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筋肉と運動の重要性を伝えたい

【運動生化学、運動生理学】佐久間 邦弘 教授

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2019.12.25

佐久間 邦弘 教授

筋肉の講義とテニス実技の両方を教える

私の授業には、教室での講義と体育の実技の2種類があります。教室では、主に大学院で筋肉に関する講義を行っています。学部生向けにはウェルネス科目でテニスの実技を教えています。

大学院の講義名は、「教育・福祉・健康分野持論F1」です。私の専門分野である、加齢に伴う筋肉の老化のメカニズムを解説し、どうすれば筋肉の老化を軽減できるのかから始まって、iPS細胞の日本の現況、機能性表示食品や健康食品の実態などについて、学生たちに教えています。

授業は、基本的にグループ学習のかたちで進めます。まずテーマを提示し、少人数のグループごとに調べて発表してもらい、私が解説をする、という流れですね。このスタイルの授業は、東工大に赴任してから始めました。ポイントは、学生自ら主体的に調べたり考えたりするシーンをメインに据えること。学生たちが、提示した各テーマを自ら調べ、考え、発表する。肉体の問題、健康の問題、食の問題はあらゆる人間が当事者です。その問題を自分ごととして接してもらう。ただの座学では学べないことです。

ウェルネス科目のテニスの実習では、テニスの習熟度に合わせ、レベル分けをしてゲーム中心に行っています。ゲームに負けたひとには、もれなく腕立て伏せをやってもらいます。あ、腕立て伏せもあくまで運動の一環なのでご安心ください(笑)。

授業内のゲームだから“負けてもいいや”と思うのではなく、負けたらそのことをしっかりと受け止めてほしい。真剣勝負だよと考えてほしいんですね。学生を見ていると、真剣に勝ちにこだわって、ひとつのルールの下で本気で勝負をするという経験が足りないと感じます。満たされているからガツガツしていない。失敗してもリセットボタンを押せばいい。でも、テニスのようなスポーツにおいて勝ち負けはとても重要です。勝負を投げず、勝つためにどう工夫するか、ペアの場合はどう協力するかといったことを真剣に考える。スポーツ実技の授業の大きな意味の一つだと思います。

加齢に伴う筋肉の減弱のメカニズムを研究

佐久間 邦弘 教授

私がテニスを始めたのは、小学校1年生のことでした。父が高校教師でテニスを指導しており、その影響で自然とテニスをプレイするようになりました。漫画の『エースをねらえ!』や『テニスボーイ』が人気で、テニスブームだったころです。中学から高校にかけて腕前があがり、選手としては東北でジュニア・チャンピオンに合計で10回以上なりました。ところがそこから上にいけなかった。全国大会での上位進出がどうしても果たせない。一回戦を勝つのがやっとでした。

それでもテニスは大好きでしたから、全国のトッププレーヤーには勝てないにしても、こういう人たちと同じ土俵でテニスをしたい。そう思い、関東のテニスの強豪大学を目指しました。結果として選んだのが筑波大学の体育専門学群です。高校時代の化学の先生が「あなたにとって一番いい大学だと思う」と教えてくれたのがきっかけです。両親が数学教師だったこともあり、それまでは得意な数学科を目指していたのですが、実際に見学し筑波大学に強く行きたいと思いました。それがセンター試験まで2か月を切った頃です。幸いにも合格し、大学でもテニスを続けました。

大学ではケガをしたこともあってあまり活躍できず、研究に力を注ごうと3年のときに当時一番倍率が高く、他大学からも猛者が集まってくる運動生理学・スポーツ科学では日本を代表する研究者である勝田茂先生の研究室に入り、筋線維組成の変換のメカニズムを研究していました。この分野は、医学、理学、薬学と横断的な学問です。今私が所属している「日本サルコペニア・フレイル学会」は、加齢による筋力の低下などを扱う新しい学会ですが、メンバーの7割は医師、私のようなそれ以外の基礎研究分野が3割です。

現在は、サルコペニアという加齢に伴う筋肉の減弱のメカニズムを研究しています。

筋肉細胞内は時間の経過とともに役に立たないミトコンドリアや変性したタンパク質などがたまっていきますが、通常はオートファジー(細胞内のタンパク質を分解する仕組み)によって処理されます。しかし、年齢を重ねるとこの仕組みがうまく動かなくなり、いらなくなった物質が放置されたままになり、体の中にゴミのようにたまっていきます。これが正常なたんぱく質やミトコンドリアの活動を邪魔してしまうのですね。そうならないためには、栄養が十分に採れている高齢者の場合、運動をするか食事を腹八分目にすると有効だ、ということがここ2、3年でわかってきました。現在は、なぜ高齢化に伴いオートファジーがうまく機能しなくなるのか、その詳細なメカニズムを解明しようとしています。筋肉の老化の原因と老化予防の双方を解決することができれば、と思っています。

