リベラルアーツ研究教育院 News
リベラルアーツ研究教育院の池上彰特命教授が、東京科学大学の新入生を対象にあらゆる疑問・質問に答える「放課後授業」を2025年4月14日に実施しました。本イベントは、学士課程1年生全員が履修する「立志プロジェクト」の第一回目を担当した池上先生の動画講義を聴講し、授業でグループディスカッションが行われた日に開催。池上先生は学生たちと直接交流し、質問に答える機会を設けました。
冒頭、池上先生は「授業をすることは教える側にとっても大きな学びがある。思いもよらない質問を受けることで新たな発見があるものです。なので、今日は双方向の学びの場であってほしいと思っています」と会場に集まった新1年生に向かって挨拶しました。
学生達から寄せられた10の質問は、時事・経済問題から個人的な悩みまで、実にさまざま。特に、入学した大学生活に期待を持ちながらも実際に何を成すべきか? 将来に備えて何をすればいいのか? という学生ならではの不安や戸惑いを吐露する内容が寄せられました。池上先生は自身の学生時代を振り返り、当時の時代背景なども丁寧に説明しながら、ひとつひとつ応えていきました。そのいくつかをご紹介します。
新1年生からの質問
「大学時代にやって良かったことは?」
池上先生: 大学紛争で授業がない中、独学の方法が身についた。せっかく入学したにも関わらず、学生運動による大学封鎖など日常的な混乱に直面することになったので、同級生で集まって自分たちで学び始めた結果、それが「社会人になっても継続して学び続けられるスキル」となった。基本的な英会話力は、記者時代に取材対象者を待つ間に読んだ英会話の本で身に付けた。受け身ではなく自分で学ぶことが大切。
「読書について」
池上先生: 読書は実際に経験できないことが得られるだけでなく、自分の辛い時には逃げる場所となり支えとなった。実社会で何とか生き抜こうとしても、時として闘えない時もある。自分を装うことなく付き合える人やバカ話ができる気の合う人など、自分にとって居心地の良い場所と同じように、本は逃げるバーチャルな場所になる。
「人生で軸となるようなことが必要か?」
池上先生: 人生の核となるモノや軸が若い時に持てればいいが、それはムリなのでは。私の軸は、還暦を迎えて初めてできた。学生時代は思い悩むことばかりで挫折の連続だが、そういった経験や自分のコンプレックスなどを、自らを成長させるバネにしてほしい。
「高校までの授業で近・現代史を学ぶ時間が少なかったので不安です…」
池上先生: イデオロギーに基づいた歴史がでてくるのが現代史。書かれている内容について、それぞれの立場から批判されないよう、受験勉強では年代と出来事を暗記するだけの勉強になってしまっている。しかし、これからは本を読んだりして、歴史はストーリーとして学ぶことができる。単純に起きた事実を覚えるということではなく、異なる史実や概念から類似点があることを見出すといった“アナロジー”思考で歴史を捉えてみてはどうか。
『歴史は繰り返さないが韻を踏む』── その通りではないが、同じようなことが起こるということ。つまり歴史から学ぶとは、過去の失敗からどう教訓を得るのかということ。それはグローバル社会の現在こそ重要だ。SNS時代、情報を客観視し、出典先をきちんと確認することは、歴史を学ぶ際にも共通する。ネット上での過激なひとつ論調に惑わされることなく、さまざま状況や情報の出どころを確認し真実を見極めていこう。
「将来の選択肢について、いつごろ見極めて絞ったらいいのでしょうか」
池上先生: その悩みはあなただけじゃない。大学生の多くが悩んでいること。大学は科目数も多くいろんな学びができるところだから、私自身も経済学の専門分野で悩んだことがある。しかし、嫌なことも含めてやっているうちに、自分の得意分野がわかってくるもの。特に東京科学大学となってから、医歯学系と理工学系が統合したのでさまざまな可能性がある。みんなはそのタイミングで在学しているから、ある意味ラッキー。焦る気持ちもわかるけど、友人と焦りを語り合いながら学んでいくことが大切なんじゃないか。