リベラルアーツ研究教育院 News

異文化を知ることは、自文化を知ること。留学生と日本人学生の交流を支援したい

【異文化間教育心理学・日本語教育】小松 翠 講師

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2020.04.28

小松 翠 講師

理系のロジカルな考え方は
語学学習にハマりやすい!

2019年4月、東工大の日本語教育に加わりました。私が担当する主な授業は、留学生を対象とした日本語の初級クラスです。

具体的には、大学院生向けの「Basic Japanese」、GSEP(融合理工学系国際人材育成プログラム)の授業、サマープログラムやウィンタープログラムなど東工大に短期留学している海外からの留学生を対象にした「サバイバルジャパニーズ」の授業とコーディネートを行っています。

東工大の学生数は約10400人、そのうち留学生は約1800人です。博士課程になると5人に2人が留学生になります。アジア系の留学生の割合が多いですが、計79か国とさまざまな国から留学生が集まっています。

ちなみに、大学院に留学した学生の場合、日本語は0レベルから学ぶ人が多いです。また、一口に日本語教育と言っても、留学生が日本語を学ぶ目的やニーズはそれぞれ違います。このため、なるべく多様なニーズに対応しながら、日本語を教える必要があると感じています。たとえば、サマープログラムなどの短期留学生の場合、日本語を学ぶことに加えて、日本語の勉強を楽しみたいというニーズがあります。そこで学生たちを学内の食堂や生協に連れて行き、日本語でお買い物体験をさせる活動なども行っています。この活動は留学生からも好評です。

2016年にスタートした海外からの学生たちを対象としたGSEPというプログラムでは、講義は全て英語で実施され日本語能力の入学要件が取り払われています。GSEPの学生たちは大学での日常生活や学習面では日本語を使う必要性は低いのですが、日本人との交流や将来のために、日本語を学びたいという学生が多く、GSEPの留学生のみを対象とした日本語講義を実施しています。この授業では、日常生活ですぐに使えるような日本語会話を中心に教えていきます。

私が東工大に赴任してちょうど1年ほど経ちますが、全体的に東工大の留学生は真面目な努力家が多く、特に大学院生となるととても落ち着いていて、礼儀正しい学生が多いと感じます。それに日本語をとても教えやすい。そう感じるのは、理工系の学生は語学学習と相性がいいということが関係あるかもしれません。語学習得ではそれぞれの言語の文法をロジカルに理解することですが、論理的思考を磨いてきた理工系の学生は、語学の文法の理解が概して早いんですね。こちらがロジカルに教えるときっちり理解してくれます。

ただ、文法への理解が良いからと言って、単に文法を詰め込むような授業にするのではなく、色々な出身国・出身地域からきた留学生同士が安心して交流できるようなクラスを創ることも重視しています。留学生同士だからこそ留学生活の苦労を分かち合い、励まし合えるところがあります。留学生が日本語を学ぶという共通目的のもとで研究生活のプレッシャーから離れて、ひと時の安らぎを得る場としても日本語の授業は必要だと思っています。

相談を通して
留学生のコミュニケーションの悩みにも向き合う

小松 翠 講師

日本語教育と並んで、留学生相談が私の大きな仕事です。留学生の日本語学習をサポートする「にほんご相談室」で、相談員として留学生のさまざまな相談に乗っています。相談の内容は、レポートや奨学金の申請書、履歴書、エントリーシートなどの書き方から、就職面接の練習、日本語能力試験の勉強に関すること、日本語の授業の履修についてなど、多岐にわたります。教養卒論の課題である日本語の論文作成にあたってGoogle翻訳に頼って滅茶苦茶な文章になってしまった留学生が、担当の先生に紹介されて「どうすればいいですか」と相談にきたこともあります。

日本語に関する相談として話をしていく中で、留学生の大学での日常生活や日本人との交流など様々な問題に触れていくことも多いです。留学生にとって、日本語の悩みと大学生活上の問題は切り離せないものです。

「日本人の学生とどうしたらコミュニケーションがとれますか?」という相談も多いです。こういうときは、留学生の気持ちを受け止めながら、日本人同士でも忙しくしていてコミュニケーションをとっていない場合もあることや、研究室によってコミュニケーションの取り方も異なることなど現状を伝えています。それから、もう少し大きな枠組みでの違いとして、問題の背景にある文化的な要因について留学生と一緒に考えたりもします。

