リベラルアーツ研究教育院 News

演劇鑑賞+トークを開催

~『ともにゃの部屋~黒田真史さん~』を上演~

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2024.02.09

世田谷パブリックシアターの俳優陣が、黒田真史さん(中央)の人生を演じる

世田谷パブリックシアターの俳優陣が、黒田真史さん(中央)の人生を演じる

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院(ILA)は、世田谷パブリックシアターの皆さんをお迎えして、2024年1月4日にイベント「演劇鑑賞+トーク」を開催しました。公演には、演目『ともにゃの部屋』の制作のきっかけになった、高次脳機能障がいを持つ黒田真史(くろだまさし)さんも出演するほか、トーク企画に参加しました。

■『ともにゃの部屋 ~黒田真史さん~ 』について

世田谷パブリックシアターが、高次脳機能障がいを持つ黒田真史さんと一緒に作った演劇作品。黒田真史さん(46歳)は、18歳の時に交通事故で脳の右半分が飛び出るほどの重傷を負い、動くことも発話することも叶わない高次脳機能障がい者となりました。しかし、1つ1つ出来ることを積み重ね、絶望の淵から人生を歩んできました。そうした自分の人生を伝えたい、表現したいという黒田さんの思いを受け、黒田さんと俳優たちがつくりあげたのが『ともにゃの部屋~黒田真史さん~』です。共生社会について考える演劇作品として小中学校を中心に全国で巡回公演中です。


交通事故で3カ月半意識不明に。動かせるのは右手の親指だけ。「これから僕はどうなるの?」黒田さんの人生をユーモアたっぷりに紹介

演劇にして紹介する演目

イベントの前半は、世田谷パブリックシアターの方々が黒田真史さんと共に創作した劇『ともにゃの部屋~黒田真史さん~』を上演。黒田真史さんのこれまでの人生や、どんな毎日を過ごしているのかを演劇にして紹介する演目です。交通事故に遭うまではヒップホップに夢中でダンススクールにも通う、ちょっとヤンチャだった黒田さん。小さいころから体が丈夫だったのに、交通事故に遭い3カ月半は意識不明の状態になり、そして重度の障がいを持つ体に。
2年間の入院を経て在宅看護になり、リハビリ施設に通い始めてケアセンターのスタッフがサポートしてくれるようになると、身体が動かせない中でも、好きなことや、やりたいことがあることをわかってもらいながら、少しずつ社会との接点を持ち始めた黒田さん。栄養チューブを外し、電動車いすに乗り換え、行動範囲を拡げ、買い物にも一人で出かけるように。スマホで意思疎通を図りながら、飛行機で旅行に出かけ、ケアセンターで掃除を手伝ったりする日常を、俳優たちが生き生きと演じながら紹介。劇の最後には、黒田さんが仲間にメールを送るときに、いつも書き添えている言葉が最後に紹介されました。

「未来を良くするために、今をがんばる黒田です。自分なりに、ね」


高次脳機能障がい者の自分のできる形で社会とコミュニケーションをとる。障がい者との共生社会を、演劇を通して考える

トーク企画に参加する関係者

公演後のトーク企画に参加する俳優陣たちと黒田さん(上段)、世田谷パブリックシアター劇場部で企画を担当する恵志美奈子氏(下段左)と、司会を担当したリベラルアーツ研究教育院の高尾隆教授(下段右)

イベントの後半はトーク企画として、来場した参加者同士で感想を共有したり、演じた俳優たちと黒田さんへの質問する時間を取りました。

まず、世田谷パブリックシアターで企画を担当する恵志美奈子さんが『ともにゃの部屋』について、対話のなかから相手の言葉を聞き、書き留める「聞き書き」をベースに作られた創作劇であると説明しました。「聞き書き」は、話を聞く側がどのように話を受け止めたかを思い出しながら、自分が大事だと思ったり、心を動かされたところが記録として残される点が単なる文字起こしとは異なる点だと指摘。対話した俳優たち自身が記録のエピソードを突き合わせながら即興で演じ、セリフを加えていくことを繰り返して演目を作り上げていくとのことで、『ともにゃの部屋』の黒田真史さん編も、黒田さんへの「聞き書き」をベースに創作されたものと説明しました。そして、その手法で作られたからこそ「俳優たちは、黒田さんを演じているだけでなく自分たちの話として演じることができる」と述べました。


関係者との討議

また、『ともにゃの部屋~黒田真史さん~』は、文化芸術による子供育成推進事業(文化庁)の舞台芸術等総合支援事業(学校巡回公演)制度を利用し、子どもたちに「障がい」に対する理解を深め、どのように向き合うべきかを考えるきっかけを作れるように、日本全国の小中学校を黒田さんと一緒に巡回中であることが紹介され、観劇した生徒からの感想や黒田さんへのメッセージなども俳優たちから共有されました。

黒田真史さん

質問コーナーでは、「障がいがある方をサポートするために必要なソフトウエアはどんなものがあるか」といった東工大生らしい問いがある中で、意思を伝えるコミュニケーションアプリなどのニーズが高いこと、障がいの状況に合わせたサービスのカスタマイズ化が必要であるものの、それらは汎用性のある身近な端末で提供されるのが望ましいなど、障がいを持つ方々が日常を過ごすために必要なリアルな情報が紹介されました。

また、さまざまな質問がでる中で黒田さんは「障がいを持った自分が嫌いだった」と、かつての自分の胸の内を吐露。でも「今は世田谷パブリックシアターのみんなと、こんなことをしていると正々堂々と言える」と語り、医療が進化して親指以外も動かせるようになったら「ギターを弾いてみたい」と意欲を見せました。最後に黒田さんからの次のメッセージで、イベントは終了しました。

「『ともにゃの部屋』の劇を観た僕の中に“感謝”しかなくなり、パブリックシアターさんと過ごす時間が、愛おしく感じるようになりました」

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