電気電子系 News
牛の行動監視のための機械学習モデルの低消費電力FPGA実装
今回、電気電子系約140名の中から13名が、優れた修士論文発表を行いこの賞を受賞しました。 受賞者にインタビューです。
ナノセンシング研究ユニットでは、無線回路、MEMSセンサー、エッジデバイスでの牛の行動監視など、ハードウエア技術を中心として学際的な研究を行っています。私の修士論文の研究では、プログラマブルなデジタルハードウェア上で加速度センサーのデータから牛の行動分布を高精度に推定できるTinyCowNetという極小の機械学習アルゴリズムを作りました。牛が草を十分に食べているか、十分に休んでいるか、反芻しているかなどの情報を農家に提供することで、牛の健康状態を把握することができます。これにより、牧場の効率を向上させ、病気や発情の兆候を早期に発見することができます。牛は畜産業における温室効果ガス排出の大部分を占め、世界全体の排出量の大部分を占めることから、このような情報を提供することは、環境への影響を低減するために重要であると考えています。
牛の首に取り付けたハードウェアから加速度センサーのデータを送信し、クラウド上で機械学習アルゴリズムを用いて分布を推定するのはコストがかかります。デバイスからクラウドに無線で送信しなければならないデータ量が大きいからです。そのため、このようなシステムでは、大きなバッテリーが必要だったり、バッテリーの寿命が短いといったように、農家が導入する際のコストが高くなってしまいます。そこで私は、リカレントニューラルネットワークを最適化し、学習させる重みの量を最小に、精度を最大にすることで、このアルゴリズムをエッジデバイス自体に実装できるように研究を進めています。これによって、送信データを減らすことができ、消費電力を抑えることができます。さらに、このネットワークを量子化し、整数値のみを使用することで、加速度センサーのデータから牛の行動を推定するために必要な計算量をさらに削減しました。これらの手法により、牛の休息、食事、移動、反芻の時間を95%の精度で推定できるネットワークを作成し、FPGAなどの市販のデジタルハードウェアを用いて牛のエッジデバイスに実装したところ、2年以上の電池寿命が期待できるようになりました。将来的には、酪農家が低コストで牛の福祉と農場の効率を向上させることができると考えています。
研究を進めていくうちに、AIが気候変動の緩和に役立つアプリケーションに活用できることに魅力を感じるようになりました。気候変動が世界的な問題となっている今、私は自分の知識を応用し、将来同じ効果を持つ新しいアプリケーションを探したいと思っています。さらに、私の研究は非常に学際的で、動物科学、コンピュータサイエンス、電気工学、農業など、さまざまな分野に触れることができました。社会的な影響やシステム全体の技術的な詳細を俯瞰することができ、個人としての世界観や哲学が変わりました。このような学際的なアプローチを取ることを強くお勧めします。上記の研究は、最近、国際的な学術誌に掲載されました。
このような賞をいただき、大変光栄に思います。東工大の修士課程在籍中、私を支え、指導してくださった先生方、学生、共同研究者、そして家族に感謝いたします。この賞は、研究者としての努力を継続するための大きな励みとなります。
伊藤研究室に入った当初は、牛の行動やニューラルネットワーク、農業に関する知識は全くありませんでした。研究室の自由な雰囲気の中で、自分なりのアイデアを出し、研究者として大きなモチベーションと情熱を持つことができました。また、研究室では、様々な分野の勉強と、自分の意見や哲学を形成することも求められました。これは必要不可欠な能力だと思います。また、日本に滞在し、日本の文化や人々に触れることで、多くのことを学びました。世界について多くの洞察を得て、異なる視点から世界を経験することができました。修士課程での豊かな経験は、多文化環境における研究者として、また現在東工大で博士課程に在籍している私の将来にとって、素晴らしい準備を与えてくれたと思います。最後になりましたが、伊藤浩之先生、 Ludovico Minati先生、 Korkut Kaan Tokgoz先生には、私に様々な機会を与えてくださったことに、心から感謝いたします。