留学生が日本人学生と一緒に食事をしたいと思っていても、なかなかそれができない場合もあるんですね。それは、単に日本人学生が冷たいということではなく、文化の違いが関係している場合もあります。日本では、大学で一人で食事をしていても周囲はあまり違和感を持たないと思いますが、他の国では、一人で食事をしている学生がいたら周りの人はとても寂しい、孤独な人だと感じることがあるそうです。こうしたことから、留学生が日本人学生を誤解している場合もあります。

これは東工大に限らないことですが、留学生は日本人学生とのコミュニケーション不足の原因を自分の日本語能力の低さにあると考える場合もあります。自分の努力によって状況を改善しようとしている留学生をにほんご相談ではサポートしていきたいと思っています。ただこれは、本当は留学生側だけではなく、東工大の日本人学生のコミュニケーション問題でもあります。東工大のようなグローバルなキャンパスでは特に日本人学生が留学生に歩み寄る姿勢が必要だと思うのです。一朝一夕に解決できることではないですが、留学生と一緒にコミュニケーションの問題を考えていきたいと思っています。

私は現在、学生相談室の留学生相談員も務めています。留学生を孤立させないように、今後は必要に応じて学内の色々な相談部門につなげていくこともできればいいなと思っています。

原点は学生時代に飛び込んだ
国際交流グループの活動

小松 翠 講師

私が学生時代から取り組んできた研究は、留学生と日本人学生の交流上の問題とその解決についてです。きっかけは、出身大学で学内の国際交流グループに入り、そこでの留学生との交流活動にどハマりしたことです。

私が所属していたグループは、大学の留学生支援の一環として設立され、学部生を中心に交流合宿やランチトークのほか、学内外でさまざまな活動を自発的に行っていました。留学生と日本人学生の垣根は勿論のこと、学年による厳しい先輩後輩の垣根もなく、低学年の頃から積極的に中心的な活動ができる自由な雰囲気でした。そういった交流実践に始まり、交流グループの支援、留学生相談の活動、留学生と日本人学生の交流型の授業を担当してきました。こうした経験をしていく中で、留学生と日本人学生の交流を妨げている問題がどこにあり、どうすれば改善できるのかということに関心を寄せ、研究してきました。

現在は留学生と日本人学生のリーダーシップに着目した研究も始めています。日本人学生と留学生が一緒に取り組むグループワーク中心の授業を行っているうちに、日本人学生と留学生とではそもそもリーダーシップに対する認識が異なるのではないかと感じたことが発端です。

たとえば、私が以前勤めていた大学では、日本人学生の場合、必ずしも前に出ることだけがリーダーシップではないと考えている人が結構多い。メンバーの話を聞いてうまくまとめる、調整できる、といったことをリーダーシップだと考えている。一方、留学生は、リーダーにもっと積極性を求めていました。日本人学生はメンバーに対し平等であることを重視し、一方、留学生の場合、「これは自分の仕事」と思うことについてはリーダーが率先して動く。そんな違いもあります。

ただ、リーダーシップについては、日本人学生と留学生の違いだけではなく、年齢や性差や専門分野などさまざまな属性によっても違いは出てくると思います。今後は東工大での研究を通し、東工大ならではの特徴を把握し、教育に役立てていきたいと思っています。東工大ではリーダーシップ教育も重点的に行われていますので、親和性が高い研究だと思っています。

留学生との交流を深める“鉄板レシピ”はない。
それが面白さでも難しさでもある

小松 翠 講師

人と人との交流はどのようにすれば深められるのか。こうすればうまくいく、という“鉄板レシピ”はありません。それが面白いところでもあり難しいところでもあるんじゃないでしょうか。おいしい料理を作るのに、素材の持ち味を知ることが大事であるのと同じように、人や集団を知ることが交流を促進させるための仕掛けづくりには必要です。

例えば、日本人は飲み会で親睦を深めることが今も昔も多いですが、海外では国によっては宗教上の戒律からお酒はタブーという場合もありますよね。では、双方が楽しめる交流はどのように行えばよいのか、私は昔からこういうことを考えて、やってみるのが大好きです。国や宗教の違いだけではなく、同じ国の人同士でも志向性によっても“交流を楽しむ”レシピは変わってきます。

