応用化学系 News
鈴木耕太助教、田中祐圭助教が、2019年度「東工大挑戦的研究賞」を受賞しました。
「挑戦的研究賞」は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
安全性、信頼性に優れる全固体型のリチウム電池の実現が望まれています。その実現の鍵となるのが、固体内を高速でリチウムイオンが拡散できる物質、つまり高性能な固体電解質材料の開発です。しかし電解質材料の開発には膨大な時間と手間がかかり、10年スケールで新物質が見いだされます。そこで我々は、古典的な固体化学の考え方に基づく物質探索に機械学習を融合させた、新しい材料探索法の開拓に取り組んでいます。京都大学の世古博士らが開発した材料推薦システムを物質探索に導入することで、新材料の発見は加速することができました。しかし、推薦システムは実現可能性の高い未知材料組成を予測するシステムであり、イオン導電特性の指標が内包されていないため、高イオン導電特性を示す材料の発見には至っていません。そこで本研究では、推薦システムにさらにイオン導電特性を予測する機械学習を組み込み、高イオン導電特性を示す新物質発見の加速を目標としています。
一般に、イオン導電特性は結晶構造と強く相関するため、材料の結晶構造を明らかにすることが性能を説明するためには必要です。機械学習を用いた場合も同様で、結晶構造が明らかな物質を対象にその予測は行われています。このような状況を打破するため、材料推薦システムをより有効に活用する方法を考え、古典的な固体化学の指標となっている高イオン導電特性を示す結晶構造の特徴を、組成を中心とした説明変数で記述することで「機械学習を使って、組成情報だけからイオン導電特性の予測ができないか?」というアイデアが浮かびました。つまり、独自に開拓を進めてきた材料推薦システムを用いた物質探索法に、組成情報からイオン導電特性予測をする機械学習を組み込み、推薦システムと導電特性予測の融合を実現することが本研究の目的です。非常にハードルが高い研究テーマですが、組成だけから物性を予測することができると、将来的にはイオン導電体に限らず様々な新材料探索に応用できる可能性があります。
本研究が目指す新材料探索の概念図。
金ナノ粒子は安定性が高く毒性の低い複合機能有価材料として、特に先進医療分野で注目されています。一方で、体内に投与された金ナノ粒子の標的部位への集積化に課題があり、標的に応じて粒子の形態(形やサイズ)を最適化する必要性が指摘されています。しかしながら、金ナノ粒子の形態制御に寄与できる分子種の数が限られており、様々な形態の金ナノ粒子を「自在」かつ「精密」に合成制御できる手法は確立していません。
そこで我々は分子多様性が膨大であるペプチドに着目し、貝や骨などに代表される生物による鉱物形成(バイオミネラリゼーション)プロセスに倣った、ナノ粒子合成の精密制御技術の開発を推進しています。これまでに、セルロース膜上に異なる数百ものペプチドを円形スポット状に化学合成できるペプチドアレイ技術を活用し、粒子合成に寄与するミネラリゼーションペプチドを効率的に探索できる手法を開発してきました。この技術により探索された様々なペプチドを利用することで、室温、中性pHで各ペプチドと金イオンを混合し静置するだけで、ペプチドの配列依存的に形状や物性の異なる様々な金ナノ粒子を合成できています(グリーン合成)。現在は、各ペプチドと合成されるナノ粒子の特性に関する相関性を詳細に解析し、様々な形態の金ナノ粒子を「自在」かつ「精密」に合成制御できるペプチドデザイン技術の開発とその医療応用への展開を実施しています。
本技術は、生体分子と金属イオンを混ぜるだけで有価ナノ粒子を合成できることに大きな特徴があります。一般的なナノ粒子合成には、毒性の高い界面活性剤や強い酸化剤、還元剤などが、高温高圧条件などで利用され、合成過程における環境負荷や残留する原料の毒性が課題として挙げられています。本研究開発はこれらの課題を解決するだけでなく、これまでに報告例のない形状や物性を示す、多種多様な有価ナノ粒子を合成できるペプチドの探索技術としての幅広い展開が期待されます。
ペプチドを利用したナノ粒子のグリーン合成技術概念図