電気電子系 News
共鳴トンネルダイオードを用いたテラヘルツ周波数コムの生成
2024年度は電気電子系105名の中から10名が、特定課題研究に関する優れた論文発表を行い、この賞を受賞しました。受賞者にインタビューです。
鈴木 左文教授(左)、永山 俊輔さん(右)
テラヘルツ帯とは電波と光の中間に位置する領域で、その光源や応用が未開拓な分野です。共鳴トンネルダイオード(RTD)はテラヘルツ帯の有力な光源として研究が進められており、小型かつ常温動作可能な半導体デバイスとして注目されています。テラヘルツ帯の電磁波は従来の無線通信技術と比べて周波数が高く、いわゆる「Beyond 5G」や「6G」での高速無線通信への応用が期待されています。さらに、テラヘルツ帯の透過性を活かしたイメージングやレーダーへの応用、分光分析など幅広い分野への応用も研究されています。
また、周波数コムは鋭いピークが周期的に並ぶスペクトルを持つ電磁波で、テラヘルツ帯において高出力かつ安定な周波数コムは実現されていません。その広い周波数帯域を活かし、通信における多重化よる高速化や効率的な分光分析、さらにテラヘルツ帯での周波数基準などへの応用が期待されます。
これまで、テラヘルツ帯のRTDを用いた光源の研究は主に周波数と出力の向上を目標に進められ、単一周波数での動作を前提としていました。しかし、近年RTD発振器に反射によりフィードバックを与えることで複数周波数での発振、特に周波数コムの生成が可能であるということが実験、理論の両面から明らかになってきました。そこで、本研究では回路シミュレーションにより周波数コムの生成条件やその制御方法を明らかにするとともに、RTDの半導体デバイスとしてのコンパクトさを活かした超小型のテラヘルツ周波数コム生成系を設計しました。
RTDでの周波数コム生成において、フィードバックの遅延と強度が重要なパラメータであることを見出し、最大で数百GHzにわたる幅広い等間隔なコム生成の可能性を示しました。この結果を受けてコム生成のための系を考案し、テーパー型アンテナを持つRTD発振器とフォトニック結晶導波路の結合により、mm~cmオーダーのサイズでコム生成可能なデバイスを設計しました。さらに発振器の作製も行い、設計目標とした400~500GHz帯において最大170µWの電磁波出力を得ました。
この研究にはまだ解決すべき課題も数多く残されていますが、テラヘルツ周波数コム生成とその応用に向けた一歩として貢献できたのではないかと考えています。
この度は学士優秀学生賞に選出いただき、大変光栄です。鈴木研究室の先生方、そして先輩方の温かいご指導のおかげで研究を進めることができました。心より感謝申し上げます。修士課程でもこの研究を継続し、まずは周波数コム生成系の実証を目指して研究に励んでいきたいと思います。