電気電子系 News
電電HPサポーターの上田です。
今回、新たに准教授に昇進され研究室を設立された雨宮 智宏先生に、研究者になるまでの道のりやこれから研究室を選ぶ学生に向けてのメッセージについて伺いました。
上田: この度は准教授への昇進、おめでとうございます。現在は光デバイスに関する研究をされているとのことですが、現在の研究を始めるまでの道のりを教えていただけますか。
雨宮 智広 准教授(以下、雨宮): インタビューの答えとしてはあまり面白みがないかもしれませんが、“道のり”と言えるほど情熱的な出来事があるかと言われると、これといってない…ですね(汗)。私が東大で学部時代を過ごしていた2000年代初頭は、ちょうどインターネット通信量が増大した時期で、情報工学の時代が到来していました。そんなこともあって、素人目線でもそれなりに魅力的に思えた情報工学科に行きたいなぁと。そんな感じのことを漠然と考えていた何処にでもいる普通の学生でしたね。
上田: 情報系の学科は非常に人気ですもんね。
雨宮: AIが時代の寵児となった今ほどではないですが、それでも当時から情報工学科は人気がありました。でもお恥ずかしい限りなのですが、学部時代の成績が足りなくて情報工学科の研究室に入れなかった(笑)。それで、お隣の電気電子工学科に目を向けました。電気電子工学科はソフトではなくそれらを支えるハード(デバイス)自体を作る研究室が揃っていたのですが、案外面白そうじゃんって。結局、学部はスピントロニクス、大学院は光デバイスを主軸としている研究室を選びました。
上田: 色々調べて、関連分野に興味が沸いたので、その研究室を選んだ?
雨宮: というより、講義が分かりやすかったので、とりあえず行ってみようかと。「その分野に興味があります!」と言えるほどの信念があったかどうかと問われれば、だいぶ怪しかったですね…。
上田: 確かに、講義が面白くてその分野に興味を持つということは私自身も経験があるので、よくあることなのかもしれないですね。
雨宮: はい。講義は重要だと思います。学生が研究室を選ぶときにはそれほど専門的な知識があるわけではないので、その先生の授業が一番の判断材料になるわけですから。それは今も昔も一緒だと思います。
上田: ちなみに、学部と大学院で研究分野を変えられたのは、何か大きなきっかけがあったのでしょうか。
雨宮: 大きなきっかけですか…。これもお恥ずかしい限りで、学部時代の研究室の同期にすこぶる優秀な留学生(注1)がいたんですが、逆立ちしても彼に成績で敵わなかった。さっきからそんなのばっかりですね(笑)。それで、大学院では別の研究室に行くことになったのですが、その時には自分の手でデバイスを作ることの面白さに魅せられはじめていたので、同じデバイス繋がりってことで光デバイスの研究室を選んでみました。その研究室の先生に「デバイスを一から作れるよ」と言われて、割とノリで決めたような感じです。その時の選択が一生の職業に繋がるわけですから、人生何があるか分からないですよね。
上田: 卒業後、東工大に?
雨宮: はい。本学は光通信分野において、過去から現在に至るまで世界の先端を走っています。それは学生時代から強く感じていたので、「そうだ 東工大、行こう。」って(笑)。そんな中、助教として着任した自分に、研究室を主宰する荒井滋久先生(2019年3月退職)と西山伸彦先生(工学院電気電子系 教授)(注2)は「光通信に拘らなくていいから、何か新しいことをやってみなさい」と。光通信の本流とも言えるグループに着任した助教に対して、テーマに拘らなくていいというわけですから、その懐の深さに大いに驚いた記憶があります。そこから、メタマテリアル(注3)・トポロジカルフォトニクス(注4)などの新しい光構造の研究に従事して今に至ります。
上田: この度、新しく研究室を立ち上げられたとのことですが、何か心がけていることはありますか?
