電気電子系 News
東京工業大学がディジタル技術の若手研究者に贈る2022年度「末松賞『ディジタル技術の基礎と展開』支援」の受賞者が決定し、9月1日に授賞式が行われました。
末松賞「ディジタル技術の基礎と展開」支援は、将来の基盤技術としてのディジタル技術に関心を持った若手研究者の育成と、コンピュータ、ロボティクス、ネットワーク技術等の活用に関する研究に幅広い支援を行うことを目的として、2018年度に末松基金により創設されました。
第5回となる本年度は相川洋平助教、川那子高暢助教(ともに電気電子コース 主担当)ら3名が支援対象者に選ばれました。
授賞式には、採択者3名と益一哉学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、来賓として末松安晴栄誉教授・元学長、株式会社ぐるなびの滝久雄取締役会長、農業・食品産業技術総合研究機構の久間和生理事長、日本電気株式会社(NEC)の遠藤信博特別顧問、古田勝久名誉教授、蔵前工業会の本房文雄理事長特別補佐が出席しました。
現在のディジタル社会はCMOSからなる電子回路に支えられています。しかしながら、回路の微細化に伴って処理遅延が増大することが大きな問題になっています。このような問題に対して、電子回路における一部の処理を、光の領域で実行しようという取り組みがあります。これにより、光が回路を伝搬する過程で処理が完了することとなり、微細化するほどに処理遅延の改善が期待できます。こういった背景をもとに、筆者は光のままで信号間のパターンマッチングを行う研究に取り組み、世界に先駆けて動作の実現に成功してきました。本研究では当該技術を論理回路に応用します。とくに、回路の入出力関係をパターンマッチングとして捉えるという、新しい視点から迫ります。これによって、光と電子がそれぞれに適したかたちで処理を分担することができ、より低遅延なディジタル技術が拓かれると期待できます。
シリコン(Si)半導体に基づくディジタルエレクトロニクスは現代の超高度情報化社会の根幹であり、今後も更なる発展が必要である。しかし性能向上の指導原理である微細化が本質的な限界に達し、微細化が終了すると1年で僅か3%しか性能が向上しない。また情報通信量の急増による半導体素子の消費エネルギーの急激な増加は、地球規模の喫緊の課題である。故にSiに代わる半導体として未結合手が無く、分子層1層でも電子と正孔がSiを超える高い移動度と両極性伝導を示す二セレン化タングステン(WSe2)が注目されている。本研究の目的はWSe2 CMOSFETのデバイス技術の確立と超低電圧動作によるエネルギー効率の高いディジタルエレクトロニクスの実現である。合金及び化合物金属によるソース/ドレイン技術と自己整合型ゲートスタック技術を独自に確立する事により、低電圧0.5V動作でCMOSインバータゲイン15を実証する。
電波を活用した非侵襲計測技術は、異常組織検出や生体イメージングなどに幅広く開発されています。しかし、現在主に使われている周波数は数GHzで、計測の分解能が制限されます。近年、ミリ波とテラヘルツ波を用いた高速通信技術開発が進められており、波長は短いため、高分解能イメージング技術にも有望と考えられています。そこで本研究では、ミリ波とテラヘルツ波の生体内における電波伝搬を解析し、最新の機械学習技術により人体内部構造と電波の伝搬特性との関係を明らかにして、内部構造を高精度に再現するイメージングアルゴリズムの開発に取り込みます。将来は、生体応用に向けた高分解能サブサーフェスイメージング技術基盤の創出を目指しています。
授賞式では、受賞者による研究課題のプレゼンテーションが行われました。末松栄誉教授をはじめとする来賓からは、発表内容への質問とともに、多くの激励の言葉がかけられました。
末松安晴栄誉教授・元学長は、本学で行った光ファイバー通信の研究、特に動的単一モードレーザーの先駆的研究が、大容量長距離光ファイバー通信の発展に寄与し、社会に貢献したとして2014年日本国際賞、2015年度文化勲章を受章しています。
「若い人たちが様々な分野で未開拓の科学・技術システムの発展を予知して研究し、隠れた未来の姿を引き寄せて定着させる活動が、澎湃(ほうはい)として湧き出てほしい」との末松栄誉教授の思いを継承し、研究活動を奨励するため、賞金の一部の寄附を受け末松基金を設立しました。
末松基金の設立当初より賛同いただいている本学同窓生である株式会社ぐるなびの滝久雄取締役会長から更なる寄附を受け、末松賞「ディジタル技術の基礎と展開」支援を2018年度から開始しました。
このイベントは東工大基金によりサポートされています。