リベラルアーツ研究教育院 News

未来の自分の具体的なイメージを持ちながら、英語でどんどん発信しよう!

【現代アイルランド文学】薩摩 竜郎 准教授

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2020.02.17

薩摩 竜郎 准教授

授業で感じる
東工大生の発信力のポテンシャル

英語の語学授業を担当しています。

最近ちょっと面白い変化が学生側に見られます。しゃべらせると学生のノリが良く、楽しそうなのです。今の時代に求められていることであり、こちらも、しゃべらせる、書かせる、を重視して教えていますが、しゃべらせる時間を多くすると学生も楽しそうでやりがいを感じています。例えば、短いスピーチをグループでさせたり、学生が興味を持って話せるテーマを設けたりといった工夫をすると、手応えがあります。意外にユニークなアイデアを持っている学生が多く、スピーチ内容がとても気が利いてオリジナリティがあったりするんですね。

最近の授業で秀逸だったのは、1年生の英語授業でスピーチをさせたときです。1人の男子学生が「東工大のBest three 3 teachers」というスピーチを行いました。理由を説明しながらBest 3は○○先生、Best 2は○○先生と話していくわけです。聞いている学生がみんな納得するような内容で笑いも生まれます。そしてBest 1は……。想像できますよね(笑)。目の前の教員をうまくダシに使って、他の学生たちを大笑いさせるようなスピーチを英語でできるのには、少し驚きました。

東工大では25年近く英語を教えていますが、学生の気質はずいぶん変わってきました。就任当初は服装も地味で無口な学生が多かったため、語学の授業で盛り上げるのも一苦労でした。その後、ゆとり世代になると、見た目がおしゃれな学生が増えました。ただ、英語力のほうはさほど伸びていませんでした。文法などの学力はやや下がっていた感があります。それほどうまくしゃべれるわけでもない。それが、ここ5年くらい、しゃべるのも書くのもうまく、意思疎通が上手な学生が増えたように思います。これは、東工大のリベラルアーツ教育の成果もさることながら、大学進学前の中高の教育の改善も関係していると思いますね。

日本語教育でもある英語のスピーチや作文は、
なるべく楽しく!

薩摩 竜郎 准教授

選択科目のTOEFLの授業でも、なるべく面白い内容のテキストを探してきて取り組ませたいと思っています。もちろん、参考書に載っているような読解や作文の基本は一通り教えるように心がけています。最近使ったTOEFLの教科書では、"Storytelling"というテーマのユニットで、フランツ・カフカの『変身』の解説がリーディング素材に使われていました。導入部分では、桃太郎のストーリーを英語で説明するリスニング教材を聞いた後で、学生に好きな物語のストーリーを英語で書かせる構成になっています。

漫画でも映画でもゲームでも何でもいいから、と少し広げて指示をすると、クラス全員がとても集中してストーリーを執筆して、自分の好きな映画や漫画や小説のサマリーを英語で書いたのです。東工大生はこんなに物語るのが好きなのかと驚きました。いろいろな話があって楽しかったですが、多かったのは浦島太郎。次は「ドラえもん」。"The cat-shaped future robot came to Nobita’s house."などと一生懸命書くわけです。一見、幼稚に見えるかもしれませんが、構成を考えながら書くことは、英語で発信する基礎力養成にはいい訓練になります。

「英語で作文しよう」「英語でスピーチしよう」と呼びかけると、「先生、難しいです」という学生がいます。実は作文やスピーチの難しさには2段階あります。まず、英語が難しいかどうか。そもそも日本語でも難しいのかどうかです。ある内容を英語でスピーチしてみよう、というと「英語ではうまく書けません」と答える学生がいます。その学生に「じゃあ日本語でもいいよ」というと、しばらく考えたのちに「日本語でもうまく書けません」。つまり、書けなかった理由は、英語の力が足りなかったからではなくて、日本語の説明能力も十分ではなかったからなんですね。また、自分は言えると思っていても、グループで話をしてみようとなったとき、他人と比較して自分はうまく言えない、相手に伝わるように表現できていないと気づくこともあります。

そこからがスタートになります。じゃあこういう表現があるよね、こういう言い方を使おうねと言って、さまざまな英語表現を使ってみる。そうやって少しずつ身についていくと良いなと思って指導しています。

英語で書くことを前提にすると、日本語もロジカルに書けるようになってきます。一方、日本語では稚拙すぎて書けないことも、英語だと頑張ってとりあえず書けたりします。ですから、英語を意識して書くことは日本語の勉強にもなります。英語で書く練習をしておくと、日本語で書く時にもっと楽になります。自分の言いたいことを言ったり書いたりできるようになると、いろいろなことをやってみようと思えるし、やっていても楽しいでしょう?無味乾燥になりかねない授業をなるべく楽しくしながら、言いたいことを伝える力を身につけてほしいと思っています。

オスカー・ワイルドから
現代アイリッシュ文学の深みへ

薩摩 竜郎 准教授

私の研究分野はアングロ・アイリッシュ文学です。入り口はオスカー・ワイルドでした。日本でよく知られているのは「幸福の王子」「サロメ」「ドリアン・グレイの肖像」でしょうか。英語圏では、オスカー・ワイルドの劇、それも喜劇の評価が高いんですね。ロンドンやダブリンでは毎シーズン必ず何か一つは上演されるほど定番になっています。映画になったものも多く、世界文学の授業で学生に見せたら、とても面白がっていました。ベタなドタバタ喜劇だったのですが、笑った後に人間の本質を考えさせるような仕組みがあるんです。名言集も多く、気の利いたことを言うのが非常にうまい。

