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学問は、間口は広いが敷居は高い。くじけず一歩ずつ学び続けましょう

【法学、民事訴訟法】金子 宏直 准教授

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2020.04.28

金子 宏直 准教授

法律を学ぶと、
社会でどう役立つか

理工系の大学である東工大に入学した学生にとっては、「自分たちが法律を学ぶ意味ってなんだろう」と疑問を持つかもしれません。大学で法律を学ぶことが、将来どのように役立つのだろうかとイメージできない学生も多いでしょう。

誤解されるといけませんが、現実には、東工大生が社会に出たとき、大学で学んだ法律の知識がそのまま生かせる場面は少ないだろうと思います。とはいっても、それは私のような法学部出身者でも同じです。

法律の世界は広く、深い。ひとくちに法律といっても、その中身は極めて多岐に渡ります。授業のなかで、学生が興味を持っている法律分野をすべて扱えるかというと、物理的に限界があります。社会に出て仕事についてはじめて、自分が必要な法律の知識がなにかわかる。そのくらいに思っていてもいいでしょう。

では、大学で法律を学ぶ意味は何でしょうか?

法律は法治国家の社会基盤です。あらゆる人間は、意識するかしないかにかかわらず、法律とかかわりを持っています。ならば、大学時代に法律に親しみ、法律に関する教養を身につけておいた方がいい。それが理工系の東工大で学生が法律を学ぶ出発点になる、と私は考えています。

初めての外国語を学ぶように、
法律に触れていこう

金子 宏直 准教授

法律を初めて学ぶときには、まずは「六法」が入り口になります。「六法」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、外国語を勉強するときにはまず辞書を購入しますね。それと同じ。法律の勉強は語学と近い部分があるのです。これから法律に親しんでいこうというときには、やはり誰にでも手に取ることができる「六法」が頼りになります。

たとえば、小型の『ポケット六法』なら2000円程度で買えます。それでいて、これだけ読み応えのある読み物ってそうそうありません。なにしろ、私でも、一読しただけでは何のことやらさっぱり意味がわからない(笑)。

見慣れた平仮名、カタカナ、漢字で書かれているのに、これほどパッと読んでわからない書物も珍しいでしょう。さながら言葉の通じない外国に行ったときのような感覚を味わえるはずです。でも、「法律なんてわからない」と放り出してしまうのではもったいない。じっくり読んでいくと、興味をそそられるおもしろい言葉にたくさん出会えるはずです。せっかくですから、このインタビューを読まれた方は、ぜひ『六法』を手に入れてみてください。

法律の情報は、国民の総意に基づき、国会を通して定められたものです。社会規範を記して、何をしていいか、悪いかが書かれています。難解な文章ではありますが、それをかみくだきながら、どんな意味を持っているかを紐解いていく経験は、あらゆる学問を深めていくための大きな学びになるのではないか、と思います。

試験のときにだけ開くのではなく、ぜひ『六法』を愛読書にするつもりで日常的にパラパラとめくってみてください。せっかくだからスワロフスキー*なんかを貼り付けて、お気に入りのオリジナル「デコ六法」にするのもいいかもしれない(笑)。

学問の間口は広い。けれど敷居は高い。しかし、どんな学問も、まずは入り口をくぐるところから始まるのです。法律特有の難解さに挫折せず、親しんでいってもらえたらうれしいです。

*)スワロフスキ― アクチエンゲゼルシヤフトの登録商標です。

一年生の法学科目は、
すべて英語で講義

金子 宏直 准教授

東工大のキャンパスにいらっしゃると気づくかもしれませんが、留学生がけっこう多いんです。日本語の試験に合格して入学した留学生だけではなく、日本語試験を免除され、英語の試験と英語のカリキュラムで東工大に入学できる「融合理工学系国際人材教育プログラム(GSEP:Gllobal Scientists and Engineers Program)ジーセップ」という仕組みが2016年からスタートしたからです。GSEPの学生は、日本語がよくわからない状態で入学する人も多いです。

こうした留学生も履修できるように学部一年生の法律科目の授業は、すべて英語で行います。法律を学ぶという点では、母国を問わずに同じスタートラインに立っている学生たち。英語での講義により、留学生もそれからあえて英語の授業にトライしようと履修した日本人学生も、先入観なく学ぶことができる機会となっていると感じています。

