応用化学系 News

CO2の資源化反応を創出

太陽光パネル製造工程での廃棄シリコンを有効活用

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2022.06.02

要点

  • CO2からギ酸・メタノール等の触媒的合成に成功
  • 太陽光パネル製造工程で排出されるシリコンを還元剤として活用
  • CO2の有効活用と太陽光パネルリサイクルの同時実現に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の本倉健特定教授(兼務:横浜国立大学 大学院工学研究院 教授、ライフエンジニアリングコース 主担当)らの研究グループは、横浜国立大学、産業技術総合研究所と共同で二酸化炭素(CO2)のギ酸・メタノール等への触媒的合成に成功しました。また、この反応の還元剤に、太陽光パネルの製造工程で排出されるシリコンが利用可能であることを見出しました。今後、CO2の資源化と太陽光パネルのリサイクルを同時に達成する技術へつながると期待されます。本研究成果は、国際科学雑誌「Energy Advances」(オープンアクセス、5月27日付)で掲載されました。

研究成果

2050年カーボンニュートラルへ向けて、二酸化炭素(CO2)の排出削減・有効活用は喫緊の課題です。本研究では、CO2をギ酸やメタノールへ変える触媒反応の創出に成功しました。ギ酸は防腐剤や殺菌剤に、メタノールは工業基幹原料として様々な化学品の原料となる重要な有機化合物です。

CO2をこれらの有機物へ変えるには、触媒と還元剤を利用する必要がありますが、本研究では太陽光パネルの製造工程で排出されるシリコンウエハ(金属ケイ素)を還元剤として活用可能であることを見出しました。すなわち、産業排ガスであるCO2と、廃棄される金属ケイ素から、有用化学品であるギ酸やメタノールの合成に成功したと言えます(図1)。

図1. CO2とケイ素粉末からTBAF触媒を用いてギ酸とメタノールを合成

図1. CO2とケイ素粉末からTBAF触媒を用いてギ酸とメタノールを合成

粉砕し粉末状にしたシリコンウエハと触媒量のフッ化テトラブチルアンモニウム(tetrabutylammonium fluoride:TBAF)をCO2雰囲気下において混合し、150℃で加熱することで、CO2が消費されて、ギ酸が生成していることを見出しました。ギ酸の収率は最高で68%に達しました。反応容器に投入したCO2のおよそ7割がギ酸へと転換したことになります。さらに反応条件を検討することで、CO2から最高で20マイクロモルのメタノールを合成することにも成功しました。これらの反応はTBAFを添加しないと全く進行せず、フッ化物が重要な触媒となることがわかりました。

金属ケイ素をCO2と反応させてCO2を還元する既存の報告と、本研究成果の比較を表1に示します。既存の報告では、いずれも特別に調製したシリコンナノ粒子を準備する必要がありました。シリコン表面を活性化するために、シリコン重量に対して37~2.2倍の猛毒であるフッ化水素(HF)を加える必要もあります。一方で本研究では、廃棄されるシリコンウエハを利用することができ、HFの代わりに利用する安定なフッ化物塩の量もシリコン重量当たりフッ素基準でわずか0.7%以下です。

表1. 本研究とこれまでの手法との比較

  金属ケイ素 処理に必要なフッ化物
(ケイ素に対する重量%)
主な生成物
本研究 太陽光パネル由来
廃棄ケイ素
触媒量のフッ化物塩
(F: 0.68%
ギ酸、メタノール
報告例(1) 独自に調製した
ケイ素ナノ粒子
48% HF水溶液
(HF: 3700%)
一酸化炭素
報告例(2) 独自に調製した
ケイ素ナノ粒子
48% HF水溶液
(HF: 220%)
メタノール

報告例(1):A. Ozin et al. Nat. Commun. 2016, 7, 12553
報告例(2):M. Dasog et al. Chem. Commun. 2017, 53, 3114

また、生成したギ酸やメタノールがCO2の炭素由来であることを確認するために、同位体13Cで置換した13CO2を用いて触媒反応を行ったところ、生成したギ酸やメタノールに同位体13Cが含まれていることが観測されました。投入したCO2は確実に有機物へと変化しています(図2)。

図3. 安定同位体13Cを用いるギ酸の炭素原子の由来を確認する実験

図2. 安定同位体13Cを用いるギ酸の炭素原子の由来を確認する実験

触媒反応の終了後に固体残渣を回収し、X線光電子分光(XPS)とX線回折(XRD)測定を実施しました。これらの分析の結果、投入した金属ケイ素が酸化されていることが確認でき、さらに、残渣の表面にSi-F結合が形成されていました。TBAFのフッ化物イオンがケイ素原子と反応することで金属ケイ素表面が活性化されて、CO2をギ酸へと還元するヒドリド種(Si-H)が中間体として生成するメカニズムが推定されます。

背景

再生可能エネルギーの大量導入のために太陽光パネルの需要は大幅に伸びており、その大部分がシリコン系であると言われています。太陽光パネルの平均耐用年数は30年程度であるため、2050年頃には世界で60~78メガトンの太陽光パネルが廃棄されると予想され、リサイクル方法の開発が重要視されています。発電セルに利用されるシリコンはパネル全体の重量当たり2~3%ですが、現状ではシリコンの明確なリサイクル方法が確立されていません。

本研究では、太陽光パネルの製造工程で排出されるシリコンウエハを還元剤として活用し、CO2を有機資源へ変換する触媒反応の創出に成功しました。図3に示すようにCO2からの化成品合成と、ケイ素の循環プロセスとを組み合わせることを目指します。この触媒反応は、カーボンニュートラル社会の構築へ向けたCO2の有効利用に貢献するだけでなく、廃棄される太陽光パネルの有価値なリサイクル方法の一つとなる可能性があります。

図3. (A)提案する未来の資源循環プロセスと、(B)太陽光パネル廃棄の現状

図3. (A)提案する未来の資源循環プロセスと、(B)太陽光パネル廃棄の現状

今後の展開

今回の研究では太陽光パネル製造工程での廃棄シリコンウエハを利用しましたが、太陽光パネルの有価値リサイクルにさらに貢献するには、実際に使用済みの太陽光パネルから回収されるシリコンセルの活用へ展開する必要があります。CO2の削減・資源化と、廃棄太陽光パネル問題の両者を一気に解決する新たな触媒反応として、本研究成果を展開します。

  • 付記

本研究は学術変革領域(B)「表面水素工学」(課題番号:JP21H05099)、矢崎科学技術振興記念財団、および若手・中堅によるYNU研究拠点形成事業(カーボンニュートラル研究拠点)の支援を受けて実施されました。

  • 論文情報
掲載誌 : Energy Advances
論文タイトル : Catalytic Reduction and Reductive Functionalisation of Carbon Dioxide with Waste Silicon from Solar Panel as the Reducing Agent
著者 : Ria Ayu Pramudita, Kaiki Nakao, Chihiro Nakagawa, Ruopeng Wang, Toshimitsu Mochizuki, Hidetaka Takato, Yuichi Manaka, Ken Motokura*
DOI : 10.1039/d1ya00077b別窓
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

特定教授 本倉健

(兼務:横浜国立大学 大学院工学研究院 教授)

E-mail : motokura-ken-xw@ynu.ac.jp

Tel / Fax : 045-339-4297

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