電気電子系 News
東京工業大学がディジタル技術の若手研究者に贈る2021年度「末松賞『ディジタル技術の基礎と展開』支援」の受賞者3名が決定し、9月2日、オンラインで授賞式が行われました。
末松賞「ディジタル技術の基礎と展開」支援は、将来の基盤技術としてのディジタル技術に関心を持った若手研究者の育成と、コンピュータ、ロボティクス、ネットワーク技術等の活用に関する研究に幅広い支援を行うことを目的として、2018年度に末松基金により創設されました。
第4回となる2021年度は、河辺賢一助教(電気電子コース 主担当)ら3名が支援対象者に選ばれました。
授賞式には、採択者3名と益一哉学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、来賓として末松安晴栄誉教授・元学長、株式会社ぐるなびの滝久雄取締役会長、農業・食品産業技術総合研究機構の久間和生理事長、日本電気株式会社(NEC)の遠藤信博取締役 会長、古田勝久名誉教授、蔵前工業会の本房文雄理事長特別補佐が出席しました。
研究概要:
発電機の励磁制御システムは、電力系統における発電機群の安定性を維持する重要な役割を担っている。しかし、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大によって、電力系統内の電力の流れが時々刻々と変化する状況では、既存の励磁制御システムが有効に機能せず、発電機の連鎖的停止に伴う大停電のリスクが懸念される。そこで本研究では、電力系統における発電機群の安定性向上(停電リスクの低減)を目的として、将来利用可能になると想定されるディジタル技術を活用した発電機の励磁制御システムの新たな構想および理論の開発に取り組んでいる。GPSを利用した広域地点間の計測技術、光通信・5G等を用いた高速情報通信技術、中央集中演算による制御を可能にする高速演算技術といった新技術の活用により、再エネの不確実性に柔軟に対処できる電力系統安定化システムを実現し、再エネの普及と電力安定供給の両立を目指している。
研究概要:
創薬において、標的特異性が高く副作用の少ないペプチド医薬品が注目を浴びる。アミノ酸が連なった構造をしたペプチド医薬品の開発初期段階には、創薬の基本骨格となるリードペプチドの探索がある。その探索手法として、ファージディスプレイ法が挙げられる。これは、ランダムなアミノ酸配列のペプチド群から、創薬ターゲットとなる分子と結合するペプチドを探索する手法である。しかし、この手法には、膜蛋白質に適用が困難という大きな課題が残されている。膜蛋白質は単離や精製が困難であるため、細胞膜上に存在する蛋白質を標的にしてペプチド探索を行う必要がある。しかし、細胞表層には数多くの種類の分子が混在するため、ペプチド探索は困難を極める。そこで、筆者は、次世代シーケンサと統計学的な処理を併用した手法を開発することによって、細胞膜に存在する膜蛋白質を標的にしたリードペプチドの探索方法を確立することを目的とした。
研究概要:
シリコン中の量子ドットは、電子スピンを比較的長い間、量子力学的な重ね合わせ状態を保ったままで閉じ込めることができ、かつ集積回路技術との親和性が高いナノ構造です。このことから、次世代情報化社会を牽引する量子コンピュータを実装するデバイスの、有力候補となっています。近年、その量子デバイス性能は、微細トランジスタの論理誤り率と同様に、デバイス中の電荷雑音によって制限されることが分かってきました。本研究では、電場環境ゆらぎの空間分布を計測する空間モニタリングを行って、シリコンデバイスの性能を制限する電荷雑音に、空間軸という新たな観点から迫ります。ディジタル量子コンピュータに不可欠な量子誤り訂正の効率を左右する、演算ビット間の雑音相関を評価する方法を確立し、シリコン量子デバイスに基づく大規模量子コンピュータの性能予測と設計指針に役立てることを目指します。
授賞式では、受賞者による研究課題のプレゼンテーションが行われました。末松栄誉教授をはじめとする来賓からは、発表内容への質問とともに、多くの激励の言葉がかけられました。
末松安晴栄誉教授・元学長は、本学で行った光ファイバー通信の研究、特に動的単一モードレーザーの先駆的研究が、大容量長距離光ファイバー通信の発展に寄与し、社会に貢献したとして2014年、日本国際賞を受賞し、2015年度の文化勲章を受章しました。
東京工業大学は「若い人たちが様々な分野で未開拓の科学・技術システムの発展を予知して研究し、隠れた未来の姿を引き寄せて定着させる活動が、澎湃(ほうはい)として湧き出てほしい」との末松栄誉教授の思いを継承し、研究活動を奨励するため、賞金の一部の寄附を受け末松基金を設立しました。
末松基金の設立当初より賛同いただいている本学同窓生である株式会社ぐるなびの滝久雄取締役会長から更なる寄附を受け、末松賞「ディジタル技術の基礎と展開」支援を2018年度から開始しました。
このイベントは東工大基金によりサポートされています。