リベラルアーツ研究教育院 News
新型コロナウィルスについてのQ&A
2020年6月30日、「池上先生に『いい質問』をする会3」が、リモート開催され、東工大生約380名が参加しました。
新型コロナウィルスをテーマとし、テキストで寄せられた質問は、400件以上。
池上彰特命教授は、日々の学生生活から、日本の政治とメディア、世界情勢とその歴史的背景、さらには地球規模の環境問題に至るまで多岐にわたる問いに答えました。
今回のこの記事では、池上教授からの学生へのアドバイスに焦点をあてて会の内容を紹介します。
まず、学生から、日々の授業がオンラインで行われることについて、研究や就活への影響を問う声がありました。また、対面での意見交換や、価値観を共有する場がなく、インプットばかりになることへの不安も伝えられました。
それに対して池上教授は、世界中の人々が苦しむ中、青春のある時期、孤独に耐えて学ぶことは、人間として成長するために絶対に必要だと答えました。
池上教授は、1969年、学生運動のために授業の全くない大学一年生を過ごしました。そこで、ひとりで勉強を続けたことが、今に至るまで学びを継続する姿勢に繋がったことを説明し、現状をポジティブに受け取り、成長の糧にしてほしいと話しました。
また、リモート授業の際、学生からの質問をリアルタイムで取り入れ、軌道修正しながら行う授業は、まさに「双方向」の授業であり、教える側の「人間性」を引き出すいい機会だと言います。
ゼミナールやオフ会などを、受け身ではなく自ら積極的に提案し、アウトプットの場を作ることの重要性も語りました。
そして、コロナ禍以降を生き抜くために、今の学生が身につけるべき能力や考え方を知りたいという質問も出ました。
池上教授は、新型コロナウィルスの出現で、5年先、10年先に訪れるであろうと思われていた世界が、突然現実のものになってしまったと捉えています。そして、アフターコロナと言われる時代が来ても後戻りをすることはなく、それに対応可能な組織や人が成長するであろうと語ります。
新しい世界が出現するとき、誰もそれに対応する力を持っているわけではなく、柔軟性のある若者にこそ、それを見出していってほしいと述べました。
また、不安を煽るようなメディアの報道や、一部分だけのインタビュー、正確な情報をつかむのが難しいSNSなどから、専門家ではない自分が正しい判断が出来るかどうか不安だという声もありました。
それに対しては、未知のことを報ずる際、メディアはそのようになりがちだとし、メディアでは必ず「編集」が行われていることを意識するようにとアドバイスしました。報道は、制作者の意図で切り取られていることを前提として受け取ってほしいということです。
また、インターネット上の情報も、丁寧に見ていれば、論理の破綻や前提の曖昧さに気づくことができるはずだと説明しました。
自分が間違っているかもしれないという懸念を持って学び続けることも大切だと続けます。
一方、科学者と政治家、理系と文系、それらの比較や関係についてといったアプローチの質問もありました。日本の政治家は、理系の専門家の情報を十分キャッチアップ出来ていないのではないかという質問や、理系の人間も政治家として出て行くべきではないかという問いもありました。
それに対しては、確かにそのとおりだと答えました。
ドイツのメルケル首相のようにエビデンスを以って国民を説得する、理系的な合理性を持つ政治家は日本には少ないと言います。科学者として専門的知見を提供する立場と、それを用いて責任を取る政治家の役割についても明確に述べました。
そして、これからは、理系の学生たちにも政治に対して問題意識を持ってほしい、理系的発想で世の中をよくしていってほしいと期待を述べました。
加えて、メディアの世界にも理系的発想や理系的人材が必要とされると語りました。
最後に、池上教授は、学生たちからの質問に触発されて自分の考えが形成されることや、こうやって「いい質問」をしてくれることで自分の思考が深まることは、まさに「共同作業」であるとし、授業で質問をすることの意義、いい質問をする会の意義を伝えました。さらに、リベラルアーツ研究教育院上田紀行院長とともに、多様性のある人間や社会こそが強さを持つと述べ会を締めくくりました。
直接触れ合うことのないリモートの場でしたが、学生たちの本質に迫る質問の数々からはその当事者意識の高さが、そして、それに真摯に向き合う池上教授の社会への深い洞察と学生への温かい思いとが実感される、多くの参加者の共感を呼ぶ2時間でした。
なお、日本経済新聞の「池上彰の大岡山通信」では、2020年8月10日、24日、31日の3回にわたってこの会の内容が紹介されています。