リベラルアーツ研究教育院 News
6月15日、リベラルアーツ研究教育院の創設を記念して、「まず殻を破ることから―リベラルアーツの最先端へ―」と題したシンポジウムが大岡山キャンパス西9号館ディジタル多目的ホールにて開催されました。当日は学内外から200名を超える来場者があり、リベラルアーツ研究教育院に対する期待と関心の高さを改めて認識する機会となりました。
最初に、三島良直学長より開会の挨拶がありました。「学長就任以来、推進してきた教育改革の一番の目的は、学生が目を輝かせ、積極的な姿勢で授業に臨むようにさせることにあり、将来実社会で活躍するためには何を学ぶべきかを、学生一人一人が考えるようなカリキュラムを組みたいと考えてきました。そのためには学生が自ら考えて議論する授業を作る必要があり、なかでも重点を置いたのがリベラルアーツです。第1クォーターを見る限り、リベラルアーツ研究教育院の授業は非常に上手く行っており、今後も学生から、このような積極的な姿勢を引き出して欲しいと思っています」との期待が語られました。
次に、上田紀行リベラルアーツ研究教育院長より挨拶がありました。「三島学長の下で、東工大の教育のみならず、社会全体を変えていくという強い意志を抱きながら、リベラルアーツ研究教育院のプログラムを立ち上げました。そして、本シンポジウムでは、大学関係者のみならず、多くのメディアからも注目されている科目『東工大立志プロジェクト』の成果を発表しますが、この授業は、自分が動くことで社会を変えることができる、という志を学生に持たせることが目的となっています」と説明しました。併せて、そのような授業を支える、志の高い多くの素晴らしいスタッフが集まってくれたことに感謝の意を述べました。
シンポジウムの冒頭には、進行の谷岡健彦教授から、本シンポジウム開催についての説明がありました。タイトルの「まず殻を破ることから―リベラルアーツの最先端へ―」の「殻」とは、固定観念のことであり、この固定観念を打ち破る新しいリベラルアーツを模索してきたこと、また、開催時期としては第1クォーターの「東工大立志プロジェクト」が終了したタイミングとしたことを話しました。
パネリストの先生方からはそれぞれの担当や専門分野からの説明と意見が出されました。
伊藤亜紗准教授からは、新しいカリキュラムの柱となる教養コア学修科目の説明がありました。「学士課程1年目の学生向けの『東工大立志プロジェクト』では、入試に合格するための受験勉強から、ものの見方や考え方を根本的に作り変え、正解のない問いを自らの頭で考える練習を積むこと、そして、学士課程3年目の学生向けの『教養卒論』では、これまでの学びをストーリーのある形にまとめることを、それぞれねらいとしています。修士課程1年目の学生向けの『リーダーシップ道場』では、仲間の能力を活かしながら目標に向かってチームを導くリーダーシップ力を身につけさせ、博士後期課程の学生向けの『学生プロデュース科目』では専門の異なる者同士が集まることで、学会のような場を作って研究や発表を行う交流の機会としたいと思っています」との説明がありました。
三ツ堀広一郎准教授からは、「東工大立志プロジェクト」の授業設計についての説明がありました。「この科目は、主に外部からのゲスト講師による大講堂講義と少人数クラス(30人編成で40クラス、さらにクラス内のグループ分け)という組み合わせになっており、講義で提供された話題を、数日後に少人数に分かれて振り返り、問いを立てて掘り下げる、というサイクルで進む授業です。講師にはそれぞれの専門に入った理由やきっかけなど、ライフストーリーを語るようにお願いし、学生には教養がその人の歩んできた人生と切り離せないことを示すようにしました」という工夫が語られました。
中野民夫教授からは、「東工大立志プロジェクト」の少人数クラスで用いたワークショップの方法についての説明がありました。中野教授は、参加型授業のメリットは、何よりもまず参加者が楽しいと感じられる点にあると強調しました。そのほか、自分と違う考えを持つ人を知ることにより世界が広がること、コミュニケーション力が身につくこと、一方でコミュニケーションの難しさも実感できること、小グループだと自分が動かなければグループも動かないと学べること、主体性が醸成されることなどの長所がスライドを用いて説明されました。
中島岳志教授からは、なぜ東工大の文系教育にこれほどの注目が集まるのかについての意見が出されました。「昨今、文系学部廃止論が話題となっていますが、そうした理系の学問の有用性を優先させる議論に対して、文系も長い時間軸の中での価値創造性という意味では役に立つと反論している場合が多いようです。しかし、位相によっては役に立たないことこそが役に立つということを、文系側からもはっきりと主張すべきだと思っています。戦争経験者からは『絶望的な戦場で自分を救ってくれたのは、大学で学んだ教養だった』という声を聞きますが、日常的に役に立たないことは日常が反転したときに役に立つ、これこそがリベラルアーツの本質です」との考えを述べました。
その後、中島教授の意見を受ける形で、教養の位置付けについてパネリスト間で活発に意見が交わされ、本シンポジウムは盛況のうちに終了しました。