電気電子系 News
Cu(In,Ga)Se₂太陽電池へのAg添加効果及び裏面コンタクト特性の解析
今回、電気電子系166名の中から16名が、優れた修士論文発表を行いこの賞を受賞しました。受賞者にインタビューです。
温室効果ガス削減の観点から再生可能エネルギーの導入が進められており、中でも太陽光発電が基幹電源となることが期待されています。
我々の研究室では、現在主流であるSi太陽電池と比較し、厚さが1/100程度で済むCu(In,Ga)Se2 (CIGSe)太陽電池の研究を行っています。CIGSe太陽電池は、薄膜系においてトップクラスの変換効率が実現されており、低コストであることや長期信頼性に優れていることから、次世代太陽電池として期待されています。また、InとGaの組成比を変化させることでCIGSeの禁制帯幅を連続的に制御することができます。現在は禁制帯幅約1.1 eVのInリッチの条件で高効率が得られていますが、太陽電池の理論限界効率を得ることのできる1.4 eVの禁制帯幅ではかえって効率が悪化してしまうといった問題があります。この点に関し、CIGSe層へAgを添加することが研究されています。Ag添加は結晶粒径の増加や欠陥密度低下、さらに高禁制帯幅を実現しつつ伝導帯及び価電子帯の制御が可能となります。これらの利点に注目し、本研究では、Agを CIGSeに添加することによる CIGSeバルクおよび界面特性に与える影響について系統的に評価しました。その結果、Ag添加によるCIGSe表面付近の禁制帯幅増加及び膜質の向上により太陽電池の開放電圧が20 mV向上することを確認しました。
さらに、CIGSe太陽電池の裏面特性は現在まであまり注目されておらず、キャリアの輸送メカニズム等は詳細に解析されていませんでした。この点に関し、実測値に基づいた CIGSe太陽電池のデバイスモデルを構築し、 シミュレーションによる解析を行いました。その結果、CIGSeと裏面電極であるMoとの界面に自然に形成される5 nm程度の非常に薄いMoSe2という層が、CIGSe太陽電池のキャリア輸送に対して重要な役割を果たしていることが示されました。さらにシミュレーションを進め、Mo/CIGSe界面に高いアクセプタ密度を持った層を挿入することで裏面コンタクト特性が向上することが明らかとなり、CIGSe太陽電池のさらなる高効率化に向けた指針を得ることができました。
この度は優秀修士論文賞を受賞することができ、大変うれしく思います。このような結果も、研究でご指導をいただいた先生方や研究室メンバーのおかげです。お世話になった全ての方々にこの場を借りて感謝いたします。
私は来年度以降博士課程に進学しますが、より一層研究に注力し、持続可能な社会の実現へと貢献することを目指します。