応用化学系 News
物質理工学院 応用化学系の織田耕彦助教と科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の竹原陵介助教(ともに応用化学コース 主担当)が令和6年度「東工大挑戦的研究賞」を受賞しました。
授賞式は2024年9月13日に開催される予定です。
挑戦的研究賞は、東京工業大学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
第23回目の今回は織田助教と竹原助教を含む11名が受賞しました。
令和6年度「東工大挑戦的研究賞」の受賞者については、こちらをご覧ください。
脂質二重層で構成されるリポソームは内水相を有するカプセル構造であり、抗がん治療を企図した薬物送達システムにおいて、理想的な薬物キャリアとして期待されています。一方で、抗がん剤は正常な細胞も攻撃して破壊するため、患部に確実に薬剤を送達しつつも、適切なタイミングで薬剤を徐放する必要があります。超音波は透過性と制御性に優れており、生体内においてキャビテーションを通じてリポソームを崩し、人体で薬物を徐放できる効果的なツールとなります。しかし、超音波は非選択的に伝播する性質も持つため、高出力の超音波照射下では、がん腫瘍に集積したリポソーム以外の正常組織も破壊することが課題でした。このような中、私は独自の超臨界CO2マイクロ法を構築し、「CO2吸収リポソーム」という特異構造体を合成することに成功してきました。一方で、超音波をガス吸収水に照射すると、キャビテーションに必要な超音波出力が顕著に低下することが知られています。ここから着想を得て、CO2吸収リポソームに対して、弱い超音波を照射することで、リポソーム内水相という隔離空間のみでの「超局所キャビテーション」を誘起し、リポソーム構造の選択崩壊と安全な薬物徐放を実現できるのではないか、と考えたのが本研究の始まりになります。そして実際にCO2吸収リポソームの音響応答性を検証したところ、CO2吸収リポソームが飛躍的に高い効率で薬物を徐放できることを見出しました。しかし、CO2吸収リポソームを精密に設計し、音響応答型の薬物徐放技術を確立するには、リポソーム内部のミクロ空間で生じるCO2の反応・相変化・物質移動といったCO2ダイナミクスを明らかにし、リポソームの音響応答性との関係を解明する必要があります。受賞研究では、このようなミクロ空間で生じるマルチフィジックス現象を体系化し、音響応答型の薬物徐放技術へと展開することに挑戦します。
この度は東工大挑戦的研究賞を賜りまして、誠に身に余る光栄でございます。これまで本研究を暖かくご支援して下さいました下山裕介教授、多方面で協力して下さいました倉科佑太先生、審査に携わられた関係者の皆様、並びに研究室の学生に深く感謝いたします。この受賞を励みにして、より一層研究を推進する所存でございます。
長年培われてきた有機物質の電気・磁気・光物性に関する基礎研究の発展とは対照的に、有機物質の熱物性、とりわけ熱輸送特性に関する理解は立ち遅れているのが現状です。熱エネルギーは物質中の原子や分子の運動の自由度を反映し、一般的には、分子の重心の並進運動を量子化したフォノンが熱輸送を担うことが知られています。しかし有機物質は重心周りに多数の運動の自由度、すなわち分子ダイナミクスを持つため、これらの自由度は無機物質にはない新たな熱輸送特性の発現につながる可能性があります。分子ダイナミクスと熱輸送の関係性を明らかにし、分子設計や外場によってその熱輸送を制御することができれば、有機材料を用いた新たな熱マネージメント技術の創出につながることが期待されます。本研究課題は、2種類の分子ダイナミクスを起源とした熱輸送の理解・探索に挑戦します。1つは分子内振動に蓄えられた熱エネルギーの伝搬機構についてです。非常に局在性の高い振動モードである分子内振動に蓄えられた熱エネルギーが、いかに結晶中を伝搬するのかを明らかにしたいと考えています。もう1つは、より巨視的な分子ダイナミクスを持つ分子ローター系の熱輸送についてです。最近開発された2次元双極性分子ローター系において、ローターの回転運動が熱エネルギーを運ぶ可能性があり、そのような新たな熱輸送機構を見出したいと考えています。これら有機物質に特有の分子ダイナミクスを起源とした熱輸送を理解することができれば、有機熱輸送という新たな研究領域が開かれると期待されます。
本賞の受賞にあたりまして、福島孝典教授、庄子良晃准教授をはじめとする共同研究者の先生方、研究を推進している小川竹次郎君(福島研 現M2)、また福井智也助教をはじめとする研究室スタッフ、学生の皆様に心より感謝申し上げます。この受賞を励みにして、より一層研究を推進していきたいと思います。