみよう!」と思った⼈がいたからです。リベラルアーツの研究も教育もそのようなチャレンジと同じ。学⽣が新たな発⾒への扉を開けるようにしているものだと思います。

僕は勉強方法を聞かれたら「たくさん失敗すること」と答えています。学生時代はたくさん失敗できる時期なので、まずは挑戦して経験してみないと何事も上達しません。勉強も研究も⽣活も、今までと違う経験を挑戦してみるのが新しい発⾒の出発点です。リベラルアーツ必修だからこそ、本格的にやってみると意外とおもしろくなるかもしれない。専門外だし、よくわからないかもしれないけど、しっかりやってみると意外と面白いと思いますよ。Science Tokyo生と一緒にデジタルイノベーションを取り入れ、過去を再考し、ダイナミックな人類の未来への道を切り拓こう!考古学に興味のある⼈は遠慮なくご連絡ください!

Profile

ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

研究分野 考古学

ロフタス ジェームズ フランシス 准教授

多文化環境で育ち、幼少期から考古学や人類のルーツに興味を持つ。2016年、立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部卒業。2018年、九州大学大学院地球社会統合科学府修士課程修了。2022年、JSPS特別研究員(DC1)として九州大学大学院地球社会統合科学府博士課程修了。2022年~2024年、JSPS特別研究員(PD)として九州大学比較社会文化研究院でポスドク研究を行う。2024年4月より現職。専門は計算・デジタル的考古学。物質文化・人骨からみた人間の行動について研究活動を行っている。過去・現在・未来をつなぐ22世紀の考古学は、テクノロジーと人が遺した「モノ」が融合し、新たな学際的領域を切り拓く。

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