結果を考えすぎず
飛び込んでみることも大切

佐久間 邦弘 教授

リベラルアーツ研究教育院の授業では、新入生向けの「東工大立志プロジェクト」や、大学院生向けの「リーダーシップ道場」など、学生たちの必修科目である教養コア学修科目での指導に加わっています。こうしたグループワーク型の授業の主人公は学生たちです。ゆえに、教員の後ろからの舵取りがとても重要だと感じます。白けた態度の学生や、雑談ばかりしている学生が1人いるだけで、周囲にしらけムードや雑談モードが蔓延してしまう。かといって、上から頭ごなしに禁じてしまうと、そもそも学生主体のグループワークにならない。

そこで、大半の時間は学生たち自身に議論をさせるのですが、要所要所で私が声がけをして、みんなの注目を集めたり、タイミングよく声をかけたり、ということを意識してやるようにしています。長年、学校でテニスをやってきた経験がけっこう生かされています。

長年プレーヤーとしてテニスに関わり、指導を行ってきた経験から、パッと見てチーム全体がいまどんな雰囲気になっているのか、個々のメンバーの挙動や目線から把握するのは、得意なんです。そもそもテニスは屋外活動なので、声を張らないとメンバー全員に聞こえません。何か良からぬことが起きそうだと思ったら、近くに行って声を掛ける。そういう危機管理が自然にできるのは、私の場合テニス活動で培われたところが大きいですね。

大学院生が対象で4月から始まる「リーダーシップ道場」の少人数クラスの授業では、授業の冒頭で興味深い取り組みがあります。

たとえば「他己紹介」。はじめて同席したクラスメート同士で話し合ったあとに、自己紹介ならぬ他己紹介を書いて発表してもらう。初対面の相手の話をきっちり聞いて、どんな人かを自分が理解し、その人の魅力を知らないと他己紹介はできません。コミュニケーション力を鍛えるのにうってつけです。あるいは「過去に一番恥ずかしかったこと」を発表してもらう。初対面のクラスメートたちに、自分の恥ずかしい話をするのはとても勇気が必要です。

最初にトライしたときは、恥ずかしがり屋が多い東工大生にはハードルが高いかなあ、とも思っていました。ところが蓋を開けたら、みんなが真剣に、そして面白がって取り組んでくれるようになりました。恥ずかしがり屋だけど真面目で素直な東工大生のいいところを引き出すことができたようい思います。なにより、新入生たちを殻の中から引っ張り出す効果がありました。

優秀な学生は一方で、意味があるかどうかわからないけど、とにかく飛び込んでやってみる、という行為が苦手だったりします。でも、新しい環境で学ぶにあたっては、あえて飛び込む勇気が必要です。飛び込んでしまえば、案外周囲は受け入れてくれるし、手の内を見せてくれる。少人数クラスで新入生たちに私が伝授したいことは、「飛び込む勇気」ですね。

また、東工大の授業では、「振り返りシート」というものが用意されています。学籍番号と名前を記述して、授業終了後に提出させる。出席管理に使えるだけではなく、授業での学びを学生たちに書かせて、振り返らせる機能もあります。

私の場合、初年度は、振り返りシートを使っていなかったんですが、2年目から積極的に使うようにしました。これに教員が少しでもコメントを入れたり、アンダーラインを引いたりすると、双方向の指導ができるんですね。とてもいい教育ツールだと思います。

運動習慣を身につけよう

佐久間 邦弘 教授

アルツハイマー病の予防法としてこれまで、いろいろな可能性が検討されましたが、薬も食べ物も軒並み否定され、はっきり効果があると認められるのは運動しかないということがわかってきました。また、抑うつに対する運動の効果についても研究が進み、間違いなく効果がありそうだと言われています。私の研究分野である筋肉の減弱もそうですが、他の方法で多少の効果はあったとしても、最も効果が高いのは運動で、どうしても必要です。

筋肉を動かすと、少なくとも30種類の細胞間情報伝達物質「マイオカイン」が血中に放出されます。大腸がんになる細胞を撃退したり、脳や内臓に効果的な働きをしたりします。かつて、筋肉は大脳の部下のように思われていました。大脳が指令を出して、筋肉が動く=体を動かす、運動を行う。けれども、いまでは、むしろ、まず先に筋肉が動かすことがトリガーになって、体や心にポジティブな影響を与えることが多い、という事実がわかってきています。

その意味でも、人生の質を高めるためには、頭がよくなるだけではなく、筋肉を健康な状態に維持していくことがきわめて重要です。ですから、筋肉を健全に育む運動も、欠かせない行為です。東工大生はみんな頭がいい。だからこそ、どんどん体のほうも動かして、心身ともに健全な状態に持っていってほしい。それが結果として、自分自身の研究成果の向上にも役に立つはずです。みなさん、ぜひ好きなスポーツをひとつでもいいから決めて、体を動かしましょう!

Profile

佐久間 邦弘 教授

研究分野 運動生化学、運動生理学

佐久間 邦弘 教授

1991年筑波大学体育専門学群(運動生理学)卒業。筑波大学大学院博士課程体育科学研究科を修了し、博士(体育科学)取得。愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所・生理学部門研究員、京都府立医科大学法医学教室助手、京都府立医科大学法医学教室学内講師、豊橋技術科学大学体育・保健センター 准教授を歴任。日本サルコペニア・フレイル学会 (理事)、日本体力医学会(評議員)に所属。

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