リベラルアーツ研究教育院 News
7月22日、東京工業大学は大岡山キャンパス西9号館のディジタル多目的ホールにて、「2021(令和3) 年度優秀賞受賞者による教養卒論発表会」を開催しました。学士課程3年生の2021年度に教養卒論を書き、優秀賞に選出された36名のうち、16名が参加し、自身の論文の内容や経験について発表しました。
この発表会は2019年に始まったものですが、新型コロナウイルス感染症の拡大のため、3年ぶりの対面での開催となりました。
「教養卒論」とは、学士課程3年目の秋に履修する必修2単位の文系教養科目です。学生はその授業の中で、入学後3年間、あるいは編入1、2年後のリベラルアーツ教育の集大成として、5,000字から10,000字の論文(教養卒論)執筆に取り組みます。
授業では、学生が自分の論文を書くだけでなく、「ピアレビュー」という形でお互いの文章を読み合い、対話を通して文章を練り上げていきます。さらに、認定証を授与された大学院生がGSA(External site)レビューアーとして授業に参画し、教養卒論の執筆をサポートしています。
発表会当日は、学士課程1~3年目の学生のほか、教養卒論を執筆した学士課程4年目(学士課程の早期修了者は修士課程1年目)の学生、修士課程の学生、教職員、一般社団法人蔵前工業会(本学の同窓会)やマスコミ関係者の方々など、計100人以上が集まりました。
時間 | プログラム |
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17:30 - 17:40 | 開会のあいさつ(山崎太郎リベラルアーツ研究教育院(ILA)院長) |
17:40 - 17:50 | 授業趣旨の説明(弓山達也ILA教授) |
17:50 - 19:40 | 優秀論文賞受賞学生による発表 |
19:40 - 19:55 | 講評(益一哉学長、井村順一教育担当理事・副学長) |
19:55 - 20:00 | 閉会のあいさつ(三ツ堀広一郎ILA教授) |
発表会の冒頭、リベラルアーツ研究教育院(ILA)院長の山崎太郎教授が開会のあいさつをしました。教養卒論を書き上げたことが、学生個々人の財産となると話した山崎教授は、『教養卒論 優秀論文集』に掲載された論文は、本学の大きな財産であり、各論文のテーマの多様さや文章の見事さ、そして「優等生的ではない、溢れる個性」の存在を指摘し、楽しみながら思考を深め執筆した結果であろうと述べました。
続いて、授業「教養卒論」ワーキンググループのメンバーで、本学の評議員も務めるILAの弓山達也教授が授業の概要とねらい、特徴について説明しました。
教養卒論の特徴として、弓山教授は、東工大立志プロジェクト※の授業で同じクラスだったメンバーが2年半ぶりに集まること、そして、大学院生がTAや研修生として授業に加わり学士課程学生をサポートするという「学びのコミュニティ」の存在を挙げました。
授業のねらいとして、専門教育と教養教育の融合、アカデミックライティングスキルの向上、そしてグループワークやピアレビューによって対話的・協働的に論文を書いてもらうことで、自分の問題意識や課題に肉薄することを挙げました。
また弓山教授は、「もっと早くにこの授業を受講したかった」、「初めてこれだけ長い文章を書いた」、「学士特定課題研究に生かしていきたい」といった学生の声を紹介しました。
※ 東工大立志プロジェクト:学士課程1年全員が、入学直後の第1クオーターで履修する必修科目。大講堂での講義と少人数クラスでの対話を行き来しながら学ぶ。
16名の優秀賞受賞者により、自身の体験を理論的に裏づけようとするものや、ポップカルチャー、若者文化に関するもの、歴史認識に関わるもの、文芸批評や、インタビューをもとにした考察、数理的なアプローチに基づくもの、地理学的探究など、多彩なテーマについて、多様なアプローチから書かれた論文の発表が行われました。
奥村拓実(理学院 物理学系)
子ども至上主義を打ち壊す
塩澤理紗(情報理工学院 情報工学系)
名探偵コナンで平成を振り返る―平成時代の技術発展が作品に及ぼす影響―
渡部晃子(環境・社会理工学院 融合理工学系)
融合理工学系って何?―教授・学生71の生の声から―
柏倉キーサカリル(理学院 地球惑星科学系)
若者がインスタグラム利用時に疲れ・孤独感を感じるメカニズムとその対処法
篠田達也(生命理工学院 生命理工学系)
日本人とアメリカ人の核認識の違いから異文化理解を考える
森英寿(理学院 地球惑星科学系)
生産性至上主義に対する抗弁
北川翔(工学院 機械系)
自立した教養の修得の必要性と東京工業大学学士課程におけるリベラルアーツ教育の課題
三谷真太朗(生命理工学院 生命理工学系)
楽な娯楽は楽しいですか?
中野新太朗(理学院 物理学系)
数学が見る夢
佐藤環(理学院 地球惑星科学系)
『仮面の告白』を踏まえて考える、性・生の可能性
深澤元喜(生命理工学院 生命理工学系)
鑑賞と制作から見る芸術―わたしの作品を通して考える芸術という行為―
ヨム・サンウン(Yeom Sang Eun)(理学院 化学系)
新しい言語を習うということ
上田拓海(工学院 電気電子系)
アイドル歌謡半世紀の変化
佐藤隆(理学院 地球惑星科学系)
大岡山周辺の遺構について
ジャン・ジェイ・ヒョ(Jang Jae Hyo)(環境・社会理工学院 融合理工学系)
科学とリベラルアーツ、そして両者の相関関係に関する考察
イェフダ・ハモナンガン・シダブタール(Yehuda Hamonangan Sidabutar)(環境・社会理工学院 融合理工学系)
オープンコラボレーションとその未来
※ 発表順、敬称略
益一哉学長は、何を書いても良いという制約がない「教養卒論」は、逆に文章を書く上では難しい条件となり、そのなかで多角的に試行錯誤し取り組んだ、この論文・発表の経験が必ず今後役に立つだろうと指摘しました。その上で、これから教養卒論に取り組む学生は、真っ白なキャンバスに書くことを楽しんで欲しいと期待を寄せました。
井村順一教育担当理事・副学長は、慣れない対面での発表を無事終えたことをねぎらった上で、どの発表も素晴らしいものであったと評価しました。学士課程時代に、自分が何者であるかについて多角的な側面から検討することは、自分が何を求めているかを知ることになり、そのため、今回の教養卒論執筆の経験が専門研究にも繋がるだろうと述べました。
最後に、ILA教育担当副院長で、「教養卒論」ワーキンググループのメンバーでもある三ツ堀広一郎教授が閉会のあいさつをしました。三ツ堀教授は、教養卒論の意義として、言葉を使う力を鍛え身につけ、言葉を使う難しさと言葉に対する畏れを知ることで、言葉の力を信じられるようになると話しました。続けて、この発表により発表者が言葉を使う力を身につけていることを知り、教養卒論という科目を実施していること、リベラルアーツ教育を行なっていることの意義を確信したとあいさつを締めくくりました。
2022年度は開催時期等の関係で発表会に参加できなかった優秀賞受賞者の学生も多くいましたが、2023年度は、時期や回数を見直し、より多くの発表をたくさんの方がご覧になれるよう開催していく予定です。