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目指せ、グローバル理工人!

【英語学、言語学】石原 由貴 教授

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2020.02.26

石原 由貴 教授

英語好きが高じてアメリカに留学
生成文法との出会いから研究者の道へ

私の専門は言語学です。英語をはじめとする様々な言語を、主に「生成文法」という枠組みの中で研究しています。

生成文法とは、1950年代にノーム・チョムスキーが提唱した理論で、人間は生まれながらに「普遍文法 (Universal Grammar)」と呼ばれる言語機能を備えている、という考え方に基づいています。赤ちゃんは、周囲から体系的に教えられなくても、当たり前のように言語を習得していきます。自然言語なら世界のどんな言語でも。言語の習得は、周囲から教わったり、他人を真似したり、という経験論によるものだ、と言われてきたのに対し、チョムスキーは、外部から得られるデータが不完全でも、子どもが実にすばやく母語を習得するのを見て、生成文法という理論を打ち立てました。

世界には多様な言語があります。一方、すべての言語には共通する普遍性が存在する。こうした言語の持つ多様性と普遍性に着目して研究を続けてきました。それぞれの言語に内在する規則性、すなわち文法への興味はいまだ尽きることがありません。最近では、文の構造だけでなく、感嘆や疑問、強調といった文が談話の中で果たす機能についても研究を広げています。

私がこの分野に進むことになったきっかけは、中学・高校時代の英語教育にあります。中高一貫の私の母校では、ダイレクトメソッド(直接教授法)といって、英語で英語を教える授業を行っていたのです。当時の私は外国人の先生と英語で話すのがとても楽しく、その言語や文化にもっと触れたいという思いから、高校時代1年間ニューヨークへ留学することができました。そこで素敵なホストファミリーと出会えたこともあって、英語にどんどんのめり込んでいきました。その後、進んだ大学の英文科で生成文法に出会い、現在に至るというわけです。

ちなみに、かつてお世話になったホストファミリーとは、40年近く経った今も親交を続けています。私が学生たちに留学を勧める理由は、この得がたい経験があるからなのです。

専門とは違う分野のことも
貪欲に学び、知ってほしい

私が東工大に着任したのは1994年。以来、英語の教育を担当してきました。2016年からはリベラルアーツ研究教育院に所属しています。それまでは外国語研究教育センターという外国語の教員だけの組織にいたので、多様な専門やバックグラウンドを持つリベラルアーツ研究教育院の先生方との交流には、おおいに刺激されています。自分ももっと視野を広げていろんなことに関心を持って学んでいきたいと考えるきっかけになりました。

「東工大立志プロジェクト」をはじめリベラルアーツ研究教育院のコア科目では、コミュニケーションを重視した指導を行っています。その成果の賜か、英語の授業でも積極的に発言をしたり質問の手を挙げる学生が以前より増えてきたように感じます。

私自身も、教養科目のひとつである「教養先端科目」を担当しています。これは博士課程の学生を対象としたコアカリキュラムです。直近の授業では、国連が提唱する「持続可能な開発目標=SDGs」の17ゴールの中から1つのトピックを取り上げ、グループでディスカッションをしています。全4回の授業を通して、討論した内容をもとにポスターを作成し、最後に発表をしてもらいます。グループの中には必ず留学生を入れ、討論や発表は英語で行うのが特徴です。

博士課程ともなると、学生たちはより専門性を究めることになります。学生も東工大からの進学者だけではなく、他大学からの進学者や世界各国からの留学生、社会人の方も数多くいます。日々研究や仕事に没頭するなかで、ときには自身の分野とはかけ離れたより広い世界のことを考え、自己や社会を見つめ直す機会を持ってほしい。この授業には、毎回そういう気持ちで臨んでいます。それが東工大や私たちが育成を目指す、「グローバル理工人」への第一歩につながると信じているからです。

しゃべるのは、間違いを恐れずに
書くのは、徹底的に論理的に

石原 由貴 教授

リベラルアーツ研究教育院では、英語の授業を担当しています。

東工大生には、英語をはじめ語学に苦手意識のある人たちが少なくありません。「英語が得意だったら、東大に進学していました」という学生や、「英語がわからなくても数字があれば、専門分野では伝わるから大丈夫です」と豪語する学生もいます。

