リベラルアーツ研究教育院 News

過去にとらわれず、未来にとらわれず、科学と人との多様な関係性を捉えたい

【科学教育】木村優里 准教授

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2024.12.23

木村優里 准教授

私が主に担当しているのは、教職科目です。特に理科教育に関する科目を担当しています。

理科教育に関する科目では、学習指導要領や教科の指導内容と方法といった基本的なことを学んだうえで、教育工学的な視点を導入し、よりよい理科の授業について、検討したり実践したりしていきます。これは、これまでの当たり前を問い直して、これからの学びを考える取り組みです。教職科目は、確かに教員免許取得のために必要な科目ですが、それだけではありません。自分で問いを見つけて考える、大学らしい学びや実践経験を通して成長できる科目でもあります。

本学の学生は、理系の専門性を深めつつ、教職課程を並走する形で学ぶことになります。理系の専門家として、理系のおもしろさや、研究を深堀したその先に視界が広がる感覚を持って教員になり、活躍してもらいたいと思っています。

科学実践に参加する市民の研究で暗黙の前提を問い直す
「科学する」文化の可能性

木村優里 准教授

私は、大学生の時に、ガリレオ工房という教育系のNPO法人に所属していて、科学実験教室を企画・実施していました。その時、科学を実践するという体験にとても魅力を感じ、科学と人とのかかわり方に関心を持つようになりました。特に、”既に何者かになってしまった大人”の科学との関係性に興味を持ち、社会人の傍ら、北海道大学のCoSTEP※1を受講したり、大学院に進学したりしました。

そこで注目したのが、職業としてではなく、趣味として科学実践に主体的に取り組む、アマチュア科学者と呼べる人々です。職業科学者でもなく、ただの素人でもない、科学を楽しむ大人たちは、少し前まで見過ごされてきた存在でした。アマチュア科学者の活動や、そこに存在する科学とのかかわり方に、科学教育の視点からスポットライトを当てていくことで、暗黙の前提となっていたものの見方を問い直していきたいと考えています。

アマチュア科学者の研究は、広く捉えれば、科学実践に参加している市民を対象とした研究といえます。科学の営みは職業科学者のものという当たり前を問い直し、それを公共の場に開くことで、幅広い市民が社会の中で「科学をする」文化を醸成できないだろうか、などと考えています。

教育のよりよい変化を目指して
理系・文系の枠組みにとらわれないSTEAM教育の研究

木村優里 准教授

時代とともに、科学と人とのかかわり方も変わってきます。そうすると当然ですが、科学にかかわる教育も変わらなければなりません。現代は、科学と技術と社会が密接につながって成り立っています。そのため、私たちは市民として、科学・技術と切り離せない社会問題や個人の意思決定にかかわっていくことになります。また、最先端科学技術の発展による急速な変化の時代を迎えている今、この時代に合わせた新しい価値を創造できる人材が求められています。そのためには、これまでの枠組みにとらわれることなく、教育も変わる必要があります。

しかし、恐れずに言えば、教育業界は変化が苦手です。だからこそ、研究者がこれまでの当たり前を問い直す役割を担うことで、よりよい変化に向けたサポートができればと考えています。

例えば、理系・文系といった区分は、私たちがついとらわれやすい枠組みの一つです。身近なところでは、理系または文系であるといった自己認識、学問領域、学校の教科などが、こうした理系・文系という枠組みを背景としています。この枠組みは、ものの見方の一つとして重要です。しかし、この枠組みを外して見てみることもまた大切です。

近年、この理系・文系といった枠を超えて、各学問領域・教科等を横断的・統合的に推進する学びとして、STEAM教育※2が注目されています。STEAM教育では、これからの時代に必要とされる、実社会の問題発見・解決や価値創造のための学びが目指されています。STEAM教育の研究を通して、教育のよりよい変化に貢献できればと思っています。

リベラルアーツを土台にして、理系の専門性を生かした
新しい時代の教育ができる教師に

木村優里 准教授

私が考えるリベラルアーツは、文系学問でもなければ教養教育でもなく、先人たちが積み上げてきた土台であり、自分の足元を照らしてくれるものです。今、自分が拠り所としているその足元には、どんな前提があるのでしょうか。言い換えれば、自分はどのような場所に立っていて、その形・素材・経緯・立ち位置はどのようなものでしょうか。リベラルアーツを学び深めると、それがよく見えるようになると思います。新しい視点を得ることで、そこにあるのに見えていなかったものに気づくことができたり、見ているものの解像度が上がる、そんな感覚です。学生のみなさんには、リベラルアーツを学ぶことで自分の土台を知り、それを踏み台にして、未来に向かって高くジャンプしていって欲しいです。

教職でいえば、理系の専門性を生かして、これからの時代に必要とされる教育について考え、挑戦していってもらいたいと思います。従来のスタイルにとらわれない型破りな教育に挑戦するためには、伝統的な授業スタイルについてもよく理解し、吟味する必要があります。同様に、教師はこうあるべきだという固定観念を持っていたとしたら、それにとらわれることなく、その教師像をむしろくつがえしていってもらいたいですね。

教師は生徒から学ぶことも多くあります。生徒の興味関心に接することで、自分の視点や関心が広がり、新しい自分に出会えたりします。そんな楽しみを経験できるのもまた、教師ならではの魅力です。

過去や、暗黙の前提や、こうでなければならないという考えにとらわれず、それを軽やかに超えていってくれることを期待しています。

※1北海道大学 大学院教育推進機構 オープンエデュケーションセンターに設置されている、科学技術コミュニケーション教育研究部門 CoSTEP(Communication in Science & Technology Education & Research Program)。 科学技術コミュニケーションに取り組む、北海道大学の教育・実践・研究組織として、科学技術コミュニケーション活動を担う人材養成を行なっている
※2 STEAMとは、Science、Technology、Engineering、Art/Arts、Mathematicsの頭文字からなる用語。STEAM教育とは、これらの各領域を横断的・統合的に推進していこうという教育の取り組み

Profile

木村優里 准教授

研究分野 科学教育

木村優里 准教授

福井県出身。2002年、藤島高等学校卒業。2006年、東京学芸大学教育学部中等教育教員養成課程理科専攻卒業。一般企業に就職後、立教大学理学部プログラム・コーディネーター、東京学芸大こども未来研究所専門研究員、明治学院大学心理学部教育発達学科助教を経て、2024年4月より現職。この間、社会人大学院生として、青山学院大学大学院社会情報学研究科ヒューマンイノベーションコース博士前期課程修了、東京理科大学大学院科学教育研究科博士後期課程修了(博士号取得)。CoSTEP4期生。社会における科学と人とのかかわり方について関心があります。

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