リベラルアーツ研究教育院 News

理工人に求められる語学力とは?リンガ・フランカとしての英語に注目

【社会言語学、応用言語学】木村 大輔 准教授

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2020.11.11

木村 大輔 准教授

ネイティブとノンネイティブを区別しない
リンガ・フランカ化した英語のあり方

私の専門は、社会言語学です。「リンガ・フランカとしての英語(English as a Lingua Franca)」に注目し、さまざまな研究・教育活動を行っています。

リンガ・フランカとは、母語が異なる話者同士の共通語として使用される言語のことです。現代では、英語が典型的なリンガ・フランカです。世界の4人に1人(約19億人)が何らかの形で英語を話すと言われますが、そのうち英語圏に暮らすネイティブスピーカーは約6億人。英語に関しては、ノンネイティブスピーカーのほうが多数派なのです。

その意味で、国際社会における英語の立場は、他の言語とはまったく異なります。学び方も異なってきます。従来の言語学習では、ネイティブスピーカーが話す発音や文法、スペルがお手本となっていましたが、英語をリンガ・フランカとして捉えた場合、ネイティブ並みの正確さを求めるよりも、まず、英語を使って互いに理解し合えるかが重要になります。

けれども日本の英語学習の現場では、いまだに過度の「本場志向」が優勢です。学ぶ側も、どうせならばネイティブのように喋りたいと考えてしまう。その姿勢は立派ですが、正確さばかりに固執すると、いざ英語を使う場面に直面したとき、「私、ネイティブみたいに喋れないから」と躊躇して、けっきょく意見を言えない弊害も起きてしまいます。

一方、英語のネイティブスピーカーにも悩みがあります。流暢すぎる英語は、かえって国際社会でうまく意思疎通できなかったりするのです。英語のノンネイティブスピーカー同士で滞りなく会議をしている中に、突然ネイティブスピーカーがやってきて早口でスラング混じりでまくし立てると、誰も理解ができない、という状況に陥ったりするのです。リンガ・フランカとして英語が使われる場では、時として、ネイティブスピーカーであることがディスアドバンテージにもなり得るのです。

英語学習のゴールは、ネイティブスピーカー並みの英語を習得することでは必ずしもありません。英語をリンガ・フランカとしてとらえた場合、ネイティブ並みの英語か、しょせんノンネイティブの英語か、という区別はまったく生産的ではないのです。

以上を踏まえ、私の研究活動では、多様な言語・文化的背景を持つ者同士がどのように英語を使用し、相互理解を達成しているのかを調査・考察することに注力してきました。

ノンネイティブがネイティブを教える
アメリカ大学教育の日常

木村 大輔 准教授

この研究に興味を持ったきっかけは2007年、大学の学部2年生の1年間を過ごしたタイでの留学経験にあります。

留学先にタイを選んだのは、英語圏ではない国でありながら、世界中から集まる学生たちと授業をすべて英語で受けられる、という理由からでした。そうした国際的な環境に身を置き、コミュニティの共通言語としての英語を使う生活を体験してみたかったのです。

留学先は大学の協定校、バンコクのタマサート大学です。毎年約100名の学生が参加する留学プログラムは、さまざまな国の留学生と交流しながら互いの言語や文化に触れられる魅力がありました。他国の学生との交流や経験を通して、「多言語環境の中の英語」に関する問題意識が自然と形成されていきました。

ただし、タイは首都バンコクでも大学を一歩出れば、典型的な非英語圏で英語だけでは用を足せません。現地のタイ語の勉強をしなければ、と思い知らされました。私の場合、日系企業でインターンシップとして働いていました。現地スタッフとの仕事や雑談のなかでタイ語を覚えることができました。

その後、私は「多言語環境の中の英語」をより深く研究するために、フルブライト語学アシスタント(FLTA)プログラムに参加して、1年間ケンタッキー州立大学で日本語を教えました。この頃、「リンガ・フランカとしての英語」という概念も広まりつつあったので、修士課程はハワイ大学に進学しました。

ハワイ大学は、伝統ある海洋生物学と並んで、応用言語学などの言語系のプログラムでも有名な大学です。移民の文化と歴史を持つハワイならではの強みでしょう。ここで第二言語研究の修士を取得したあとは、ペンシルベニア州立大学で応用言語学の博士課程に進みました。

ペンシルベニア大を選んだのは、修士時代に著書で感銘を受け、ぜひ教えを請いたいと思った先生がいらしたからです。大学院ではその先生のご指導のもと、さまざまな言語使用場面の分析を、研究と教育の両面から行うことができました。

たとえば、ネイティブとノンネイティブが混在する理系研究室において、ノンネイティブの博士研究員がどのような言語を使用しているか、それがグループ内のコミュニケーションや研究成果にどう有益な効果をもたらしているか。研究現場の実態に基づく調査もその一例です。

教育の場においては、アメリカ人学生に身近な「Pittsburghese (ピッツバーグの方言)」を題材にアメリカ国内の英語の多様性についての理解を促したうえで、その発展として世界の英語の多様性についての議論を行ったりもしました。

ペンシルベニア大学では、学部生の授業の一部を大学院生が教えているのですが、その担い手は留学生がほとんどです。つまりノンネイティブがネイティブを教えているという光景が、まさに日常なんですね。理系の大学院においてはとくにそれが顕著で、アメリカの院生の7~8割は留学生だったりします。

