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理系の私たちが吹奏楽を学ぶ理由

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2023.04.03

リハーサルに参加したゼミ生のみなさん。担当する楽器を手に、ポーズをキメてくれました。

リハーサルに参加したゼミ生のみなさん。担当する楽器を手に、ポーズをキメてくれました。

理系の大学として名を馳せている東工大ですが、文系教養科目に吹奏楽を学ぶ授業があることをご存知でしょうか?今回は、リベラルアーツ研究教育院の高尾隆教授が担当する「人文学系ゼミ(インプロ/吹奏楽)」の吹奏楽チームの学生たちのインタビューを紹介します。


このゼミでは、「部活でやっていた吹奏楽を続けたい」という熱い思いを持った学生から演奏の経験がない学生まで、総勢61人(2022年後期時点)が学んでいます。学内でも「吹奏楽を学んでいる」と言うと驚かれるという学生たちに話を聞いてみました。


おもしろそうなら、やってみる。自分がやりたいことがやれるのが大学生活

―吹奏楽のゼミを履修した理由を教えてください。


中村柊斗さん(理学院)

中村柊斗さん(理学院)「単位を全部埋めたいと思って履修科目を探していたら『吹奏楽』って見つけて。ボク自身は吹奏楽の経験はないんですが、音楽自体は文化的に娯楽の分野であるから、それを体験しながら学べる科目だったら絶対面白いに決まっていると思ったんです。好きなことを学べるのが大学の面白さですから」

大城榛音さん(理学院 地球惑星科学系)

大城榛音さん(理学院 地球惑星科学系)「高校まで部活で吹奏楽をやっていたんですが、東工大には吹奏楽部がないので、1・2年生の時は学外のグループで演奏していました。ボクは文系科目が得意じゃなくて、履修する科目も自分に合うもの、好きなものをずっと探していたんです。高校から指揮をやっていたこともあり、それも学びたくてこの授業を履修しました」

伊藤光一さん(情報理工学院 情報工学系)

伊藤光一さん(情報理工学院 情報工学系)「ボクも大城くんと同じで中・高は吹奏楽部。東工大は吹奏楽部がないので、管弦楽団に入って新しい楽器に挑戦したりしてました。でも、ずっと吹奏楽もやりたかった。単位も足りているし、今は4年生なので研究ばかりで後期は特に忙しいんですが、先生に相談して参加させてもらっています。今メチャメチャ楽しいです」

村田裕常さん(物質理工学院 応用科学系)

村田裕常さん(物質理工学院 応用科学系)「ボクも中・高は吹奏楽部で、楽器はホルンをやっていました。大学では新しくトランペット買ってやる気満々だったんだけど、入学後はコロナで活動する場自体がなかったんです。でも高校のOBとして吹奏楽部に参加してみて、改めて楽器が吹きたくなった。そんな中で吹奏楽ゼミを見つけて、後期から履修しています。知らない人がいる中で合奏したり音楽やったりするのが楽しいですね」

―部活の吹奏楽とは、何が違うのでしょうか


村田さん

村田さん「授業の基本は合奏なんですが、部活とは全然違いますね。楽器を演奏するだけじゃなくて、音楽について知るレクチャーがあったり。あと、グループになって吹奏楽に関するあらゆる疑問について、知識を持っている人から他のメンバーに教えあうというようなこともしました」

中村さん

中村さん「吹奏楽は全く未知の世界なので、どんな質問をすればいいのか考えながら参加して、いろいろ学ぶことができました」

大城さん

大城さん「ゼミでは吹奏楽の経験有無に関係なく、双方にとって納得できるように指導してくれます。経験者と未経験者との間に壁を作らないっていうか、参加しやすい場づくりをうまくしてくれる。そこが部活の技術的な指導とは違うので、演奏もうまくいってると思います」

伊藤さん

伊藤さん「レクチャーでは、演奏する曲の作曲家が生きた時代の背景などを学びました。そうすると、世界の事情と自分のやっている音楽が結び付いて、全く関係ないと思っていた歴史がつながっていることがわかる。それまで意識していなかったことが整理されて、なるほどと納得しました。たとえ演奏に直接生きることがなくとも、時間をとってきちんと学ぶのは貴重だと思います」


■作曲家が生きた時代背景を知る


レクチャーを担当した鈴木健雄講師

レクチャーを担当した鈴木健雄講師(左上、右下)


2022年12月の吹奏楽の授業では、合奏練習の前にレクチャーが行われました。学生たちはコンサートに向けてドイツの亡命作曲家であるパウル・ヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」を練習中。そこで、同氏が活躍した1930年代のナチス政権が影響力を強めていたヨーロッパの社会情勢や時代背景を知ることで、ヒンデミットら亡命を余儀なくされた知識人や文化人たちの置かれた状況について知見を深めました。


レクチャーを担当したのは、ドイツ近現代史が専門のリベラルアーツ研究教育院の鈴木健雄講師。ナチスが政権を掌握した1933年以降のドイツ系亡命者の反ナチス抵抗運動について研究しています。


誰もが挑戦できる場で、自ら動くことで得られる経験とは?


