応用化学系 News
ロタキサン型「犠牲結合」の切れやすさを制御する新たな材料設計
東京科学大学(Science Tokyo)物質理工学院 応用化学系の大塚英幸教授、高橋明助教、横地浩義大学院生(研究当時:物質理工学院応用化学系/物質・情報卓越教育院 博士後期課程3年)らの研究グループは、千葉大学 大学院工学研究院の鞆津典夫特任研究員、青木大輔准教授(同大学 園芸学研究院附属 宇宙園芸研究センター兼任)らと共同で、力が加わると「輪」が軸から抜けるロタキサン[用語1]構造をエラストマーの架橋点[用語2]として利用し、材料を大幅に強靭化する新たな分子設計指針を確立しました。
本研究では、ロタキサン架橋剤の基本骨格を変えることなく、末端(ストッパー)の構造のみを系統的に変化させることで、力が加わった際の輪の抜けやすさを精密に制御しました。その結果、分子レベルでの輪の抜けやすさと、エラストマーの強度や伸び、壊れにくさとの関係を明らかにしました。さらに、ごく少量のロタキサン架橋を導入するだけで、材料の壊れにくさを示す破断エネルギーを最大約20倍に向上させることに成功しました。
本成果は、犠牲結合[用語3]として働くロタキサンの外れやすさを分子設計によって制御し、それが材料全体の強靭性をどのように左右するかを明らかにしたものです。分子レベルの設計から材料全体の力学特性を合理的に制御する、新たな高分子材料の設計指針となることが期待されます。
本研究成果は、2026年8月30日(現地時間)に学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載されました。

図. 本研究概要
ゴムに代表される、柔軟でよく伸びる材料であるエラストマーは、自動車、産業、医療など幅広い分野で利用されており、次世代機能材料への応用に向けて、より壊れにくく強靭な材料の開発が求められています。その手法として、力を受けた際にエネルギーを逃がす「犠牲結合」が注目されています。しかし、従来は犠牲結合の切れやすさだけを変えることが難しく、それが材料全体の強靭性に与える影響を明確にすることは困難でした。そこで本研究では、末端構造だけで「輪」の抜けやすさを調節できるロタキサンを利用し、犠牲結合の切れやすさと材料の強靭性との関係を系統的に検証しました。
ロタキサン架橋剤の基本骨格を変えることなく、軸の末端にあるストッパーの大きさや数を変えることで、力が加わった際の輪の抜けやすさを制御することに成功しました。
末端構造を系統的に変えることで、分子レベルでの犠牲結合の切れやすさと、エラストマーの強度、伸び、壊れにくさなどの材料全体として現れる力学特性との関係を明らかにしました。
材料本来の弾性をほぼ維持したまま、ごく少量のロタキサン架橋を導入するだけで、材料の壊れにくさを示す破断エネルギーを最大約20倍に向上させることに成功しました。
今後は、本研究で得られた設計指針をもとに、エラストマーのさらなる高機能化と用途拡大を進めることで、自動車材料や建築物の制振・耐震材料をはじめ、高い強靭性が求められる幅広い分野への展開が期待されます。
本研究は、以下の事業の支援を受けて行われました。
| [用語1] | ロタキサン:棒状分子(軸成分)がリング状分子(輪成分)の輪の中を通り、棒状分子の両端が大きな分子(キャップ)で固定されている分子集合体。ロタキサンの構造を利用した架橋剤が「ロタキサン架橋剤」であり、ロタキサン架橋剤を用いて作成された構造・技術を「ロタキサン架橋」と呼ぶ。 |
|---|---|
| [用語2] | 架橋点:エラストマーを構成する長い分子鎖同士をつなぐ部分。分子鎖を網目状につなぎとめることで、材料の形を保ちながら、ゴムのように伸び縮みして元に戻る性質を生み出す。 |
| [用語3] | 犠牲結合:通常の共有結合よりも弱い力で切断される結合。架橋高分子組み込むことで、力を加えた際に弱い犠牲結合が優先的に解離し、局所的なエネルギーを散逸することによって材料全体を強靭化できる。 |
| 掲載誌: | Advanced Materials |
|---|---|
| タイトル: | Harnessing Sacrificial Mechanical Bonds for Toughening Elastomers |
| 著者: | Hirogi Yokochi, Norio Tomotsu, Daisuke Aoki,* Akira Takahashi and Hideyuki Otsuka* |
| DOI: |
10.1002/adma.74712 |