その意味では、東工大生のみなさんがたとえアメリカに留学したとしても、そこで触れる英語はネイティブのそれではなく、リンガ・フランカとしての英語である可能性は非常に高い。それは、実社会に出てからも同様だといえます。

「英語学習者」から「英語使用者」へ
今ある知識をもって英語を使いこなそう

木村 大輔 准教授

東工大には、この4月に着任しました。担当は英語科目です。

新型コロナウイルス拡大防止のため、今のところ授業はすべてZoomによるオンライン形式。まだ学生さんたちとは直に対面していません。それでもパソコンの画面越しに、あるいは授業中にチャットで送られてくる質問や課題提出メールを通じて、みなさんの優秀さや真面目な姿勢は伝わってきます。

私が学生のみなさんにお願いしたいのは、「英語学習者」ではなく「英語使用者」たれ、ということです。

東工大生の中には英語に苦手意識を持つ人も少なくないでしょう。でも、みなさんは大学に入るまでの間に英語はもう十分勉強しています。ネイティブスピーカーのようには喋れなくても、英語を聞いたり書いたり話したりすることはできます。まずは、すでにあるその知識と経験を生かして「英語を使う」ことを意識してみてください。大切なのは、今持てる能力をいかに活用しアウトプットできるか、です。

私が別の大学で教えているスピーキングの授業では、文法を評価対象にしていません。評価の基軸は英語を使って理論的に発表でき、自信を持って話せているかという点のみ。将来リンガ・フランカとしての英語を使っていくことを考えたら、そういう授業があってもいいと思うのです。

一方で、ライティングの授業では当然文法も重視します。このライティングを教えるにあたって、効果を発揮するのがオンライン授業です。ひとつには、個々の空間で取り組むことにより課題に集中できるというメリットがあります。また、チャットで質問が来ても、授業の流れを止めずに最適なタイミングで返信できるのもオンラインの利点。東工大生の特徴なのかチャット故の気軽さからか、授業では毎回たくさんの質問をいただくので、こちらも気が抜けませんね。

授業では、オンラインならではの工夫も試みています。たとえば、リスニングの練習では、学生たちに英文を聞いて書き取ってもらったあと、お手本として私のやり方を映像で見せたりもしています。書き取り中の私の手元を映すことで、次のリスニングに備えるためのメモの取り方やスペースの分け方などを紹介する流れなんですが、これがけっこうわかりやすいと評判もいい。

こうしたアイディアは、オンライン授業をするにあたって試行錯誤した結果生まれたものです。いつも通りの対面授業だったら、たぶん思いつかなかったし、やろうとも考えなかったかもしれません。今は遠隔授業を余儀なくされていますが、この状況下でも十分なフィードバックを出していくことはできるはずなので、教員としてできることはいろいろ試してみようと思っています。

本来、学習は教室の中だけで完結するものではありません。学生のみなさんも、自分なりに工夫して、学び続ける自走的な姿勢を身につけてもらえれば幸いです。

理工人にとっての英語とは何か
リベラルアーツ的思考で捉えてみる

木村 大輔 准教授

言語は「道具」である、とよくいわれます。とくに技術者や科学者にとっての英語は、研究や仕事をしていくうえで欠かせない日常的なツールです。でも、本当の意味で道具として使うのであれば、自分なりの使い方を身につけていかなければなりません。英語が上手いとか下手であるとかいう以前に、まずは「英語使用者」の自覚を持つことが大切です。

理工人であることと、語学を駆使することとの壁。そこを埋めるのが、リベラルアーツではないかと思っています。リベラルアーツとは、目の前の事象に疑問を持ち、批判的思考のできる素養を育む学問のこと。その中には「英語とは何か」という問いも含まれています。

理工人にとっての英語とは何か。それは理工系の知識やスキルと同列の、プロフェッションの一部だと考えています。そしてその基盤は、大学に入学した時点ですでにみなさんは持っているのだから、躊躇せずに堂々と使ってみてほしいのです。道具は使うことで磨かれていきます。もちろん私も、理工分野における語学研究や英語教育を通じて、東工大生と英語の距離を縮め、その橋渡しとなるような授業を心がけていくつもりです。

授業以外にも、東工大には英語を使えるチャンスがいくらでもあります。たとえば、TAKI PLAZAのような留学生との交流の場を利用してみるのもいいでしょう。そこに集うのは、使う言語は異なれど、だれもが何らかの専門性を究めようとする学生たちです。互いの得意とする分野について、異なる文化や言語を持つ人同士で議論することは、それぞれの研究に新たな視点や発見をもたらす好機となるかもしれません。

東工大は、理工を学べるだけでなく、学部初年度から大学院までの一貫したリベラルアーツ教育や、多彩な言語・文化的背景を持つ留学生たちとの交流機会にも恵まれた豊かな学びの場。私自身、この環境に身を置けることをとても光栄に感じています。みなさんも、学内にある多様性と積極的に関わっていくことで、ぜひ自分の世界や専門とする研究の可能性を大きく広げていってほしいですね。

Profile

木村 大輔 准教授

研究分野 社会言語学、応用言語学

木村 大輔 准教授

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。ペンシルベニア州立大学応用言語学研究科博士課程を修了後、東京大学特任講師を経て2020年4月より現職。自身のタイでの留学経験を契機に、英語と異文化コミュニケーションに興味を持ち、現在も研究を続けている。専門は社会言語学、とくに質的調査手法を用いた相互行為の研究。国際学会における発表・論文掲載多数。

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