リベラルアーツ研究教育院 News

身体の健康とスポーツ能力の向上は科学的知識とリテラシーがカギとなる

【運動生理学、スポーツ科学】須田 和裕 准教授

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2020.02.17

須田 和裕 准教授

命に関わる飲酒トラブルを防ぐため
入学直後に危険性を学ばせる

私が東工大に赴任したのは1992年ですから、リベラルアーツ教育学院内でもかなりの古株になりました。授業では1、2年生が履修できる健康科学概論と体育実技、東工大立志プロジェクトを担当しています。新入生と関わりが深い教員の一人かもしれません。

「健康科学概論」は、生涯を通じて健康に生きていけるよう、健康や生命に関する科学的理解を深め、自己の健康管理ができる素養を身につけることを目的としています。飲酒や禁煙、メンタルヘルス、ストレスへの対処法などをテーマに講義しており、石川国広先生と前半後半で分けて担当しています。

中でも重視しているテーマは、飲酒です。

私は1年生が4月に受ける最初の授業で、必ず飲酒の危険性の話をしています。新歓コンパなどでお酒に接する機会が多くなる時期です。大学生はアルコールの問題が最も身近でかつ危険ですからね。

授業ではアルコールが体内でどう分解されるかといった解説と併せ、一気飲みの危険性やどういうシュチュエーションで急性アルコール中毒による死亡例が起こってしまったかを具体的に話しています。幸い、大岡山キャンパスの周辺では酔っ払って道端で倒れている学生を見たことはありませんが、学生が多い都心部の街では特に4月や12月には、酔っ払った学生たちをよく見かけます。そんな話をしながら、自衛の方法、そして自分たちが上級生になった時には下級生に無理にお酒を飲ませないことを伝えています。

喫煙については、もともと東工大の学生に喫煙者は少ないのですが、ろくなことはないよ、と話します。喫煙者を採用しない企業や入社までに禁煙することを約束させる企業、禁煙手当を出す企業は増えていますし、実験室でも煙草は吸えません。喫煙と健康の問題についても授業では触れています。

運動生理学の基礎を学び、
体内メカニズムの奥深さを知る

須田 和裕 准教授

4回の授業のうち2回は運動生理学の基礎的な話をします。
たとえば、運動は3つに分類することができる。

1つめは棒高跳びや砲丸投げのように、一瞬で筋肉中に貯蔵されているエネルギー源、ATP(アデノシン三リン酸)を使いきって爆発的な力を発揮する運動です。

2つめは、筋肉中のグリコーゲンが分解され乳酸に変わる際に発生するエネルギーをATPの再合成に用いる、乳酸性の運動と言われるものです。400メートル走は乳酸性のエネルギーをうまく使っている最たる例で、数十秒間、強度の高い運動が可能になります。

3つめは、乳酸ができない、有酸素系のATP再合成による運動で、マラソンなど長距離走のように長時間持続的に続けることができます。もちろんマラソンや駅伝でも、ラストスパートなど乳酸ができるくらいの強度で走ることもあります。

サッカーやバスケットボールなどの球技は、筋肉に乳酸がたまると休んで乳酸を減らし、また動いて乳酸がたまるという繰り返しになります。運動生理学ではインターミッテントエクササイズと呼ばれる運動です。乳酸がすごくたまってしまった時は休みを長く取らざるを得ません。近年では、プロ野球をはじめ、各種スポーツで審判の判定に不服がある時に「チャレンジ」をしてビデオ判定などを行う制度がありますが、判定に不服があるわけではないけれど、休みたいから「チャレンジ」をしているケースも、プロスポーツの場合はあるでしょう。その時間で乳酸を減らすんですね。

こういった球技では筋肉中に蓄えられたグリコーゲンの量が重要で、グリコーゲンを多く貯蔵しているほうが試合の際は有利になります。そこで授業ではグリコーゲンを効果的に増やす方法も話しています。グリコーゲンは基本的にグルコース(ブドウ糖)が結合したものですから、試合前は炭水化物の多い食事を取ればいいのです。

ただ、あらかじめ筋肉や肝臓のグリコーゲン量を低下させ、下げた状態を続けておいて、試合の直前に炭水化物の多い食事をとると、より筋肉中のグリコーゲン量が増えると言われています。オリンピック選手などはみんなこうして良いパフォーマンスができるピークを合わせているはずです。

あとはドーピングの話もいたします。スポーツ界でドーピングは非常に厳しく取り締まられています。ドーピング検査については、いつどこでトレーニングするかといった居場所情報の提出が事前に必要なのですが、居場所情報を提出していないだけで、もうアウトなんです。また居場所情報通りの場所にいなくてもアウト、検査場に来ない場合もアウト。そういう行為自体がドーピング違反になってしまうんですね。