私がオスカー・ワイルドに興味を持ったきっかけは、彼のエッセイです。芸術が現実を模倣するのか、現実が芸術を模倣するのか、ということを、ひねってひねって、ひねくれた言い方で論じているエッセイなどがあり、非常に面白くて興味を持ちました。

イギリスのオックスフォード大学を出てから社交界や文壇にデビューしたオスカー・ワイルドはイギリス人だと思われがちですが、実はアイルランドのダブリン出身なんです。オスカー・ワイルドの源流を知りたいと思い、博士課程の時にダブリンのユニバーシティ・カレッジに1年半留学しました。行ってみると、アイルランドの現代文学が実にユニークなことに気づきました。後にブッカー賞を受賞したロディ・ドイルや、アイルランドの男性を面白おかしく風刺たっぷりに描いたエッセイ集がベストセラーになっていたジョセフ・オコーナーら、傑出した作家がたくさんいました。現代劇もレベルが高い。留学中はアイルランドの現代小説の読書や戯曲鑑賞に結構な時間を費やしました。

基本的にアイルランド人はよくしゃべります。映画でもよく出てきますが、パブでひたすら飲んでしゃべっているあのイメージそのままです。小説も話し言葉がそのまま物語になっているように感じられることがある。読みやすく、それでいて後でちゃんと考えさせてくれる。オスカー・ワイルドもロディ・ドイルもジョセフ・オコーナーもエンターテイナーなんですね。

研究者としては、オスカー・ワイルドをもう一度深く研究したいと思っています。もう一つ大きな関心を寄せているのが、アイリッシュ・アメリカン、つまりアメリカに渡ったアイルランド人の物語です。名実ともにアイルランドを代表する作家となったロディ・ドイルもジョセフ・オコーナーも後にアイリッシュ・アメリカンの物語を書いています。あんなに面白おかしい小説を書いていた人たちがなぜ、そろいもそろってご先祖様のアイリッシュ・アメリカンの物語を書くのだろうというところに興味があるのです。その研究を始めたところで事情があって中断していたので、続きをやりたいと思っています。

アメリカにおいてアイリッシュは独特のポジションです。

ジョン・F・ケネディ、ジョン・フォード、クリント・イーストウッドなど、政治、文学、エンタテインメント、さまざまな世界でアイリッシュの血を引くアメリカ人が活躍しています。アメリカでは、警官と消防士はアイリッシュというイメージがある。タフで誠実で、危険な仕事でも一生懸命やる男たち。貧しいがゆえにアイルランドから移民してアメリカで苦労して生活を始める人が多かったんですね。だからこそ、アイルランド移民たちがアメリカの地でどうやって自分の地位を確立していったか、とても興味を持っています。

リベラルアーツは「幅」
幅があるからこそ、新しい発見がある

薩摩 竜郎 准教授

私が考えるリベラルアーツは、一言で言うと「幅」です。専門の研究をさまざまなことに適用できる幅を与えてくれるもの、というイメージですね。幅がないとつまらないし、危険。特に科学技術を極めた人こそ、リベラルアーツという「幅」が広くあってほしい。科学技術の先端にいる人のリベラルアーツの「幅」が狭いのはとても危ういことです。だからこそ、東工大生には、リベラルアーツという「幅」を持ってほしい。そもそも「幅」があるほうが研究も仕事も人生も楽しいはずです。土台が大きい方が、幅が広いほうが、より高く積み上げることができます。幅があるからこそ専門でも新しいものが生み出せるのではないでしょうか。

ノーベル賞を受賞した科学者の多くが「アイデアは自分の専門からは出てこない。他の専門や違う分野から持ってきたアイデアが、自分の研究に生きることがある。だから、さまざまな分野を勉強しなさい」とおっしゃるそうのですが、本当にそうだと思います。

最後に、英語に苦手意識のある東工大生に、英語上達の秘訣をお伝えします。

将来どう使うかを具体的にイメージすることです。留学する、あるいは研究者になって論文を書く、海外の研究室に入る。そんなとき、どういう英語が必要になるのか、1年後2年後3年後の自分の未来のイメージをゆっくりでいいから具体的に考えてほしいと思います。「留学するなら、授業を英語で聞かなくちゃいけない、レポートも書く、現地でいろいろやりたいこともある、だったらどうすればいい?」と。自分が英語を使う場面を具体的に考えると、やる気が出るし、改善すべきポイントも明確になります。当たり前のことですが、授業でこの話をすると「あ、そうだったのか! 先生もっと早く教えてくれればよかったのに」と言う学生がいるので、ここにも記しておきます。

東工大生は、発信するポテンシャルがものすごくある。知力は高いし、やりたいこともある。研究テーマ、好きなことに対する探究心は深く広い。きっかけさえあれば、発信もしたくなるはず。ですから、どんどん発信しましょう、もちろん英語で!

Profile

薩摩 竜郎 准教授

研究分野 現代アイルランド文学

薩摩 竜郎 准教授

東京都出身。東京大学人文科学研究科英語英文学専攻修士課程修了。同博士課程在学中の1993~95年にアイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリンに留学。1995年、東京工業大学外国語研究教育センターに招かれ、リベラルアーツ研究教育院への組織変更の際は時間割作成などにも関わる。研究テーマは、オスカー・ワイルド研究、現代アイルランド文学。IASIL JAPAN(国際アイルランド文学協会日本支部)、日本英文学会所属。「一つよけいなおとぎ話―グリム神話の解体」(新曜社)、「ペルシャの神話」(丸善出版)の翻訳、「オスカー・ワイルド事典」(北星堂)、「20世紀世界文学辞典」(研究社)の項目執筆などがある。

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