リベラルアーツ研究教育院 News

リーダーシップを育む学びの場を創りたい

【教育工学】室田 真男 教授

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2020.01.30

室田 真男 教授

ICTを効果的に活用し
新しい学びをデザインしていく

東工大では、教職に関する科目を担当しています。

授業のベースとなるのは、私の専門でもある教育工学です。教育工学とは、教育現場を改善していくために工学的なアプローチをとる研究領域で、その根底には「使えるものは何でも使う」という考え方があります。教育現場は、さまざまなメディアにより構成されます。わかりやすい教育メディアとしては、コンピュータや電子黒板などが挙げられますが、実は教師や学生自身もメディアですし、照明や机も教育現場を構成するメディアの一部。いわば教室まるごとが教育工学の対象とする場となるわけです。

現在は、新しいメディアが次々と開発され、教育に導入されるようになってきました。それでは、新しい先進的なメディアが導入されれば教育は改善されるのでしょうか?そんなことはありません。学習目標を達成するために、どのメディアを選択し、それをどのように利用していくのかをデザインすることが求められます。

新しい学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」が重視され、「情報活用能力」が学習の基盤となる資質・能力の一つとして位置づけられました。ICT機器を活用した双方向的なアクティブラーニングが求められています。

そこで、私が担当している教職の授業では、ICTをはじめとする新しい技術を活用した教育方法を身につけることと、情報化がますます進むこれからの社会で必要となる資質・能力の育成手法を検討することを目指しています。

電子黒板や一人一台タブレットなどのICT機器が整備された教室の中で、「主体的・対話的で深い学び」をどう実現するのか、模擬授業を通して実践的に考えてもらいます。模擬授業では、教師役の学生が他の生徒役の学生に対して授業の演習をします。ここでの主体となるのは、あくまでも学生たち。教室の中にあるメディアを自由に活用して、自らの指導案に沿った授業を実践してもらいます。それを受けた生徒役の学生たちの意見をフィードバックしてさらなる改善に挑む、というのが授業の流れです。

普段からコンピュータ等の利用には慣れている学生達ですが、模擬授業で効果的に活用するのは簡単ではありません。ICT機器を使ったからといって、教え方が格段に向上するわけでも、効率よく学べるようになるわけでもないからです。むしろ、授業の準備に時間がかかったり、機器トラブルに見舞われたりと、苦労することの方が多いのが実情です。

そうした困難をも含めて学んでもらうことが、この模擬授業のねらいです。ICT機器を導入したからといって何かが劇的に変わることはない。ならば、従来通り、教科書の内容を板書する授業の方が楽だし、生徒たちにも十分な知識を教えられるのではないかという感想を持つ学生もいます。そこで、また考えてもらいます。一方的な知識伝達型の教育で、これからの複雑で多様な社会を生き抜く子どもたちを育てられるのか、と。結果として、ICTを効果的に活用する授業スキルを身につけるとともに、新しいことに自らチャレンジして自己研鑽を継続的にすすめていく教師に育ってもらいたいと願っています。

工学マインドで現場を改善する
教育工学という研究分野の魅力

室田 真男 教授

教育工学は文字通り、教育と工学の両方の要素が融合した分野です。私自身のバックグラウンドは工学にあります。かつて東工大生として電気・電子工学を学んでいた頃の研究テーマは、携帯電話などに使われている「弾性表面波デバイス」。博士号もそれで取得しました。ところが、その当時、大学にまだ入ってきたばかりのインターネットに可能性を感じた私は、迷った末に専門を変更。大学院を出てからは、電機メーカーの研究所でネットワークの研究に従事することになったのです。

当時は未知のテクノロジーであったインターネットも、やがて世の中にも浸透し始め、いずれは教育現場でも必要になるだろうというのが見えてきました。そんな折、大学に戻る機会に恵まれ、教育工学の研究を本格的にスタートすることになりました。学校教育におけるインターネット環境の研究、というのが当時私に課されたミッションでした。

私の大学院時代の恩師は清水康敬先生(現・東京工業大学名誉教授)です。清水先生は弾性表面波デバイス、電波吸収体、そして教育工学という3分野を専門とされていました。そのため、学生時代も教育工学という分野に馴染みはありました。でも、今のように専門研究として取り組むようになったのは、母校に戻って教え始めた1997年から。もともと工学マインドが旺盛だったこともあり、「使えるものは何でも使う」現場主義の教育工学は自分にとても向いている分野だとすぐに実感しました。

これまでの研究成果としては、Webページの自在な取り込みで調べ学習をサポートするFirefoxのアドオンプログラム「ScrapBook」や、授業に容易に導入できる「PowerPointアドイン型オーディエンスレスポンシステム」、コーチがいない環境でもスポーツ選手のスキル向上をサポートする「自律学習支援システム」などがあります。