こんな具合にスポーツや運動と身体に関して知っていたら面白そうな話を積極的に授業ではすることにしています。8割くらいの学生は興味を持って聞いてくれていると思います。特に体育会系の学生は熱心ですね。

研究室で作業することが多い東工大生だからこそ
運動を楽しんでほしい

須田 和裕 准教授

体育実技は3、4クオーターでバドミントンを担当しています。バドミントンは初心者でもすぐに試合ができるので、毎回半分は練習、半分は試合をして、学生が楽しく運動できるように心がけています。試合はまずシングルスから。レベルごとにグループ分けし、リーグ戦を行っています。グループで1位になれば、グループのメンバーの入れ替えもします。

レベルごとに分けるのは、同程度のレベルの人となら遠慮なく対戦でき、思い切りプレーを楽しめると考えるからです。ダブルスは接触したり、シャトルが目に当たったりする危険があるため、シングルスで慣れてから行っています。学生はなぜかダブルスが好きですね。みんな汗びっしょりになってプレーしています。

東工大のアメリカンフットボール部の顧問も25年務めています。できる限り試合にも行くようにしています。東工大のアメリカンフットボール部はわりと良い成績なんですよ。レポート提出などで忙しいなか、学生たちは1部昇格を目指して一生懸命に打ち込んでいます。ちなみに東工大生は体育会でなくても、わりと運動好きな学生が多いと感じています。

運動では普段の生活では使わない身体の部分を使います。脳の中でさえ、運動する時は別の分野を使っています。煮詰まった時に運動すれば血液が違った場所に流れますから、時々は運動したほうがフィジカルにもメンタルにも良いはずなんです。4年生は必修では実技を履修できないのですが、研究室で座っていることの多い東工大の4年生や大学院生にこそ、むしろ積極的に運動してほしいです。生涯健康でいられるために、また豊かな人生のためにも、教養科目としてウェルネス科目が入っている意義は大きいと思っています。

趣味のバドミントンを研究対象に
ゼミ生の「やりたい」意欲を尊重

須田 和裕 准教授

かつては動物を使ってホルモンの研究をしていましたが、大岡山キャンパスで実験動物を扱うのは難しくなったため、今は運動中の脳波を測定する研究を続けています。高校、大学とバドミントン部に所属し、その後もずっと趣味としてバドミントンを続けていますので、研究もバドミントンを対象にしています。

脳波の研究と言えば、光の点灯に対しての反応を測定する実験が多く、昔からもう少し実際のスポーツに近づけて研究したいと思っていました。しかし、脳波はごく微少な電気現象なので、実際にシャトルを打つ時に測るのはとても難しいんですね。ようやく少し実際に近い形で測定できるようになり、現在は試合のビデオを見ながら打つタイミングでボタンを押してもらい、脳波を測定する研究を行っています。研究が実際のパフォーマンスとつながるとすれば、どうすれば相手の裏をかくことができるかがわかることでしょう。シャトルを打つ際に、相手がどれくらい前から反応しているかがわかれば、それより後に、打つ方向を変えれば相手の予測の裏をかくことができますからね。

大学院生のゼミでは、4年間学んできたことを生かせるように指導しています。アメリカンフットボールやバスケットボールの作戦的なものをもう少し理論的に説明するというテーマで修士論文を書いた学生もいました。東工大の学生は一言えば十分かるような学生が多く、自分からどんどん進めていくので指導しやすいです。ドクターの学生が今、新しくプログラムを開発し、バドミントンのビデオ映像からプレーヤーの位置を検出するという面白い研究をしています。ビデオを見て記録するしかなかったラリーの記録が自動化されれば、相手の特徴も簡単に分析できるようになります。もう少し安価にできるようになれば、高校生のレベルでもプレーの特徴を簡単に分析できるようになるかもしれません。

Profile

須田 和裕 准教授

研究分野 運動生理学、スポーツ科学

須田 和裕 准教授

1979年筑波大学体育専門学群健康教育学卒業、1981年同大学体育研究科健康教育学修士修了。高知学園短期大学講師、駒沢女子短期大学講師などを経て、1992年より東京工業大学助教授。1993年、岐阜大学医学部で医学博士を取得。2014年、第15回日本運動生理学会賞を受賞。高校から始めたバドミントンを趣味で続けており、日本教職員バドミントン連盟副理事長、東京都教職員バドミントン連盟理事長も務める。

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