電気電子系 News

2022年度優秀修士論文賞 受賞!― 中越 一真さん(小寺研究室)―

シリコン量子ドットにおけるポテンシャル・デチューニングノイズ評価

  • RSS

2023.03.31

今回、電気電子系164名の中から17名が、優れた修士論文発表を行いこの賞を受賞しました。受賞者にインタビューです。

小寺哲夫准教授(右)、中越一真さん(真ん中)、米田淳特任准教授(左)。奥は実験で用いた希釈冷凍機。

小寺哲夫准教授(右)、中越一真さん(中央)、米田淳特任准教授(左)。
奥は実験で用いた希釈冷凍機。

この研究はどんな内容で、どのように世の中の役に立つことが期待できるのでしょうか?

本研究の大きな目的は、シリコンスピン量子ビットの電荷ノイズを低減することで、量子ビットの性能向上ひいては将来的な大規模量子コンピュータを実現することです。量子コンピュータは量子力学的な重ね合わせ状態を用いることで超並列計算を可能にし、従来の古典コンピュータでは途方もない時間が必要な問題を計算することができる次世代のコンピュータです。金融、創薬、機械学習など幅広い分野での応用が期待されており、実現すれば社会的に大きな意義がある技術であると認識されています。

量子コンピュータを構成する量子ビットは様々な物理系において研究開発が進められていますが、私の所属する小寺研究室ではシリコン中のスピンを利用するシリコンスピン量子ビットに注目しています。この量子ビットは、シリコン中の電荷を量子ドットというnmオーダーの人工構造物に閉じ込めることで実現することができます。

本研究では、シリコン量子ドットに生じる電荷ノイズに着目しました。シリコンスピン量子ビットは非常に繊細な物理系であり、少しのノイズでも量子力学的な状態が破壊されてしまうという問題があります。特に、古典的な半導体デバイスにも共通して現れる電荷ノイズはシリコン量子ドットにおける支配的なノイズ源であるとして研究が行われてきました。私の研究では、この電荷ノイズについて大きく二つの評価を行っています。一つ目が、pMOS型シリコン量子ドットの電荷ノイズ評価です。近年、その強いスピン軌道相互作用を利用することで高速かつ全電気的操作が可能な正孔スピン量子ビットが注目を浴びています。しかし、p型デバイスについては電荷ノイズの詳細な先行研究例が未だありません。本研究では、p型デバイスがn型デバイスと同程度のノイズレベルであることを確認するとともに、電荷ノイズ源である二準位系の特性同定まで成功しました。二つ目が、複数量子ドットに生じる相関ノイズの評価です。これまで単一量子ドットの電荷ノイズについて盛んな議論が行われてきたのに比べ、複数量子ドット間の相関ノイズについてはほとんど理解が進んでいません。そこで、相関ノイズの一種として、量子もつれ操作において重要な二重量子ドットのデチューニングノイズを評価しました。その結果、デチューニングノイズに対しても単一量子ドット中の電荷ノイズと同様の解析手法が適用できる可能性があることを確認しました。さらに、本研究の発展として量子誤り訂正の効率に影響を与えるドット間相関の強さ(コヒーレンス)についても一歩踏み込んで考察を行いました。

私の研究は、シリコン量子ドットに生じる電荷ノイズの解析手法、ノイズ源特性に関する新たな知見を得ることができ、将来的に作製される量子デバイスの性能向上に寄与するものだと考えております。今回得られた成果が誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現に繋がることを願っています。

受賞の感想

このたびは、優秀修士論文賞および副賞の楽水会賞を受賞するとともに、電気電子コース副代表に選出していただき大変光栄に思います。日頃よりご指導いただきました先生方、研究室の皆様、共同研究先の皆様、そして家族のサポートがあったからこそだと思います。この場をお借りして深く御礼申し上げます。

私が、量子コンピュータ、その中でもシリコンスピン量子ビットというキーワードに惹かれて小寺研究室に参加してから早くも2年が経ちました。元々は全く異なる分野の研究を行っていたことや量子力学に関する知識もほとんどなかったため、当初は新しく学ぶ知識の多さに圧倒されたのを覚えています。小寺研究室では自分自身の研究に関連したことはもちろん、研究室運営や研究室外プロジェクトにも参画させていただくことで、多くの学びを得ることができました。小寺研究室で学んだ知識・身に付けたスキルを活かし、今後も社会に貢献していきたいと考えています。

  • RSS

ページのトップへ

CLOSE

※ 東工大の教育に関連するWebサイトの構成です。

CLOSE