リベラルアーツ研究教育院 News

遠い国、ロシアの芸術は面白い!さあ、自分の世界を広げよう

【ロシア文化、近現代美術、表象文化論】河村 彩 助教

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2019.12.11

河村 彩 助教

ロシアの言語や文学から
今よりもっと自由な視点を得る

授業はロシア語と、「世界文学入門」と「外国語への招待」のうちのロシアに関する講義を担当しています。

ロシア語は最初に文字を覚えるところから始めなければいけないので大変なのですが、逆にそれが魅力だと言って受講する学生が多いです。マイナーな字を見ると萌える、というような。中央アジアなどロシア語を介して交流できる国々は、日本との貿易でもまだまだ未開拓の地域ですから、そういう面でも大いに可能性がある言語だと思います。ロシアの若い世代は日本のアニメも大好きで、中央アジアから日本への留学生も増えています。

ロシア文学入門ではドストエフスキーやトルストイといった有名作家の話をするだけでなく、ロシアで盛んなオペラやバレエなどの舞台芸術も紹介して、視覚的にもロシア文化の面白さを知ってもらうようにしています。クラシック音楽が好きな学生から「あれもロシアだったのですね」と驚かれることもありますね。ロシア文学の世界を知ってもらうために映画を見せることもあります。たとえば、有名な、ドストエフスキーの老婆の殺害のシーンを見ることで、ロシアの文豪たちが考えてきた重い哲学的な問題の雰囲気を少しでもわかってもらえたらいいなと思っています。

私が考えるリベラルアーツとは、自由な視点を得ること、自分の外に広がる広い世界を知ることです。ロシアみたいな行ったこともない遠い国の言葉や文化を知ることによって、現在の自分よりも、もっと自由になって解放される。見方が変わる。それに尽きると思います。そのためには、本を読んだり、映画を見たり、芸術作品を鑑賞したり、一種の追体験が必要でしょう。

大学の授業で出合ったロシアの美術に衝撃
知られていない分野を切り拓く

河村 彩 助教

研究者としての私の専門は、近現代美術、特にロシア、旧ソビエト連邦の美術です。約100年前のロシア革命前後の美術を中心に研究しています。革命後、当時のロシアの画家たちは生活に役立つ家具のデザインや、社会主義の思想を広めるためのプロパガンダポスター、書籍の装丁などを手掛けるようになりました。ですから、純粋な美術だけではなく、グラフィックデザインや写真、視覚文化一般を研究対象にしています。

ロシア文化に興味を持ったのは、大学時代のことです。もともと芸術や映画、小説が好きで文学部に入ったのですが、ロシア・アバンギャルドという枠組みで、文学だけではなく美術や演劇などを総合的に紹介する授業があり、その面白さに気付きました。インパクトがあったのは、グラフィックデザインの父とも言われるロシア構成主義の芸術家アレクサンドル・ロトチェンコ(1891-1956)の描いた国立出版局のポスターです。

写真の女性が「本!」と叫んでいるだけなんですけれど、初めてこういうデザインを思いついたのはすごいなと思いました。こんなに面白い作品がたくさんあるのに、日本ではあまり知られていません。深く掘っていけばもっと面白いものが出てくるんじゃないか。そんな勘が働き、まずロシア語を学ぶことから始めました。

大学2年のときに専門を決めたのですが、ロシア文学科は一番人気のない学科でした。先生方も少しでもロシアに関わりのあることならば何でもいいよという自由な雰囲気で、大学にはあまり来ないけれど学外でバンドをやっていたり、文学活動をしている学生がいたりして、楽しかったですね。

学生時代は1年間、サンクトペテルブルクに留学もしました。サンクトペテルブルクは日本で言うと京都のような場所。きれいでとても良い所でしたが、当時は停電が頻繁にあり、テロなどを警戒しながら生活しなければならず、サバイバルな毎日でした。面白かったのは、世界中の旧社会主義国から学生が集まっているため、日本にいるとほとんど会えないような国の人たちに出会えたことです。特にカザフスタンやウズベキスタンなど中央アジアの人たちは日本人と似た顔立ちをしていますが、文化は全く違います。ポーランドやベラルーシなど中東欧諸国やアジアの旧社会主義国出身の学生たちの割合が多かったことも印象的です。

