応用化学系 News
東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の田中祐圭准教授(ライフエンジニアリングコース 主担当)と生命理工学院 生命理工学系の星野歩子准教授が7月15日、第6回「バイオインダストリー奨励賞」を受賞しました。
田中准教授は「バイオミネラリゼーションによる機能性ナノ粒子の精密グリーン合成」により、また、星野准教授は「臓器特異的転移を司るがん細胞由来エクソソームを用いた転移抑制治療と予測診断の開発」によりそれぞれ受賞しました。
バイオインダストリー協会によると、「バイオインダストリー奨励賞」は2017年に創設され、バイオサイエンス、バイオテクノロジーに関連する応用を指向した研究に携わる有望な若手研究者とその業績を表彰しています。
贈呈式・受賞記念講演会は10月12日、国際的なバイオイベント「BioJapan 2022」の会場(パシフィコ横浜)で行われる予定です。
賞を主催する一般財団法人 バイオインダストリー協会は、バイオインダストリー分野の研究開発と産業発展を「産・学・官」による連携によって、総合的に推進する組織です。
今回、バイオインダストリー協会によって発表された受賞者の研究テーマと選評、および受賞者のコメントは次の通りです。
バイオミネラリゼーションによる機能性ナノ粒子の精密グリーン合成
金属結合性ペプチドを利用し、界面場で金属ナノ粒子の粒子形態制御を行うという、独創性の高い技術を開発した。ペプチドの多様性を利用した多様な形状の金ナノ粒子の合成技術を他の金属にも応用し、磁性合金創製や形状制御に成功した。これらの技術の化学反応触媒、金属資源再利用、医療用途への展開を企画しており、今後もバイオ技術を活用した新規材料開発における活躍が期待される。
この度は大変名誉ある「バイオインダストリー奨励賞」を賜り誠に光栄に存じます。本研究では、東工大の異分野研究者交流の場「Tokyo Tech Research Festival(TTRF)」に端を発した学内共同研究者に加え、海外の研究者にも参画していただき、様々な専門性をもつ研究者が結集した研究成果をこのように評価していただけたことを大変嬉しく思っております。
貝や真珠に代表されるように、生物は環境中という穏やかな条件で緻密に形態制御された鉱物を合成します(バイオミネラリゼーション)。本研究では、これをナノサイズレベルで制御できるようにデザインした、機能性ナノ粒子の環境調和型(グリーン)合成法を提案しています。具体的には、生体分子であるペプチド配列を選抜し、金属イオンと混ぜて室温で静置するだけで、がんの光温熱療法に利用できる可能性のある三角金ナノプレートなどを合成できることを見出しています。このような生体適合性の高い機能性ナノ粒子は生体医工学分野など幅広い分野での利用が期待されます。
この受賞に際して、私が所属しておりました研究室の大河内美奈先生には、このような学際研究を自由に行わせていただき、心より感謝申し上げます。また、共同研究者の先生方や研究室の学生の皆様に御礼を申し上げます。
臓器特異的転移を司るがん細胞由来エクソソームを用いた転移抑制治療と予測診断の開発
がん細胞由来のエクソソームが特定の臓器の細胞に侵入して微小環境を形成し、その結果としてがん細胞の臓器特異的転移先が決定されるがん転移機構を世界に先駆けて解明した。がん細胞由来エクソソームを用いた転移抑制治療や臓器特異的なDDSの開発、がん診断マーカーへの活用など、社会実装に向けて卓越した成果を挙げており、今後もこの分野を牽引する研究者として活躍が期待される。
このたびは大変名誉あるバイオインダストリー奨励賞を賜り、誠に光栄に存じます。この場をお借りして、共同研究者の先生方、研究室メンバーの皆様、そしていつもサポートいただいている生命理工学院の先生方に御礼申し上げます。
今回受賞対象となった研究では、全ての細胞が産生するエクソソームというウイルス程の大きさの小胞に着目しております。我々の血流には絶えずエクソソームが存在しており、タンパク質や核酸などの細胞情報を臓器から別の臓器へ、細胞から細胞へと運んでいます。この機構は体内にがん細胞が存在しているときにも見られ、がん細胞は転移する際にエクソソームを介して、未来転移先となる臓器を転移しやすい環境へ整えさせていることがわかりました。我々の研究室ではこの機構を元に、がん細胞が産生するエクソソームの除去や取り込みを阻害する方法、さらには整えられた環境をもとに戻すことで転移抑制的な治療へ繋げる研究を推進しております。また、がん細胞が体内に存在すると全身性の反応が起こることをエクソソーム含有タンパク質により見出し、血液中のエクソソーム情報をもとに、がんの有無の判定、がん種の同定が可能であることを報告してきました。このことから、将来的には健康診断でがんのスクリーニングや、がん種の判別に利用できるようなキットの開発が期待されます。今後は産学連携研究を推進することで、実社会で役に立てる研究開発を目指していきたいと思っております。