リベラルアーツ研究教育院 News
東京工業大学の学部 1 年生の必修科目である、リベラルアーツ研究教育院の「東工大立志プロジェクト」は、東工大のリベラルアーツ教育の入口の科目です。各界で活躍するゲストスピーカーの講義を講堂で聞く大人数クラスの授業と、それをめぐって少人数クラスで話し合う授業を交互に行います。
さらに、少人数クラスでは、ひとりひとりが自分で選んだ本の「書評」を書き、互いにそれを批評しながら書き上げる時間も設けられています。
その際の、課題図書リストの一部を公開いたします。幅広いジャンルから選ばれた書籍リストは、東工大の目指すリベラルアーツ教育を理解していただくことに役立つとともに、一般の方や中高生にとっても「知」の世界への興味深いガイドとなることでしょう。
安西祐一郎『心と脳 ——認知科学入門』(岩波新書)
人間が何かを感じたり、考えたり等、「心」はどのようにはたらき、「心」は「脳」からどのようにして生まれるのか?「心」と「脳」の働きについて理解する研究分野である「認知科学」の考え方と方法、これまでに得られた知見について紹介しています。
市川伸一『考えることの科学 ——推論の認知心理学への招待』(中公新書)
人間がどのように思考し推論するか、その考え方にどのような特性があり、どのような心の中のモデルを用いて行われているのか、について認知心理学の視点から説明しています。
石牟礼道子『苦海浄土』(講談社文庫など)
文学のあらゆるジャンルを総括してもなお、現代日本屈指の作品である。水俣病に苦しむ人々の姿を描き出したこの作品を、どんなおもいで書き続けたのか、と石牟礼さんに聞いたことがある。詩のつもりで書いたと語ったあと、彼女はこう言った。「闘いのつもり。一人で闘うつもりでした。」人は、独りでも大きな何かを戦い得ることを示した人生の書。
池上彰、上田紀行、中島岳志、弓山達也『平成論「生きづらさ」の30 年を考える』(NHK 出版新書)
皆さんは自分が生まれ、育ってきた「平成」という時代がどんな時代か知っていますか?人間は社会によって作られるとすれば、自分がどこまで時代の影響を受けているのかを知ることは必須でしょう。この本では「生きづらさ」をキーワードに平成という時代を読み解いています。「昭和」の影響下で育った皆さんのご両親や先生達との違いを知るヒントにもなることでしょう。東工大リベラルアーツ研究教育院の4人の教員の共著ということで、1冊で4人の視点を知ることができるお得な本でもあります。
稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる——生き物をめぐる個性の秘密』(ちくまプリマー新書)
本書では、個性や多様性について生物学の見地から分かりやすく説明しています。「弱い」ことは成功の条件であるかのようだと著者は述べます。もし、あなたが「弱さ」に関心があれば、本が好きな人もそうでない人も最後まで本書を楽しく読めるはずです。
赤瀬川原平『新解さんの謎』(文春文庫)
日本語の字引は世界の言語の中でもかなり異色だが、中でも『新明解国語辞典』はぶっ飛びの例文がざくざく出てくる。たとえば「恋愛」の項で、「一組の男女が相互にひかれ、ほかの異性をさしおいて最高の存在としてとらえ、毎日会わないではいられなくなること」とある。これに限らず、そこまで書かなくてもと思う語釈が多い。読んでいて実に楽しい辞典が『新明解』である。その『新明解』のおもしろさを物語に仕立てあげたのが、この本なのだ。
飯間浩明『辞書を編む』(光文社新書)
『三省堂国語辞典』の「編纂者」である著者が、その仕事を語り尽くします。「はじめに」で、「やっている本人にとっては、これ以上おもしろい仕事はありません。スリルと発見に満ち、ものを生み出す喜びがあります。夢中になって打ちこめる仕事です。そのことがうまく伝われば、きっと読者にも楽しんでもらえるでしょう」と述べられていますが、まさにその通りの体験をすることになるでしょう。
伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)
視覚障害者がどのように世界を認識しているのか、インタビューをもとに構成した身体論。障害者とは、健常者が使っている能力を使わず、健常者が使っていない能力を使っている人。耳や手で「見る」彼らのやり方を知ることで、世界の全く別の顔が見えてくる。
緒方貞子『共に生きるということ be humane』(PHP 研究所)
上智大学教授、国連難民高等弁務官、国際協力機構(JICA)理事長などを歴任した筆者は1927 年生まれ。自身の半生、仕事における信念、国際社会の中での日本の役割などを語っています。東工大においても国際人材育成が叫ばれる中、「国際化って何だろう」「国際社会で仕事をするとは」と考える手がかりになればと思います。
神谷美恵子『生きがいについて』(みすず書房)
二十世紀の日本で書かれた、もっとも優れた思想書の一つではないだろうか。「生きがい」とは生きる意味だといってもよいが、それをもっともたしかに照らし出すのは、かなしみである、と著者は言う。優れた知性の持ち主が、頭だけでなく、全身全霊を注いで書かれた、文字通りの名著。