理念を形にすることに成功した構成主義
モノ作りや技術開発の際のヒントにも

河村 彩 助教

博士課程から研究を続けているロシア構成主義は、ロシア革命後に新しい社会主義の文化を建設するために生まれたデザイン運動です。シンプルで機能的・幾何学的な構成主義の造形は、現代まであらゆる分野で模倣されてきました。修士課程と博士課程に入ってから数年は、構成主義の後期から抽象美術を否定したスターリン時代にかけての、グラフィックデザインや写真、ドキュメンタリー運動などを研究していました。

その時代のソビエト文化の全体像が何となく見えてきたかな、という手応えがあり、構成主義の主要人物だったロトチェンコに焦点を絞って、博士論文のテーマにしました。彼は写真やドキュメンタリーを撮る前に、デザインや抽象絵画も描いていましたから、彼をたどると、美術だけでなく、当時のソビエト文化全般に関して何かが見えるだろうと考えたのです。

ロシア構成主義は、理念や主義、概念、コンセプトといったものをどう形にするかということが、他に類を見ないほど深く考えられた運動だと思います。あるいは理念を形にするという志向がものすごく強い運動だったのではないかと思います。世の中がこういうふうになってほしいという理念を形に落とし込んで実装することを、おそらく世界で初めて、しかも国全体という大きな規模で成し遂げようとしたのが構成主義者たちです。ですから、東工大の学生にとっても、モノ作りや技術を開発する時のヒントになり得るのではないかと思っています。

現在はドイツでも活躍したリシツキー(1890-1941)を通したインターナショナルな構成主義の研究のほか、第二次世界大後のアンダーグラウンド芸術にも興味を持っています。ソビエト時代は公的な芸術スタイルが決まっていましたが、検閲などとは無関係に自由に制作されたのがアンダーグラウンド芸術です。ここ数年でロシアでも研究が盛んになってきており、昨夏はモスクワの現代美術館の研究者招聘プログラムで、アンダーグラウンド芸術家の手紙や日記などの貴重な資料を調査してきました。

理系だからこそ、言葉や表現力、
自分と異なる境遇への想像力を磨く

河村 彩 助教

東工大の学生は、内面はすごく面白いけれどもそれがなかなか表には表れてこない、おとなしいタイプが多いように思います。自分の好きなことや興味のあることを胸に秘めている感じです。それは自分の中で自分と対話ができるということで、自分で自分を育てられる素養があると思います。

「東工大立志プロジェクト」には立ち上がりから関わっています。本音をいうと、学生時代の私だったら「立志プロジェクト」のようなアクティブラーニング型の授業は敬遠していたと思います。斜に構えていたし、その場で適当に意見を言うなんて恥ずかしいし。おそらく、東工大に入ってくる新入生の中にも、そんな学生たちがいると思うんですよね。だから私の場合は、学生時代の自分だったらこの立志プロジェクトをどうやって受け入れただろうかと考えながら授業を進めています。

たとえば、たんに抽象的な目標を立てるのではなく、ディスカッションの進め方や、人の話を聞いて自分のアイディアを展開させるコツが身に付くよう工夫しています。みんながみんな明るく自分の意見を言えるのが必ずしもいいわけではなく、黙っていても考えている学生は多いので、その部分は尊重するようにしています。

私は造形・視覚文化の研究者として、人間はどうしてこんなものを作るのか、言語によらない知的な営みがどういうメカニズムで起こっているのかにとても興味があります。また、教育者としては、理系の学生だからこそ、もっと言葉や文章、表現力を磨くべきだと思っています。そして、言葉を磨くことにもつながると思うのですが、芸術に触れ、歴史を学ぶことを通して想像力をもっと働かせられるようになってほしいと願っています。自分とは違う境遇や立場の人間にどれだけ心を寄せられるかということから、優れた発想は生まれます。内面の世界をもっと広げていってください。

Profile

河村 彩 助教

研究分野 ロシア文化、近現代美術、表象文化論

河村 彩 助教

東京都生まれ。早稲田大学文学部(ロシア語ロシア文化)卒業後、東京大学総合文化研究科に進学。表象文化論を専攻し、ロシア・アバンギャルド、構成主義を中心に研究。同博士課程修了。早稲田大学教育学部助手、東京大学、首都大学東京などの非常勤講師を務め、2015年4月より現職。日本では数少ないロシア美術の研究者として、主な著書に『ロトチェンコとソヴィエト文化の建設』(水声社、2014年)、『ロシア構成主義―生活と造形の組織学』(共和国、2019年)がある。現在、ロシアの20世紀美術をまとめた書籍の翻訳も進めている。

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