研究活動は、研究室の学生と一緒に行っていますが、学生の研究テーマは学生の興味・関心に基づいて決めることを原則としています。学生は研究室に所属してから研究活動を始めますが、それまでの大学生活とは全く異なった学びの活動となります。研究を進めることは決して簡単なことではありません。しかし、自分の好きな分野で挑戦できる楽しさは何物にも代えがたいものです。苦労も多いですが、好きな分野での苦労は乗り越えられると信じています。教育工学というのは実に幅広い分野をカバーするので、自分の興味・関心に近いテーマを見つけることはできます。結果として、私の研究室の研究テーマは非常に幅広い内容になっています。

このようなアプローチをとっているのは、私自身の経験に基づいた考えからです。私が東工大で学ぶ楽しさを知ったのは、学部4年生で研究室に入ってから。未踏の研究課題に取り組み、それを自身の努力で解決していく醍醐味を味わうことができました。ですから、学生たちには本当に好きなことを見つけ、それを徹底的に突き詰めていってほしいですね。

多彩なリーダーシップを育成する
「学びのコミュニティ」

室田 真男 教授

自身の研究とは別に、もうひとつ情熱をもって取り組んでいるのが、リーダーシップ教育です。卓越した専門性とリーダーシップを備えた人材育成を目指す東工大の教育改革に際し、リベラルアーツ研究教育院には設立当初から関わっています。教育革新センターが母体となりリベラルアーツ研究教育院が中心となり進めている「学びのコミュニティ:GSA(Graduate Student Assistant)プログラム」では実施委員長を務めています。

これまで東工大生は専門性の高さで評価される一方、リーダーシップを発揮する人が少ない、チームワーク性に欠けるなどの面もあり、そこを何とかしたいという思いがありました。さらに、知識社会が進む現代では、従来のルーティーン・エキスパート(定型業務の専門家)を育てる教育だけでは不十分であり、アダプティブ・エキスパート(適応力のある専門家)を育成することが求められています。アダプティブ・エキスパートになるためには、専門力に加えコミュニケーション能力やコラボレーション能力を身につけ、チームで協働する力が必要です。そのため、リベラルアーツ研究教育院では、対話をベースにした学びを重視しています。

さらに、これからの予測不可能な未来で道を切り拓くためには、「志」も重要です。グループによるコミュニケーションを通じて、その志を立てるためのプログラムが、新入生必修の「東工大立志プロジェクト」となります。

対話をベースとした学びと「志」を育成する学びを有機的に結びつけるために、大学院生が学士課程学生の学びをサポートする「学びのコミュニティ」プログラムを始めました。大学院の教養コア科目として、GSAの基礎科目である「リーダーシップ道場」、学士課程の教養卒論執筆をサポートする「ピアレビュー実践」、立志プロジェクトでファシリテーションを行う「リーダーシップアドバンス」を設けています。大学院生が学士課程学生の学びをサポートすることで、後輩たちにロールモデルを提示するとともに大学院生自身の学びにもつながる仕組みになっています。

東工大生の中には、自分はリーダーの器じゃないと思っている学生が多いようです。でも、今の時代に求められるリーダシップというのは、カリスマ性ではなく、自分の持ち味をチームの中で生かせる能力です。GSAプログラムでは、そうした個性あふれる多様なリーダーシップをもった専門家を育てていきたいと考えています。

リベラルアーツは社会との架け橋
専門を究めた人の「生きる力」となる

室田 真男 教授

リベラルアーツとは、一言でいえば、専門と社会をつなぐ架け橋。専門の知識なり技術を社会に応用していくスキルや力、考え方を身につける学問であると考えています。それは研究者、技術者として長い人生を全うしていくうえでのベースとなるもの。「生きる力」といってもいいでしょう。

一方で、私の教える教職課程には、研究者・技術者ではなく、教職を目指す学生もいます。ある分野の研究を究め、それを人とのつながりの中で応用できる専門家が教職につくことは、真に科学の面白さを伝える意味でも社会的意義のある選択だと思います。

それには、まず自分の専門を持つこと。幸い、東工大には幅広い研究の選択肢があり、これだと決めた好きなことをとことん探求できる環境が整っています。学生時代の私自身がそうであったように、研究することの喜びや充実感、ワクワクする気持ちを、東工大で存分に味わってもらえたらうれしいですね。

Profile

室田 真男 教授

研究分野 教育工学

室田 真男 教授

1986年東京工業大学工学部電子物理工学科卒業、1991年同大学大学院博士課程電気電子工学専攻修了。工学博士。1991年から6年間株式会社東芝 研究開発センターに勤務。1997年より東京工業大学 大学院社会理工学研究科 人間行動システム専攻助教授。2011年7月~11月オレゴン州立大学客員研究員、同年8月フィンランド ユヴァスキュラ大学客員講師、2012年東京工業大学社会理工学研究科 人間行動システム専攻教授。2016年4月より現職。教育工学の研究および教育に従事する。リベラルアーツ研究教育院では、GSAプログラム実施院長としてリーダーシップ育成にも尽力。東京工業大学サッカー部監督/顧問。所属学会に、日本教育工学会、電子情報通信学会、教育システム情報学会、大学教育学会、IEEE (The Institute of Electrical and Electronics Engineers)、ACM (Association for Computing Machinery)など。2011年、電子情報通信学会 情報・システムソサイエティ 活動功労賞受賞。

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