リベラルアーツ研究教育院 News

国際関係のダイナミズムに着目し、政治のメカニズムを学ぶ

【国際関係論】 川名 晋史 准教授

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2019.11.13

川名 晋史 准教授

交渉や駆け引きが、大きく作用する国際政治

私が担当するのは「国際関係論」です。「国際政治学」と言い換えても構いません。「政治学」の一領域ですね。

では「政治」とはなんでしょうか。ひと言で表現すると“価値の権威的配分”です。余計難しく聞こえてしまいます(笑)。

みなさんが欲しいと考えるものは、だいたいが有限です。限られているがゆえに手にしたいのです。空気のように、価値があるのに「無限」というものはなかなかないものです。

では、そうした有限の価値を手に入れるにはどうしたらいいでしょうか。すぐに思い浮かぶのは、お金を払って、マーケットを通じて手に入れる。いわゆる経済活動です。

でも、たとえば、自分の要求に他人を従わせるような「力」が欲しいと思ったとき、人はどうしたらいいでしょうか。ふつう、そうした「力」は、企業が提供する商品やサービスとは違って、マーケットで取引されるものではありません。そこで人々は、さまざまな手段を講じてそれを獲得しようとします。「政治学」の役割の一つは、この「力」の獲得と管理のメカニズムを捉えることにあります。

そんな「政治学」に“国際”がつくとどうなるか。

ふつう政治学と聞くと、いわゆる国内の政治を思い浮かべる人が多いでしょう。その国内政治には、ガバナンス(統治)の仕組み、たとえば、日本のような民主国家であれば三権分立というシステムが整備されています。

一方、国際政治の領域には、それが存在しません。つまり、国内社会であれば、みなさんが欲しいと願う価値は、立法府や行政府、あるいは司法をつうじて配分されたり、管理されたりします。しかし、国際社会では、あるときは戦争によって、またあるときはアメリカという大国や国連のような多国間の組織がそれを「権威的」に配分することになります。当然、そこでは国内の場合と比べて、交渉や駆け引きといった要素が大きく作用します。この点が、国内と国際の政治の構造を分かつ最大のポイントです。学生にはその面白さを味わってほしいと思います。テレビのワイドショーやニュースで見ている「政治」とは別物なんですね。

国際政治を規定する重要な要素は、いまも昔も「力」です。それは、経済力や軍事力、あるいは文化などの国の魅力によっても構成されています。日本に流通する国際政治のニュースは、大半がアメリカ発であったり、アメリカからみた国際情勢だったりします。それはそれで問題なのですが、このような状況では、ひとまず日米関係を切り口に「国際政治学」を学んでもらうのが良さそうです。

2つのタイプの授業から議論するゼミへ

川名 晋史 准教授

日本の大学で「国際政治学」というとき、それは大きく分けて2つの領域から成るものです。外交史や国際政治史の領域と、理論や一般モデルを扱って因果関係や因果メカニズムを考えていく国際政治学の領域です。教員のスタイルによっては、どちらかだけを教える場合もありますが、私は欲張って両方を教えています。国際関係論AとBが前者、Cが後者ですね。

情報の蓄積が物を言う国際関係論AとB、すなわち歴史の授業では、東工大生は概して良い点数を取ります。本当は歴史を一面的なものとしてではなく、さまざまな側面から考察してもらいたいのですが、高校の世界史のような、いわば暗記型の勉強スタイルから抜け出せずにいる学生が多いことも事実です。点数はとれても、授業中の活気はいま一つと、いう感じでしょうか。

一方、理論的なことを教える国際関係論Cでは、正解が用意されていません。これに戸惑う学生も少なくないですが「東工大立志プロジェクト」がスタートしてからは、授業でも一番前の席に座って発言する学生が増えました。教員と学生の双方向的のやり取りが成立するようになり、エキサイティングな瞬間も多々あります。政治現象に関する理論やメカニズムに関心のある学生は、こちらの授業に積極的に参加してほしいと思います。

より少人数で濃い議論ができる社会科学ゼミでは、私の専門分野により近いところで、毎週、活発な議論が行われます。各自の関心に沿って、国際関係論の論文も書いてもらいます。そこでは東工大らしさが存分に発揮されています。というのも、一般化やモデル化の過程で、計量・数理を用いようとする学生が多いからです。自然科学分野の知識を社会科学に応用することで「面白い!」と感じるスイッチが入ります。実に素晴らしいことです。いつか彼らの専門の研究に役立つときが来るといいなと思います。