―授業では演奏だけではなく、指揮も体験するそうですね


大城さん

大城さん「今期、指揮法の実習希望者は10人ぐらい。ボクは今まで独学でやっていてきちんと学びたかったので、めちゃくちゃ勉強になっています。50人以上の規模のバンドで(指揮棒を)振ったのは初めて。バンドの規模によって、指揮のやり方はすごく違うんですよ。30人だとできることが50人だとできないことも。気の使い方がむずかしい…」

伊藤さん

伊藤さん「演奏する側は、指揮者の緊張がすごく伝わってくるんですよ(笑)。だから、演奏する側が支えようという気持ち、丁寧に演奏しようという気持ちが自然に湧きますね」

大城さん

大城さん「指揮をするのは、言葉を使わない“1対多のノンバーバルコミュニケーション”だと思います。リーダーシップを発揮する場でもあるので、グループワークなど実生活でも役に立つと思います。先生が授業で指揮をさせるのは、従来の部活のように演奏会の完成度を求めるのではなく、音楽の形式的なものを壊したいという狙いがあるからなのかな?」

村田さん

村田さん「授業では、どうゼミに参加したのかが問われるような気がします。指揮台や練習場所を探してきたり、エキストラを見つけてきたり。事前準備や最後の片付けなどでは、全体的な指示はあるけど、あなたは○○して下さいという指示はありません。指示なしで運営されている現状があるということは、自ら動く人が集まっているのではないかな」

伊藤さん

伊藤さん「やりたい人がいるというのがこの授業の前提で、そのうえで先生からアプローチがあるんだと思います。たまに他団体の練習を見に行く機会を作ってくださったのですが、それも参加するしないは自分で決めることができました」

―表現芸術の授業を選択していますが、この経験が将来どう役に立つと考えていますか?


村田さん

村田さん「この授業では音楽的に新しく学んだこともあるし、久しぶりに楽器を吹くこと自体が挑戦でした。何より、はじめましての人と集まって演奏し、音楽を作り上げていく経験はすごく重要です。これから趣味で音楽をやっていくにせよ、コミュニティーの中で知らない人同士の中で、自分がどう活動するべきかという時にこの経験は役に立つと思います」

中村さん

中村さん「授業では文化的素養を培ったと思っています。楽しかったし 新しい世界に飛び込めた経験を得たので、今後も新しいものに飛び込むハードルは低くなるんじゃないかな。何より音楽へのハードルも低くなった。才能がある人だけのものじゃないことが分かりました」

大城さん

大城さん「この授業でのいろんな経験が血肉となって生かされています。実はボク、教職を取るのはあきらめたんですが、下の世代にこういう道もあるんだと自分の経験を伝えていきたいと思っているんです。活動でのインプットやアウトプットのすべてを」

伊藤さん

伊藤さん「ゼミも授業のひとつ。ここでの体験がどう生かされるかは、まだわからないですね。でも、これからも人生で何かしらの形で音楽を続けていくので、ここでの経験が大きいのは間違いない。自分の拠り所や軸が作られる中で、これから学ぶことや知ることは、ここで経験したことにつながっていくんじゃないかな」

―皆さん、今日はありがとうございました


インプロショー&吹奏楽コンサートを開催


インプロと吹奏楽のコラボ企画

2023年1月30日に、インプロショー&吹奏楽コンサートが開催されました。2022年7月の開催に続いた2回目の今回は、開演前に観客が並ぶ盛況ぶり。吹奏楽チームは演奏する全4曲のうちの1曲を、指揮法を学んだ学生4人がタクトを振り、日ごろの練習の成果を披露。「吹奏楽が大好き」「演奏するのが大好き」というゼミのメンバーたちの思いが一体となり、息の合った演奏で観客を魅了しました。最後のラテン音楽の「ダンソンNo.2」では、ソロパートを担う学生たちがノリノリのパフォーマンスで会場全体を盛り上げ、賑やかにコンサートを締めくくりました。


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