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二酸化炭素からの高効率メタノール合成に成功

カーボンニュートラル社会実現の鍵となる触媒反応

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2024.05.09

要点

  • 微粒子化した銅を固定化した触媒による、二酸化炭素からの高効率メタノール合成を実現。
  • メタノール合成に高活性な2~3ナノメートルの銅微粒子をゼオライト粒子内に内包。
  • 二酸化炭素からのメタノール合成の実用化でカーボンニュートラル社会実現に貢献。

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の多湖輝興教授(応用化学コース 主担当)らの研究チームは、ゼオライト粒子内部に銅ナノ粒子を固定化した触媒を開発し、二酸化炭素から高効率でメタノールを合成することに成功した。

メタノールは、内燃機関や燃料電池に直接利用できる燃料としてだけでなく、プラスチック原料となる有機化合物へ変換可能な化学物質として非常に有用である。そのため、カーボンニュートラルの観点から、二酸化炭素からメタノールへの変換を促進する触媒の開発が注目を集めている。二酸化炭素からのメタノール合成には、銅亜鉛系触媒が有効であることが知られているが、金属銅は熱凝集で大きな粒子となるため、二酸化炭素に対する反応活性が低いという問題があった。

本研究で多湖教授らは、ゼオライト[用語1](シリカ系多孔質材料)の粒子内部に銅ナノ粒子を固定化させた触媒(銅の粒子サイズは約2~3ナノメートル)を開発し、この触媒に亜鉛を添加することで、メタノール合成に有効な銅-亜鉛界面を形成させた。開発した触媒のメタノール生成速度は、銅の重さ基準で約1,250 mg-CH3OH・g-Cu-1・h-1以上であり、市販触媒の10倍以上の速度での高効率なメタノール合成に成功した。今回の成果は、二酸化炭素からのメタノール合成技術の実用化を加速させるものであり、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することが期待される。
本研究成果は、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の多湖輝興教授、同 科学技術創成研究院の横井俊之准教授(応用化学コース 主担当)、東京大学工学系研究科の脇原徹教授らによって行われ、4月1日付のChemical Engineering Journal に掲載された。

背景

二酸化炭素からのメタノール合成には、銅亜鉛系触媒(金属銅(Cu)に酸化亜鉛(ZnO)を修飾した触媒)が有効である。このCu-ZnO触媒の銅と亜鉛の界面(Cu-ZnO界面)では、フォルメート種[用語2]が形成され、メタノール生成反応が促進されることが知られている(図1)。その一方で、金属銅は容易に熱凝集して大きな粒子となるため、メタノール合成に有効なCu金属表面やCu-ZnO界面が少なくなり、二酸化炭素に対する反応活性が低い点が問題だった。

図1 Cu-ZnO触媒:Cu-ZnO界面ではフォルメート種の形成とメタノール生成が優位に進行する。

図1. Cu-ZnO触媒:Cu-ZnO界面ではフォルメート種の形成とメタノール生成が優位に進行する。

研究成果

本研究では、ゼオライトというシリカ系の多孔質材料の内部に銅ナノ粒子を固定化させた触媒の開発に成功した(図1)。この銅ナノ粒子のサイズは約2~3ナノメートルであり、酸化亜鉛を添加することで、メタノール合成に有効なCu-ZnO界面が形成された。この触媒では、銅をナノメートルオーダー(1ナノメートルは10億分の1メートル)まで微粒子化することで、二酸化炭素からのメタノール生成を促進するCu-ZnO界面を効果的に形成させている。また、ゼオライトには約0.6ナノメートル程度の細孔があり、二酸化炭素や水素はこの細孔を移動して銅-亜鉛界面に到達し、メタノールへ変換される。今回開発した触媒による二酸化炭素からのメタノール合成反応試験結果を図2に示した。亜鉛を添加することにより(ZnO/Cu@S-1触媒)、メタノール生成量が向上していることが分かる。過剰なZnOの添加は、メタノール生成量の減少を引き起こしており、最適な触媒組成が存在することが示唆されている。今回開発した触媒のメタノール生成速度(空時収率[用語3])は、銅の重さ基準で1,250 mg-CH3OH・g-Cu-1・h-1を上回っており、市販されている工業用触媒の10倍以上の速度に達した(図2)。二酸化炭素の反応率とメタノールの収率は約20時間にわたって安定であるが、さらなる高性能化が今後の課題となっている(図3)。

図2 銅ナノ粒子を内包した触媒(Cu@S-1)への亜鉛の添加効果(ZnO/Cu@S-1触媒による二酸化炭素の水素化活性)

図2. 銅ナノ粒子を内包した触媒(Cu@S-1)への亜鉛の添加効果(ZnO/Cu@S-1触媒による二酸化炭素の水素化活性)

図3 ZnO/Cu@S-1触媒による二酸化炭素水素化反応における生成物経時変化

図3. ZnO/Cu@S-1触媒による二酸化炭素水素化反応における生成物経時変化

社会的インパクト

メタノールは、内燃機関や燃料電池に直接利用できる燃料としてだけでなく、低級オレフィン[用語4]芳香族[用語5]などのプラスチック原料へ変換可能な化学物質として非常に重要である。一方でメタノールは触媒を利用することで、二酸化炭素と水素から合成可能である。二酸化炭素からのメタノール合成技術は、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献すると期待されている。今回の成果は、その実用化に向けた高性能触媒の開発の取り組みを大きく前進させるものだと言える。

今後の展開

研究グループでは現在、今回開発した触媒のさらなる高性能化のために、銅微粒子に対するZnOの修飾法の検討を進めている。さらに、二酸化炭素からのメタノール合成技術の社会実装のためには、触媒の高活性化と長寿命化とともに、より高効率なメタノール合成プロセスを検討していく必要がある。

  • 付記

本研究は、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP) 日本-EU「高度バイオ燃料と代替再生可能燃料」共同研究(JST SICORP program,JPMJSC2101)の支援を受けて実施した。

  • 用語説明

[用語1] ゼオライト : サブナノオーダーの規則的な細孔を持つ、多孔質の結晶性アルミノケイ酸塩の総称。

[用語2] フォルメート種 : 二酸化炭素が触媒上で活性化された際の中間体の一種であり、メタノールの前駆体と考えられている。

[用語3] 空時収率 : 流通式の触媒反応において、反応原料が触媒層を通過するときに単位触媒当たり単位時間に生成される目的生成物の物質量。

[用語4] 低級オレフィン : エチレンやプロピレンなどの総称。プラスチック製品などの原料となる。

[用語5] 芳香族 : 炭素と水素から構成される化学物質であり、その構造中にベンゼン環を持つ化学物質。ベンゼン、トルエン、キシレンがその代表例である。

  • 論文情報
掲載誌 : Chemical Engineering Journal
論文タイトル : Development of Silicalite-1 Encapsulated Cu-ZnO Catalysts for Methanol Synthesis by CO2 Hydrogenation
著者 : Ryokuto Kanomata,Koki Awano, Hiroyasu Fujitsuka, Kentaro Kimura, Shuhei Yasuda, Raquel Simancas, Samya Bekhti, Toru Wakihara, Toshiyuki Yokoi, Teruoki Tago*
DOI : 10.1016/j.cej.2024.149896別窓
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 多湖輝興

Email tago.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2115 / Fax 03-5734-2629

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