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鈴木悠太准教授が教育学の学術書の単著2冊(日本語と英語)を続けて公刊

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2022.09.08

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リベラルアーツ研究教育院の鈴木悠太准教授が、教育学の学術書の単著2冊(日本語と英語)を続けて公刊しました。アメリカの教育学の理論についての日本語の学術書(『学校改革の理論 ーアメリカ教育学の追究ー』)と、日本の学校改革についての英語の学術書(Reforming Lesson Study in Japan:Theories of Action for Schools as Learning Communities)です。公刊にあたり、鈴木准教授から紹介文が寄せられました。

日米の教育学を同時に解き放つ

 2014年4月、アメリカ東部はフィラデルフィア。私は、博士論文において紙面上でのみ出会っていた幾人もの研究者たちとの直接の交流を重ねた。その興奮の熱を冷ますため、石造建築のそびえ立つシティ・ホールの鐘に耳を澄ませていた。
 アメリカ教育学会(American Educational Research Association)の年次大会がフィラデルフィアで開かれていたのである。
 その中の一セッションに私はひきこまれた。「とても大きなフロアでそれほど参加者は多くない中、『活動空間の理論(theory of action space)』を駆使しながら、公教育をめぐる、学校の民主主義の擁護をめぐる、『教育改革』への抵抗と挫折と希望の入り混じる独特の空気を作り出しながら議論が続けられた」(『学校改革の理論』「あとがき」、p. 239)。
 それからおよそ8年を経て、2022年2月、私の2冊目の学術書の単著である『学校改革の理論―アメリカ教育学の追究―』(勁草書房)は公刊に至った。同セッションをフロアの脇から見守っていたニューヨーク大学のジョセフ・マクドナルドを基軸とする、1980年代から2010年代にかけての学校改革研究の展開を本書は跡付けた。それは、マサチューセッツ工科大学のドナルド・ショーンとの共同研究を起点とする学校改革の「アクション・リサーチ(action research)」である。マクドナルドらは言う。「理に適う限り改革の坂道を改革者と共に転げ落ちるべきだと私たちは考える」(同 「序」、p.ⅲ)。

 さかのぼること2005年4月、神奈川県は茅ヶ崎市。私は、師と共に、ある小学校を訪れた。1998年に「学びの共同体としての学校(school as learning community)」という理念を掲げ創立された公立学校、浜之郷小学校である。私の師である佐藤学先生(東京大学名誉教授)が、茅ヶ崎の教師たちと共に創り上げ、改革の歩みを続ける小学校であった。
 そこで目の当たりにした、授業中に子どもたちが自然体で学び合う姿、その静かでありながらも生き生きとした様は今でも忘れられない。さらには、教師たちが授業について語り合い学び合い支え合う懸命な姿は、教師たちの「公共的使命(public mission)」を具体的に示していた。教師たちは「授業研究」の「改革」に懸けていたのである。
 それから15年以上にわたり、今や世界規模で展開される「学びの共同体として学校」を目指す学校改革から私は学び続ける幸運にめぐまれた。その経験に基づき、本書Reforming Lesson Study in Japan: Theories of Action for Schools as Learning Communities(Routledge)は、2022年3月に公刊に至った。本書は、1998年から2007年までの改革の始まりの10年間における5つの学校改革のパイロット・スクール(小学校2校、中学校2校、中等教育学校1校)の改革に迫った。
 時を同じくして、日本の「授業研究」は、国際的な学業達成度の調査結果を契機とし、公教育の質の鍵を握る営みとしてlesson studyと英訳され、国際的に政策・研究・実践上の関心を集めていた。本書の独自性は、「授業研究」をめぐるそうした国際的な関心が「授業研究」の「標準化(standardization)」に向かったのに対し、同時期の「学びの共同体として学校」を目指す学校改革が、「授業研究」の「改革」を志向していたことへの注目にある。
 そして、その副題に示した通り、本書の記述を理論的に可能たらしめたのは前掲のマクドナルドとショーンの学校改革の「活動の理論(theory of action)」のアプローチなのである。すなわち、両書は、日本語で書かれたアメリカ教育学の理論研究(『学校改革の理論』)と、英語で書かれた日本の学校改革の事例研究(Reforming Lesson Study in Japan)という関係にある。そう、両書は、日米の教育学を同時に解き放つ試みなのである。


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