リベラルアーツ研究教育院 News

デジタル時代の考古学研究の最先端に触れる

~ジェームス フランシス ロフタス准教授が地球生命研究所(ELSI)で講演を実施~

  • RSS

2025.06.23

ロフタス先生

リベラルアーツ研究教育院で考古学を研究するジェームス フランシス ロフタス准教授は、2025年4月23日、地球生命研究所(Earth-Life Science Institute 以下、ELSI)の三島ホール(東京科学大学 大岡山キャンパス)において、特別講義を行いました。

●ELSIとは

文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)により2012年に設置された研究所。地球科学、生命科学、惑星科学をはじめとする多様な分野のトップレベルの研究者が国内外から集い、学際的な統合アプローチによって「地球と生命の起源」を探る、世界的にもユニークな研究機関です。
地球生命研究所(Earth-Life Science Institute)

本講義では考古学という分野の紹介から、ロフタス先生の専門である3Dスキャンや計算分析といったデジタルツールが、いかに考古学をデータ豊富な人間行動科学へと変貌させつつあるかなど、現代の考古学研究でどんなことが可能になっているのかについて解説しました。


固定化された考古学のイメージを覆す、デジタル時代の先史考古学


会場風景

考古学についてのイメージを参加者から募り共有する

講演の冒頭で、ロフタス先生は考古学についてのイメージを参加者に問いかけ、それぞれが思いついたキーワードを、アプリで収集し会場内で共有しました。

「威圧感がある」「昔の生活様式を知ること」「ピラミッド」「文明の理解」「邪馬台国」「化石」「土器」「生き物の残骸」「骨を探すこと」「インディ・ジョーンズ」…。


各自が持つさまざまなイメージに結果を前に、ロフタス先生は「多くの人は、考古学者はいつもフィールドにいて泥だらけのズボンで仕事をしている人たち、というイメージかもしれません」とし、「実は考古学は文化人類学、言語人類学、生物人類学と同様に人類学のひとつ。考古学の一番基本的な定義は、『モノを通して人間の営みを再構築すること』なのです」と述べました。

そして、自らの専門については「考古学と生物人類学の間くらいに位置し実際の人の身体を研究する分野」である一方、身体が作り出した“モノ”を研究する分野であり、世界中の農業の移行期、特に日本や東アジアを中心に陶器を研究していると説明しました。「骨や壺といった研究対象そのものが私たちに直接語りかけてくるわけではありませんが、私たちの研究方法は基本的に、その形やスタイル、そして化学組成から情報を読み取ることにあり、観察、疑問、仮説、実験、分析、結論という科学的サイクルを研究手法に取り入れています」


ロフタス先生とスライド1

縄文時代の土器より弥生時代の土器がシンプルな形状になった理由を探るロフタス先生

まず、そのケーススタディーの例として、ロフタス先生が研究する弥生時代の陶器や農業について専門的なレクチャーが実施されました。文字による記録がないこの時代を読み解くカギは当時の人々が残した“モノ”だけ。ロフタス先生は土器の生産に注目し幾何学的形態計測(ジオメトリック・モルフォメトリックス)を使用した土器の2D画像から主成分や形状分岐などを行い、農耕社会となり人口が急激に増加したこの時代の土器の生産過程の変化を解明する中で、農耕社会の発展や文化的なプロセスの再構築を試みていると語りました。会場からは、米という植物が人間の環境とどう関わり、どのように人間文化の発展に変化していくのかという可能性について多くの質問が寄せられました。


小さな島から発掘された、形を意図的に変形させている頭蓋骨の謎


ロフタス先生とスライド2

明らかに形状が違う現代人の頭蓋骨(上)と広田遺跡の頭蓋骨(下)

次のケーススタディーは人骨をテーマに、種子島にある「広田遺跡」でのさまざまな発見についてのレクチャーが行われました。広田遺跡は社会階層も形成され始めていた弥生時代後期から古墳時代初期にかけての時代のもので、この遺跡からは日本国内で最大級の量である100以上の埋葬と大量の貝殻の装飾品が発見されました。出土された装飾品の美しさもさることながら、発掘された人間の頭蓋骨が非常にユニークな形状であるということが注目されており、ロフタス先生は3D技術を使った写真やレプリカを用いて現代人の頭蓋骨とそれらを比較し、その違いについて詳細に解説しました。

「通常は横に倒した卵のような形をしている頭蓋骨ですが、広田遺跡のそれは少し細長い形で後ろの方に少し突き出た部分があります。横から見ると後頭部が非常に平坦であるところが目立っており考古学者や生物人類学者でさえ、『一体何が起きたんだ?』と驚くほどの形状で、これは広田遺跡と同時代に別の場所で発掘されたものとも明らかな違いがあります。そして、これは意図的な頭蓋変形(cranial modification)だと考えられています」と説明し、さらに「何らかの帯やバンドを使って頭の形を意図的に変えていたと考えられるこの特長的な変形はヨーロッパのハンガリーでも見られ、文化的なアイデンティティーや美意識、あるいは社会的地位を示すためのものと考えられている。私たちはこれが彼らの古代のファッションだったと考えています」と述べました。

しかしながら、頭蓋変形に関するデータが十分に揃っていないため、形状の分析だけでなく、骨の縫合線の異常な凹みや非対称性など、自然な成長では説明しきれない特徴を複合的に検討しているとし、形態学的・統計的なデータをまずしっかりと固めて、その後で考古学的な出土品や文献資料、民族誌的資料と照らし合わせていく中で文化的・宗教的文脈とどのように結びつけるかという分析を行っていくと説明しました。さらに、発掘された遺体から発見された大量の貝殻や貝製品がこの島の周辺では見られず、主に台湾や沖縄南部周辺でしか見つかっていないということ、この遺跡に稲作の痕跡が全くないという点、日本の南部地域の海上ネットワークを通じた文化交流の可能性など、広田遺跡の第二、第三の謎とされる非常に興味深いトピックスが紹介されました。

ロフタス先生はこれらのケーススタディーから、現代の考古学はデジタル技術に基づくことが多く掘って大きな結論を出すといった伝統的な考古学的手法ではなく、より現代的な技術を用いているということを改めて強調し、最後にこう締めくくりました。

スライド2

「考古学はそれ自体が単一の学問としてではなく、人類や私たちの歴史に興味を持つ他の分野の人々がそれぞれの方法論を考古学の研究に応用する形で誕生しました。考古学のサブ分野は、考古天文学(archaeo-astronomy)、考古生物学(archaeo-biology)、さらには考古遺伝学(archaeo-genetics)、宇宙考古学(space archaeology)など多数あります。私たちは常に新しい方法を探しています。この分野はさまざまな学問領域から成り立っていて、私は考古学や生物人類学が、科学と社会科学、人文科学の中でも最も科学的な分野の一つだと考えています。だから考古学者は一緒に学問を前進させていける人たちにすごく興味を持っています。現在皆さんがしている仕事や考えていることが考古学や人文学とはまったく関係ないように思えるかもしれませんが、今日お話しした人類のいくつかの謎を解き明かす手助けになる可能性があるのではないかと思います」

講演終了後には、参加者から質問の列ができるなど、専門や立場を超えて意見を交わす交流が続きました。


  • RSS

ページのトップへ

CLOSE

※ 東工大の教育に関連するWebサイトの構成です。

CLOSE