電気電子系 News
量子ビット操作に向けた物理形成量子ドットにおけるパルスを用いた正孔スピン共鳴に関する研究
今回、電気電子系約140名の中から13名が、優れた修士論文発表を行いこの賞を受賞しました。受賞者にインタビューです。
鈴木優作さん(右)と小寺哲夫准教授(左)。
左奥は実験で用いた極低温冷凍機で右奥が各種測定装置。
私の研究の大きな目的は、量子コンピュータの計算に必要な量子ビット操作を、物理形成シリコン量子ドットを用いて実現することです。量子コンピュータは量子力学的な重ね合わせ状態を活かした量子ビットを用いることで現在のコンピュータでは現実的な時間で解くことができない計算をすることができる次世代のコンピュータです。金融、創薬、機械学習など幅広い分野での応用が期待されており、実現すれば社会的に大きな意義がある技術であると認識されています。
量子コンピュータの基本要素である量子ビットは様々な系で構築することができますが、私の所属する小寺研究室ではスピン量子ビットという系に注目しています。スピン量子ビットは電荷の持つスピンを活用した量子ビットで、電荷を量子ドットというnmオーダーの半導体からなる小さな箱に閉じ込めることで実現できます。
私の研究では、特に物理形成シリコン量子ドットという構造に注目しました。従来の量子ドットと比較し簡易な構造であり、将来的な量子コンピュータの実現のために重要な要素の一つである量子ビット集積化に有利であると考えています。しかし、この構造ではまだ量子ビット操作が実現されていないため、今回の実験では量子ビット操作と同様のシーケンスを用いたスピン操作実験の確立を目指しました。新たに任意波形発生装置のプログラムを行ったり、各種フィルターの導入などをしながら試行錯誤し、最終的には量子ビット操作と同様のシーケンスによる実験に成功しました。さらにこの実験結果から、量子ビットの操作時間であるラビ周波数の推定を行い、その後の実験で予想される周波数の電流振動を観測することが出来ました。この電流振動がラビ振動という量子ビットに見られる現象に対応しており、スピン操作中のコヒーレンス性、つまり情報を保ったまま計算が可能であるということを物理形成シリコン量子ドットにおいて初めて実証しました。
私の研究は物理形成シリコン量子ドットを用いた量子ビット操作の実現の第一歩を踏み出したものであると考えています。今回の成果が、量子コンピュータ実現に向けた大きな課題である量子ビット集積化の解決の一助となることを願っています。
このような素晴らしい賞をいただき大変光栄です。本受賞は日頃よりご指導いただきました小寺哲夫准教授をはじめとする先生方、研究室の皆様、共同研究先の皆様、そして家族のサポートがあったからこそだと思います。この場をお借りして深く御礼申し上げます。
私は東京理科大学で学部4年の頃から超伝導方式の量子コンピュータの研究に携わっておりましたが、その将来的な集積化に課題を感じておりました。そんな中で東工大電気電子コースの小寺研究室を見つけて、半導体中の電荷スピンを用いた量子ビットに興味を持ち、研究室の雰囲気も自分に合っていると感じて、当研究室を志望しました。研究室に配属されてからは、私が興味を持っていたスピン操作のテーマで、多くの実験装置を使用させていただきました。また、自身のテーマ以外でも研究室運営に関する様々なプロジェクトを任せていただき、多くの学びを得ることが出来ました。これらの経験は私にとって非常に貴重な財産となって、私を成長させてくれたと実感しています。このような貴重な機会を提供してくださった小寺先生には大変感謝しています。また、日々のディスカッションにおいて私を一回りも二回りも成長させていただいた米田先生にもこの場をお借りして感謝申し上げます。
この2年間で私が当初から目指していたことが一部実現し、このような賞をいただけて大変光栄です。今後はここで学んだことを活かして、世の中の技術発展に貢献していきたいと考えています。