雨宮: 私の専門とする半導体光技術(注5)は、社会基盤の一つである高速・大容量の光通信インフラを支えているということもあって、各国の企業や国立研究機関を中心に、相応に高度な結果が要求される傾向にあります。そういった大きな組織とデバイス性能を直接競っていくことは、現実的には難しい。我々のように一からデバイスを作っているようなグループでは、特に。じゃあどうするかというと、新しいコンセプトに基づいた次世代の光デバイス、もう少し言えば、コスト面なども含めて企業で研究対象とするには難しいデバイスを中心に据えることを心がけています。実用化を見据えたビジョンを描くことも科学者として極めて重要なことだと思いますが、それありきで研究を進めるのは企業の務め。我々は大学という環境を活かし、新しい原理、新しい構造、新しいプロセス技術を駆使することで、もしかしたら十数年後くらいに使われるかもしれないシーズを探し出し、企業の方々に新たな可能性を見せることが仕事だと思っています。なんか普通な回答になっちゃいましたね(笑)。こういったことは、私に限ったことではなく、電気電子系の多くの先生方が考えておられることだとは思います。
上田: 最近は研究において「それって具体的にどこで使うんですか?」というような質問をよく聞くように感じますが、その時は具体的な応用先がなくても後でそれが見つかる場合もあるわけですから、目下の応用先ばかりを考えるのはよくないのかもしれないですね。
雨宮: そうですね。そういったことを何も考えないというのもそれはそれでNGなんですが、ここは大学なんですし、キャンパスにいるのもほぼ学生。未来の社会を担う彼らと、もう少し夢を見てもいいんじゃないかと思います。
上田: 今後研究室を選ぶ学生に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
雨宮: 研究室を選ぶにあたって、「この分野が絶対にやりたいです!」「この分野しか興味ありません!」という学生さんが結構な割合でおられるような気がします。誤解を恐れずに言えば、学部4年生の研究室選びの段階では、学生さんの視野はまだまだ狭いと思います。実際には、それぞれの分野は皆さんが考えているよりも遥かに深く、どの研究室に所属したとしても、それなりの好奇心さえあれば魅力的な世界が広がっています。もちろん、何か一つのことに情熱を傾けることは素晴らしいことですが、それ以外のことには興味を示さず、やる気を失ってしまうのはあまりにもったいないと思います。極論、「サイコロふって研究室を決めて、行った先で色々なことに挑戦してみる」くらいの柔軟性があっても良いかと。“どんな環境でも好奇心を持つ”ということが最も大切なんだと思います。
上田: 先程の先生自身の経験談とも合わさって、非常に説得力がありますね…。“好奇心”という話が出ましたが、実は私も電気電子系の授業だけではなく、最近は「幅広い知識を身に着けるべき」という考えのもと、他系の講義も受講しています。そうした「寄り道」で得た知識が後で役に立つ場面が多々あるので、納得できます。
雨宮: 電気電子系は日本の産業を支えている一大分野です。ただ、昨今の技術進歩にともなって分野間の距離は一層近くなっていて、電気電子系の知識だけでは対応できないことも多い。なので、上田さんのように別分野も含めた広い知見・視点を持つことは非常に重要だと思います。東工大は組織改編以降 6学院制になり、電気電子系は工学院に組み込まれました。最初の一年間は、機械系、システム制御系、情報通信系、そして経営工学系とすら肩を並べて勉強できるわけです。この時の友人を是非とも大切にして欲しいと思います。お互いに歩む道は異なるかもしれませんが、それぞれの系で研究室配属された後も、そして別分野の企業に勤めた後も定期的に会って飲み…情報交換をすると良いと思います。それが世界を変えるブレイクスルーに繋がっていくこともあるかもしれませんから。来年からは科学大にもなりますし、その流れは更に加速すると思います。
上田: 周囲に各分野の専門家がたくさんいる、こんな恵まれた環境はなかなかないわけで、だからこそ他の分野の友人との繋がりが今後に活きるかもしれないわけですね。私は積極的に他の学生と交流してこなかったので後悔の念に駆られていますが…。
雨宮: 長くなったので、この辺りで。研究室が立ち上がったばかりということで、これからも頑張っていきますので宜しくお願いします。研究室配属の際には是非見学にいらしてみて下さい。南9号館の707です(笑)。
上田: 本日はありがとうございました。