もちろん英語の授業ではありませんから、英語の発音、構文の正確性などを気にする必要はありません。気負わず、英語で法律について討論してもらいます。英語で表現しづらい部分があれば、日本人学生の場合、ときに日本語を交えてもかまいません。留学生も、日本に興味をもって学んでいます。日本語と英語をまじえたコミュニケーションには、お互いについての理解を深める効果もあるでしょう。

こうした授業は同様の内容を「edX(エデックス)」でも配信しています。edXとは、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学によって立ち上げられた無料オンライン講義のプラットフォーム。東工大の学生はもちろん、他大学、他国の学生も同じ内容を学習できる。履修していない学生も、興味があったらのぞいてみてください。

諸外国の制度と比較しながら、
日本の法律を研究

金子 宏直 准教授

私自身の研究テーマは、民事裁判の法律です。この分野の研究で難しいのは、裁判として表に出てこないトラブルが非常に多いことです。たとえば、企業同士のトラブルの場合、多くは当事者間で和解が成立します。どういった形で問題を解決したかは、外部にいる研究者からはわかりえないのです。

また、日本の裁判制度では、法律の不都合を裁判で明らかにしたいという訴えがほとんど認められません。もちろん実際に損害を被れば裁判を起こすことはできますが、制度自体の問題によって国民が不都合を受けている、という形での裁判は起きません。

以上のような背景もあり、法の整備に関しては、世界的潮流が起こってから日本も遅れて対応する、ということが多いといえるでしょう。

私が注力している電子証拠の分野における法整備も同様です。2008年、イギリスのステファン・メイソン氏の編集で『International Electronic Evidence』という書籍が発売されました。私も日本法のパートの執筆を担当しました。当時から諸外国では電子証拠についての議論が進んでいて、体系化した書籍としてまとめられることになったわけです。ひるがえって日本で、電子証拠についての書籍がまとめられたのが2016年。私も参加した『電子証拠の理論と実務』が発行されました。8年ものタイムラグがあったわけです。

日本で新しい法制度が必要となってきたとき、どういうことをしなければならないか。私たちの研究の手法としてあげられるのが、比較法という考え方です。先んじて整備された外国の法制度を単に翻訳するだけでは不十分。文化的な違い、歴史的な違い、制度ができあがった経緯を研究し、日本で導入する場合の参考にしていくのです。

自分が楽しめる場所を見つけて

金子 宏直 准教授

1990年代後半から東工大で教鞭をとっていますが、いつも思うのは、入学した学生さんたちには、とにかく楽しい大学生活を送ってもらいたい、ということです。リベラルアーツ研究教育院の教員たちで受けもつ1年生が必修で受講する「東工大立志プロジェクト」。こちらの授業は、学生がお互いに意見を交換したり、共有したりする大事な場です。グループワークを通して、自分の考えを深める。とても有意義なプログラムです。ただ、中には立志プロジェクトのような少人数のグループで意見を出し合うような場が苦手な学生もいるかもしれません。人前で発言するのが不得意だ、という学生もいるかもしれません。

仮に、立志プロジェクトでうまく自分が出せなくても思い悩まないでほしい。大学には、さまざまな学びの機会、自分を磨く機会があります。大学生活を通して、自分が真剣にそして楽しく取り組める何かをぜひ見つけてほしいです。

私も毎年立志プロジェクトの講義を担当していますが、ときには少し早めに切り上げて、クラスの学生たちを連れて学食に行くこともあります。クラスではなんとなく緊張して話しにくいという学生も、教室を離れてみんなで食事をしながらだと自然に交流ができる、ということもありますね。

といいつつ、学生がおいしそうに食べている学食のメニューが、私には少々ボリュームがありすぎるように感じてきました(笑)。東工大の近辺においしい定食屋さんが多くなってほしい、というのが目下の私の切なる望みです。そちらでも、学生たちと一緒にわいわい話をしたいですね。

Profile

金子 宏直 准教授

研究分野 法学、民事訴訟法

金子 宏直 准教授

法学博士。一橋大学法学部卒業、一橋大学大学院法学研究科経済法・民事法博士課程(単位取得満期退学)。日本学術振興会特別研究員、財団法人ソフトウェア情報センターを経て、1997年より東京工業大学に赴任。主に、民事訴訟費用や統一電子情報取引法についての研究を行う。著書に『民事訴訟費用の負担原則』、共著に『International Electronic Evidence』、『電子証拠の理論と実務』など。

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