応用化学系 News
石川大輔助教(応用化学コース 主担当)が、2021年度「東工大挑戦的研究賞」を受賞しました。
授賞式は2021年7月28日、オンラインのビデオ会議システムで行われました。
挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰します。受賞者には、支援研究費を贈ります。40歳未満の准教授、講師又は助教が対象です。これまで本賞を受賞した研究者からは、多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
1枚の平面状の紙からの折りたたみによる多様な構造形成と、可逆的な折りたたみと展開が可能な折り紙は、幾何学に基づく機能と美を有しています。この折り紙研究における日本人の貢献は極めて大きく、日本人の名前を冠した折り方が多数存在します。特にミウラ折り(三浦公亮東京大学名誉教授)は、平坦な大面積構造を小さく折りたたむことを可能にし、折り紙工学として地図や人工衛星の太陽電池パネルなどのマクロスケールで幅広く利用されています。しかし、可逆的な折りたたみと展開という折り紙の折り技術をナノスケールに適用した例は現在のところありません。また、ナノスケールの「オリガミ」として、「DNAオリガミ」が知られていますが、これは長い1本鎖DNAと多数の短い1本鎖DNAを組み合わせてナノ構造体を形成する手法であり、我々が思い浮かべるような力学的に折りたたんでかたちを作る「折り紙」とは発想が根本的に異なります。すなわち、マクロスケールな折り技術を、材料の機能や物性を左右するナノスケールに適用するには、新たなナノ折り紙技術の確立が必要です.
ナノスケールの折り紙を実現するためには、折りたたむ「場」が非常に重要です。我々が折り紙を作るとき、通常固い平面をもつテーブルの上で折り目を付けながら折りたたんでいきます。そこで本研究では、ナノ折り紙を作る「場」として、平面な、空気と水の二次元界面に着目しました。二次元界面では、洗剤のような両親媒性をもつ分子は、疎水性部位が空気に、親水性部位が水に向いた状態で1分子層の膜を空気と水の界面に形成することが古くから知られています。さらに、この界面膜を圧縮することで1分子あたりに熱ゆらぎに相当するごく微小なエネルギーを力学的に加えることが可能です。本研究は、前述のDNAオリガミをはじめとするDNAナノテクノロジーを駆使して作製するDNAナノ構造体に、ナノスケールにおける微小な力とエネルギーの変化に対して敏感に応答させるために、「切り紙」の柔らかい変形機構を導入することでナノ折り紙を開発します。Proof of Conceptとして、まずナノスケールのミウラ折りを作製し、これを二次元の気水界面脂質膜中に配置することで、横方向からの膜の圧縮操作による折りたたみと拡張操作による展開という、ナノミウラ折りの力学的な可逆的変形に挑戦します。
本賞の受賞にあたりまして、原正彦先生(本学教授)を初め、私がこれまでに従事してきた研究の共同研究者の皆様、ご指導を賜った諸先生方、また研究室の学生諸君に心より感謝申し上げます。