応用化学系 News
石毛准教授、神戸助教は末松特別賞をあわせて受賞
物質理工学院 応用化学系の石毛亮平准教授(応用化学コース 主担当)、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の神戸徹也助教(応用化学コース 主担当)、科学技術創成研究院 全固体電池研究センターの松井直喜助教(エネルギーコース 主担当)が、2022年度東工大挑戦的研究賞を受賞しました。また石毛亮平准教授と神戸徹也助教は、末松特別賞にも選ばれました。
授賞式は2022年9月1日に開催される予定です。
挑戦的研究賞は、東工大の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
第21回となる今回は石毛亮平准教授、神戸徹也助教、松井直喜助教を含む10名が選考され、うち3名が末松特別賞※にも選ばれました。
2022年度東工大挑戦的研究賞の受賞者は、こちらをご覧ください。
※末松特別賞は、挑戦的研究賞受賞者のうち特別に優れていると評価された研究者に対する、末松基金による顕彰です。今回は、石毛亮平准教授、神戸徹也助教を含む3名が選ばれました。
ポリイミドやポリチオフェンに代表される芳香環が連なった硬い棒のような形状をもつ剛直高分子は、高分子に特有の柔軟性と他の高分子にはない優れた耐熱性を合わせもつことから、電子回路の絶縁層から有機薄膜太陽電池の半導体層にいたるまで、フィルムの形態で様々な用途に用いられています。これらの剛直高分子をフィルムに対し垂直に配列できれば、膜厚方向への高い熱伝導性や電気伝導性など実用上きわめて有用な物性を引き出せますが、熱力学的な制約により極めて困難な課題でした。本研究は、石けんの泡や細胞膜など自然界にみられる、層状構造を自発的に形成するスメクチック液晶の性質に着目して剛直高分子の垂直配列制御に挑戦するものです。この層構造は空気や疎水性基板と接する界面と平行に、かつ段階的に1層ずつ積層しながら成長することが知られています。我々は層に対して分子軸が垂直に配列した構造をもつスメクチック相を溶液状態で形成する全く新しい剛直高分子の前駆体を設計・合成し、層を疎水界面に平行、分子鎖を界面に垂直に配列させた後に熱硬化(閉環反応)することで、垂直配列した成分が7割を上回る前例のないポリイミド膜の作製に成功しています。層構造の発現は電子吸引性・電子供与性部が主鎖中で交互に連結した分子構造が鍵であり、同様の構造は重縮合高分子に共通するため、本戦略は他のあらゆる有用な剛直高分子系にも適用可能であると期待されます。
この度は栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞を賜りまして身に余る光栄に存じます。これまで本研究を暖かくご支援下さいました安藤慎治教授、私とともに数多くの実験検討を粘り強く実施し、この難題に果敢に挑戦し続けてくれました原昇平氏(2020年度修士卒)、ならびに研究室の学生、卒業生の皆様に心より御礼申し上げますとともに、若手研究者に対する本学の多大なご支援に深く感謝いたします。
超原子は数個の金属原子から作られる特殊な微小粒子で、原子のように周期律をもって振る舞うことから新しい物質の構成単位になりえる期待を受けて研究されてきました。この超原子を利用することができれば希少元素の代替のみならず、新しい電子状態を持つ新元素も生み出せると期待できます。こうした超原子の研究は理論分野で発展し、様々な元素の模倣や超原子の反応性などが提唱されてきました。特に超原子の物性を価電子の数で制御できることが魅力的で、機能を設計できる新物質として注目を集めています。こうした超原子の理論分野での発展に対して、超原子の合成研究は気相高真空での微量生成か、配位子を利用した安定クラスターの合成に限られており、より簡便で自在な合成はできていません。こうした課題に対して、私はこれまで13-15族の主要族元素の化学種について原子数制御手法を開発することでナノ構造体としての機能発現や、アルミニウムやガリウムを用いた超原子の液相での合成を行ってきました。こうした超原子の液相合成に加え、二次元の単層構造に形状制御する手法もホウ素を用いて新たに見出しました。新たに合成した単層のホウ素材料は無機物でありながら熱駆動できる液晶機能も有しており、多彩な用途が期待できます。こうした単層構造を精密に制御できる手法を開発しました。受賞となった研究では鋳型高分子や界面反応を駆使して原子の数と構造を精密に制御した二次元材料を開発し、超原子機能を含む様々な機能を発現できる新材料の開拓に挑戦します。
本賞の受賞にあたりまして、山元公寿教授、今岡享稔准教授をはじめ多くの共同研究いただいた先生方、研究室やプロジェクトのスタッフ、学生の皆様に心より感謝申し上げます。この受賞を励みにして、より一層研究を推進していきたいと思います。
電力貯蔵技術への社会的需要の高まりから、リチウムイオン電池を超えるエネルギー密度を有する次世代蓄電デバイスの開発が求められています。蓄電デバイスの基本性能は、電池反応に関与するイオンの種類で決まり、これまでLi+,H+,O2–,Na+,Mg2+,F–などの様々なイオンに基づく材料・デバイス開発が進められてきました。一方、現行のリチウムイオン電池のエネルギー特性を超える有望な次世代蓄電デバイスの候補は数少なく、デバイス特性を飛躍的に向上させるためには、他のイオン種に基づく新たなデバイス設計が必要であると言えます。そこで、我々は固体内の高速拡散が可能な、新たなイオン種であるヒドリド(H–)に着目した材料開発、デバイス創成に取り組んでいます。これまで原始的なヒドリドデバイスの動作検証を行い、デバイス構築の要である固体電解質材料の構造設計に基づく伝導率向上指針の提案、この指針に基づき高伝導性ヒドリド伝導体Sr1–xNaxLiH3–xを報告しました。これらの高イオン伝導性ヒドリド伝導体の発見により、ついに室温近傍で動作可能なヒドリド電池の検証実験が可能な段階に到達したため、ヒドリド電池の構築と優れたデバイス特性の実現を目指した研究を進めています。ヒドリド電池のポテンシャルは未知であり、候補となる電極材料を効率的に探索する必要があります。本研究では第一原理計算によるスクリーニングを取り入れて、候補電極を提案し、ヒドリドの電池反応を体系的に理解し、探索実験へと展開する取り組みを進めています。加えて、ヒドリドデバイスは水素吸蔵を電極反応に用いるため、電気化学的な水素吸蔵デバイスとしての機能が期待されます。非常にハードルの高い取り組みですが、ヒドリド伝導体の開発からデバイス開発を通じて、地球上に豊富に存在する”水素”に基づく新たな蓄電デバイスの創成を目指します。
本研究は菅野了次教授、平山雅章教授、鈴木耕太准教授を始めとする共同研究者の先生方、共に研究を推進している廣瀬隆くん(平山研 現D1)と伊藤昴史くん(菅野研 修士卒)を始めとする研究室メンバーとの協同の成果です。この場を借りて深く御礼申し上げます。この栄誉ある賞と研究支援を励みにして、より一層研究を推進していきたいと思います。
このイベントは東工大基金によりサポートされています。