でも、将来科学や技術の最先端で活躍する東工大生にとって、英語にしろ日本語にしろ、語学力はとても重要なんですね。必須といっても過言ではありません。卒業後の企業や学会の場ではもちろん、学生であっても英語論文の読み書きや発表などの機会は多いのです。科学や技術の世界に国境はありませんから、英語とは生涯縁が切れません。ならば、英語を好きになって、得意になって「グローバル理工人」になってほしい。

授業では、学生たちの学習モチベーションをまず高めるようにしています。コミュニケーション力や国際意識を醸成するために、英語のニュース素材やドラマ教材を使ったり、ディスカッションの時間を設けることもあります。スピーキングでは、小さな間違いを気にせず、とにかく自分の言いたいことを伝え、会話を成立させることを優先させます。

その一方で、ライティングでは正確に記述することを重視しています。私の専門が文法、ということもありますが、文法に則った文を書いてほしいと思います。また、読み手に自分の考えが伝わる文章を書くために、ライティングの授業を通して、文章の論理的な組み立て方をしっかり学んでほしいと思っています。

語学の習得は、楽器やスポーツと同じで、毎日の積み重ねが大切です。日々英語に触れ、使い続けることが上達の近道です。とは言っても、地道にこつこつと訓練を続けるにはかなりの精神力が必要で、途中で投げ出したくなってしまうこともままあります。私が学生たちによく伝えるのは、「とにかく海外に出てみてください」ということ。

東工大では、世界で活躍する科学者や技術者の育成を目指した「グローバル理工人育成コース」を用意しています。私もコースの委員のひとりとして多くの学生たちの語学学習や海外研修をサポートしてきました。このコースには海外研修が修了要件に入っているのですが、短期間でも海外で自分の力を試してきた学生には、何かしらの変化や成長が見られます。海外研修前の事前学習のときにはしんと静まりかえっていた教室も、帰国後は明るくにぎやかな笑顔と会話であふれ返るようになります。この海外研修での経験をきっかけに国際人として目覚め、もっと本格的な留学をする人や、国際協力の現場に興味を持ち、JICAに就職して海外で活躍している女性もいます。

かくいう私自身も、高校時代の留学体験がなかったら、今の仕事に就いていなかったかもしれません。海外研修や留学は、人生そのものを変えるチャンスを秘めた貴重な経験。機会があれば、学生のうちにぜひチャレンジしてほしいですね。

自分や日本という殻を破って
世界に羽ばたき、冒険しよう!

グローバル理工人に必要なのは、卓越した専門性と地球規模の思考を育む旺盛な知識欲。語学力ももちろん大切ですが、何より海外諸国の研究者たちと渡り合うコミュニケーション力と幅広い教養が求められます。リベラルアーツ研究教育院が伸ばそうとしているのは、まさにそのコミュニケーション力と教養です。

リベラルアーツとは、自分の価値観だけに囚われず、いろいろなものの見方や考え方を柔軟に受け入れる姿勢を促す教育のことだと私は考えています。だから、海外で見聞を広めるのもそのための有効な手段のひとつ。自分や日本という殻から抜け出して、新しい世界へ踏み出してみてはいかがでしょう。

もし間違えたり失敗したりしても、若いうちはいくらでもやり直しがききます。東工大で学ぶみなさんには、今という貴重な時間を生かして、楽しく大らかに冒険していただきたいですね。

Profile

石原 由貴 教授

研究分野 英語学、言語学

石原 由貴 教授

兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文学科卒業。東京大学大学院人文社会系研究科(英語英米文学)博士課程修了。Syntactic Doubling of Predicates in Japaneseで博士号(文学)を取得。東京大学助手を経て、1994年10月に東京工業大学に着任。言語の普遍性と多様性に着目し、統語と意味について生成文法理論に基づいた研究を行なっている。最近の研究テーマは、反復、削除、強調、焦点化、話題化等。主な共著に『理工系大学生のための英語ハンドブック』(東京工業大学外国語研究教育センター編・三省堂)、『東工大英単 ――科学・技術例文集』(東京工業大学著・研究社)、『レクシス英和辞典』(旺文社)など。

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