リベラルアーツ研究教育院 News
10月5日、東工大リベラルアーツ研究教育院は、大岡山駅上にある東急病院との共催で、本学メインキャンパスのある大岡山駅の周辺地域や東急線沿線にお住まいの方々を対象にした「第2回大岡山健康講座」を開催しました。 当日は約120名の参加があり、健康に対する関心の高さが伺えました。
東急病院の母体である東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)は、2015年3月に従業員の健康管理を行う優良企業として東京証券取引所より「健康経営銘柄」に選定されました。それに伴い、東急病院のある大岡山駅周辺を「健康ステーション大岡山」と称し、健康の発信拠点として、さまざまな取り組みを実施しています。東工大も、リベラルアーツ研究教育院の林直亨教授の監修のもと、健康啓発ポスターの作成や、工大祭でのウォーキングイベントの開催に取り組んでいます。 今回の本講座も、この取り組みの一環として、2部にわたって開かれました。
佐久間教授は、研究者の目線から健康について話しました。
まず、日本の高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)が、2016年現在は26.7%であることを示しました。
続けて、サルコぺニア(加齢性筋減弱症)について、語源がSarco(肉体)+penia(欠乏、不足、貧弱などの意味)であり、症状としては、加齢に伴って筋肉が萎縮していき、それまで可能であった行為ができなくなるとの説明がありました。また、骨格筋の構造や、体の中に存在する大部分のものがタンパク質でできていると話しました。加齢に伴い骨格筋に起きる現象として個々の筋細胞(筋線維)萎縮があるというくだりでは、筋細胞には速筋線維と遅筋線維があると述べました。速筋線維は、強い力を発揮するが長く続かず、走ったり重いものを持ち上げたりする場合に使うものであり、遅筋線維は、力は弱いが連続して使用可能で普段歩いたり日常生活に使うものです。加齢により、特に速筋線維が顕著に萎縮しますが、効果的なトレーニングをすることで萎縮を軽減できることや、今年ノーベル生理学・医学賞を受賞した本学の大隅良典栄誉教授の研究であるオートファジーにも触れ、加齢筋ではオートファジーが機能不全になっているために筋萎縮が生じると説明しました。
寝たきりになる原因としては脳卒中、痴呆、転倒・骨折が多いことを指摘し、脳卒中予防には歩いたり走ったりする有酸素運動が効果がありますが、転倒・骨折には有酸素運動は効果が無く、その予防法として筋力トレーニングで下半身の筋力の維持、向上を図ることが大事だと語りました。具体的には腕立て伏せやスクワットなどの筋力トレーニングを、自分のできる範囲で1日10分から15分ほど、道具が要らない運動方法を工夫するよう推奨しました。
その一例として椅子を使った運動を行い、参加者は家でもできるトレーニングを習得し、大変有意義だったようです。
大森医長は、医師の視点から健康について話しました。
まず、「歩き始めの時」「階段の昇り降りの時」「立ち上がる時」「正座する時」「膝の内側を押す時」に痛みがあるか、膝に水がたまって腫れるか、O脚(蟹股)だと言われるか、参加者に対して自覚症状の有無を訊きました。
続いて、中高年の膝関節症の中でも特に多い変形性膝関節症について説明しました。変形性膝関節症は膝関節に痛みや腫れ、運動障害を起こす、加齢に伴い進行する軟骨が摩耗する慢性の関節疾患で、中高年に好発(患者数700~1,000万人以上)しています。「50歳以上」「女性」「肥満」「骨粗しょう症」「若い頃に膝のけがの既住」の方は要注意で、男女比が1:4と治療を要するのは圧倒的に女性が多いのが特徴です。
「使える」関節の条件は、「動くこと」「グラグラせず支持性があること」「痛みが無いこと」の3つです。使える膝関節にするためには「太らないようにして、膝周りの筋肉を鍛えてけがを予防すること」「痛みが出たら、早期に治療を開始すること」「手術治療を行う際は年齢や変形の程度によって手術方法を検討すること」を、現在の自身の膝の状態に合わせて対応することが大切だと述べました。
また、日常生活の注意点として「体重を減らし膝への負担を軽くする」「杖を使い関節の負担を軽くする」「正座は避け椅子を使う」「入浴で関節を保温し血行を良くする」「膝を支える太ももの筋力を鍛える」ことを挙げ、東急病院に専門外来があることを紹介して、講演を終えました。
9月に行われた第1回大岡山健康講座に続き、参加者にとって健康について改めて見直すことができ、大変有意義な講座になりました。