リベラルアーツ研究教育院 News
リベラルアーツ研究教育院の磯野真穂教授が、著作『コロナ禍と出会い直す 不要不急の人類学ノート』(柏書房)で、第33回山本七平賞を受賞しました。磯野教授は、山本七平賞を受賞した三人目の女性著者となります。
山本七平賞について
山本七平賞は、平成3年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、平成4年5月に創設。賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された書籍や論文で、5名の選考委員によって受賞作が選考される。
磯野真穂教授は、文化人類学の中でも病気と社会の関係性について、フィールドワークを通じて明らかにしていく医療人類学を専門とし、これまでも摂食障害やダイエットなどをテーマに、その社会文化的要因について考察してきました。
今回受賞した『コロナ禍と出会い直す 不要不急の人類学ノート』は、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るい、それに対処するための対策を各国が講じる中で、日本の政府や専門家集団がとった対策に人びとはどのように反応したのかを、磯野教授が独自の視点やフィールドワーク、人類学の手法を通じて記録し、パンデミックが映し出した社会や日本文化を考察しています。
最後のお別れすら許さない病院、危害を受ける県外ナンバー車、至る所に設けられたアクリル板、属性への批判や差別、炎天下でも外せないマスク、連呼された「気の緩み」── 果ては、国民自らが“国民の自由を政府が制限する”「緊急事態宣言」の発出を政府に求めるという世論の異様さ。
緊急事態にこそ、人びとが普段から社会というものをどのように考えて生きているのかが如実に表れる中で、社会の構成員間の調和を尊ぶ文化であり、なんとなくの全体の調和で事が進む日本。個人が合理的な考えを持って判断したとしても、全体の雰囲気に埋没してしまい、表現されにくい。あまり意味のない措置があまねく実行され、それらをやめるという決断ができにくい。──それを「和をもって極端となす」と表現し、社会を相対化して見る文化人類学者の目で見たコロナ禍の日本社会についての分析が評価され、今回の受賞につながりました。
このたび、日本社会について分析した人文・社会科学系の本に対し授与されることの多い、山本七平賞を受賞致しました。コロナ禍という国民全員が当事者となった社会混乱を文化人類学の観点から分析した本に対し、高い評価を頂けたことを大変光栄に思っております。自然科学と人文・社会科学は学問の両輪です。双方がその力を発揮し合うことで、社会と繋がり、未来に生きる知性の力が発揮されると信じています。本書への評価を力に、研究と教育活動の双方をより一層充実させていきたいと思います。
◇『コロナ禍と出会い直す 不要不急の人類学ノート』は、リベラルアーツ図書室で借りることができます。