なお、東工大では3年次に全員が取り組む「教養卒論」があります。個々にテーマを決め、リベラルアーツの学びを振り返り、論文を執筆してもらうというものです。ゼミでの研究と教養卒論をうまくリンクさせてくれればと願っています。

自分らしく活躍するために
国際政治学を役立ててほしい

川名 晋史 准教授

国際関係論の授業ではしばしば、インターネットから得た情報にだけ頼って、偏った考え方をもつ学生もいます。もしかしたら、国際関係論のような世界に興味を持つ人ほど、そうした傾向があるのかもしれませんね。学生は卒業したら、ビジネスや研究などで外国に行く機会があると思います。そこでは「教養人」であるかどうか、相手から値踏みされます。「国際関係論」を学ぶことの実利を一つ挙げるとすれば、相対的な視点を獲得できる、ということでしょう。社会や人間、あるいは目の前で起きている対立や緊張を、相対的かつ中立的に捉えることができれば、異なる価値観をもつ他者や組織とより円滑な関係が築けるはずです。

私自身、研究者として、日々のインターネット経由の情報をできるだけ避けるようにしています。それは既存のものの見方に左右されず、自分で思考を整理したいと思うからです。それによって「読み」を誤ることもありますが、大したことでありません。それよりも、自分の頭で考えることで拓ける、独自の視界のほうがはるかに重要です。インターネットは便利な道具ですが、そこに流通する情報の不確かさや、言葉の脆さと向き合って欲しいと思います。

東工大生は勉強熱心です。わからないことがあれば、授業中もすぐにネットで調べてくれます。それはとてもいいことです。でも、とりあえずの「答え」が見つかると妙に納得してしまっている学生も多いです。国際政治の本を1冊読んで「こんなものだ」とわかった気になってしまいます。批判的な精神を育て、自分ならではの「問い」に出会って欲しいと思います。

自分で一から考える政治学者としての矜持

川名 晋史 准教授

私自身は、大国の海外基地を軸に国際政治学の研究を進めています。じつはこの分野では、近年まで学術的な意味での基地の研究はあまり進んでいませんでした。日本では沖縄の問題がこれだけ政治問題化していますから、不思議に思われるかもしれません。

沖縄と同様の問題は世界中にあります。アメリカは歴史上、平時に、他の主権国家に軍事基地を置いた初めての国です。時期は第二次世界大戦後のことですが、それ以降、かつての植民地時代とは異なる性質をもつ政治問題が世界中で生起するようになりました。

この研究を始めた当初、私の議論は、アメリカという稀代の大国にしか適用できないもので、一般的な理論への展開は不可能である、と批判されることがありました。しかし、国際社会での中国の台頭によってそうした批判が的外れであることが明らになってきました。大国としての中国の将来を占う上でも、一般的な基地の研究、あるいは米軍基地の政治史は重要な研究領域になっています。

物事の本質に近づくためには、長期の視野で対象を見つめることが大切です。自分が解き明かしたいと思う事象の原因を、その直近の出来事に求めるだけでは、十分な説明を構築できないことがあります。線型的で一見綺麗に見える因果関係に飛びつかないことです。

とはいうものの、そうしたスタンスで研究を続けるには勇気がいります。私の研究室には、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンのポスターが貼ってあります。それは、社会の変化が長期的で、漸進的なものであることを意識するための戒めです。もちろん、単純にダーウィンのファンだから、というのもあります。ダーウィンは批判を恐れず、卓越した知性で「進化」という一般概念にたどり着きました。私もそんな研究をしていきたいですね。

Profile

川名 晋史 准教授

研究分野 国際関係論

川名 晋史 准教授

1979年生まれ。2011年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科博士後期課程修了。博士(国際政治学)。参議院第一特別調査室客員調査員、内閣府日本学術会議上席学術調査員、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター特任フェローを兼任(2019年時点)。著作に『基地の政治学―戦後米国の海外基地拡大政策の起源』(白桃書房 2012)、編著に『共振する国際政治学と地域研究―基地、紛争、秩序』(勁草書房2019)など。

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