ある集団の人たちに対してはコラボレーションのための異文化間交流ゲームが有効であるのに対し、また別の集団では、ディスカッションを中心とした活動が好まれる、というような違いも経験しています。また、料理は下ごしらえから始まり、素材を洗ったり切ったり、煮たり焼いたりと様々な過程を得てできあがりますね。それと同じように、友人になるためには、一気に濃密な交流を目指すのではなく、小さなステップを作っていくことが重要です。現在担当している授業や相談の現場は、東工大の留学生と日本人学生が友人として関係を深めるレシピづくりのためのヒントを得る場所にもなっています。

東工大では、2020年10月に学生向け国際交流拠点「Hisao & Hiroko Taki Plaza」がオープンします。こちらの図面を見た時、正直わくわくしました。留学生交流課の方から、どういうものを準備したら交流しやすくなるか聞かれたことがあったので、かるたなど日本の伝統文化や言葉にこだわったものだけではなく、トランプやチェスなど、言葉がなくても交流できるものを提案しました。留学生と日本人学生の双方が興味を持つ媒体を設置することも重要だと思います。デジタルなゲームもどんどん取り入れられたら、と思っています。東工大生の得意分野ですしね。

2019年度後期からは、森田淳子先生が中心となり、ランゲージパートナーの活動も始まりました。にほんご相談の時間に交流に関心のある学生たちが日本語での気軽なコミュニケーション支援をする活動です。異文化交流は、単に機会を与えるだけでは何も起こりません。私の研究でも、留学生と日本人学生をつないでくれる、媒体になれる人の存在が重要であることが示されています。

ランゲージパートナーにはそういう存在になってほしいと思っています。それから、日本語セクションでは国際交流活動も行っていますが、東工大の茶道部の日本人学生にお願いし、留学生に茶道を教えてもらうイベントも行っています。このイベントがきっかけとなり、短期留学生が茶道サークルに入ったこともありました。学内のサークル活動とも連携して、そういうサポートもしていけるといいですね。

東工大は国際交流に関心を持っている学生が少ないと聞きますが、私が最初に国際交流グループに入ったときも、そんなに国際交流に関心があるわけではなかったんです。まだ、グループに入るか迷っていた時に、留学生や日本人学生の先輩たちが「どうぞ、どうぞ。入って」と優しく招き入れてくれたからに過ぎません。だから、交流に最初から積極的な人だけではなく、興味はあるけど一歩踏み出すのが難しい、どういうふうに入っていけばいいかわからないという人も自然と入っていけるような、そういう支援をしていきたいと思います。、2020年度からは、SAGE(東京工業大学国際交流学生会)の顧問を務める予定なので、これまでの経験を活かし、交流をサポートしたいと思っています。

留学生と日本人学生が日常的な交流を継続的に続けることは実は簡単ではありません。必要とは限らない場合もあるかもしれません。それでも、ことばを通し、ことばを超えた心と心のふれあいを感じる喜びや感動をぜひ東工大生にも味わってほしいと願っています。

頭だけで考えず体験を通して知ることが、異文化理解ではとても重要です。異文化間交流を通して、相手(異文化)を知ることは、自分(自文化)を深く知ることにもなります。好奇心を持ち、不確実なことや、やってみないと結果が分からないことにもぜひ飛び込んでほしいですね。

Profile

小松 翠 講師

研究分野 異文化間教育心理学・日本語教育

小松 翠 講師

お茶の水女子大学文教育学部卒業、同大学院人間文化創成科学研究科博士前期課程日本語教育コース修了、同博士後期課程国際日本学領域修了。2015年10月~2018年8月、同大グローバルリーダーシップ研究所特任講師として異文化間教育、キャリア教育等を担当。2018年9月~2019年3月、東京大学工学系日本語教室特任助教(日本語教育)。2019年4月~現職。北京の大学で2年間、日本語教師を務めた経験も持つ。学生時代に加わった国際交流グループの経験から、研究とともに交流支援、留学生相談に積極的に取り組んでいる。2020年度は「東工大立志プロジェクト」を担当予定で、留学生と日本人学生の協働活動のサポートにも力を入れたいと考えている。

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