応用化学系 News
東京工業大学 物質理工学院 応用化学系教授で地球生命研究所主任研究者の吉田尚弘教授が、国際的な地球化学の学会GS(国際地球化学会、The Geochemical Society)の2020年クレア・パターソン・メダル(Clair C. Patterson Medal)を受賞することが決まり、GSが1月21日、発表しました。さらに、GSおよびEAG(欧州地球化学協会、European Association of Geochemistry)の地球化学フェロー(Geochemistry Fellow)に選出されることが決定しました。日本人がクレア・パターソン・メダルを受賞するのは初めてです。
GSは1955年創立で、米国ワシントンD.C.に本部を持ち、70を超える国と地域からの4,000名強の会員で構成されています。EAGは1985年創立で、フランスに本部があり、GSとともに地球・宇宙化学の分野で最も権威のある国際会議であるゴールドシュミット会議(Goldschmidt Conference)を1988年より毎年、欧・米持ち回りで開催しています。クレア・パターソン博士は地球・宇宙化学の創始者の一人で、GSは氏の功績を称え、1998年から環境地球化学の基礎に革新的なブレイクスルーをもたらした研究者を毎年1名選び、クレア・パターソン・メダルを与えています。
また、GSとEAGは1996年より地球・宇宙化学の分野で科学的に大きな貢献のあった研究者を毎年10名程度、地球化学フェローに選出して、その貢献を称えています。パターソン・メダル受賞者は自動的に地球化学フェローに推薦されますが、吉田教授は、パターソン・メダルと地球化学フェローの両委員会から二重に推挙されました。
吉田教授は6月21日から26日まで米国ハワイ州ホノルルで開催されるゴールドシュミット会議で2つの賞を授与され、受賞記念講演を行います。
これまで取り組んできた同位体分子の計測法を開発して海洋、大気、生元素循環について生命地球化学的な研究を推進してきたこと、さらに地球環境を対象とした国際共同研究を促進してきたことが評価されて大変な栄誉を与えられました。
クレア・パターソン博士(1922-1995)は1940年代、シカゴ大学で学生当時から鉛汚染環境問題に取り組み、鉛の循環を定量的に解析して、その後のガソリンの品質向上や食品缶の鉛はんだの不使用などに大きな役割を果たしました。また、氏はカリフォルニア工科大学(Caltech)の教員としてウラン・鉛法から発展させて鉛・鉛法を開発し、キャニオンディアブロ隕石の鉛同位体比から地球の年齢を1950年代にかなりの精度で測定するなど、地球・宇宙物質の年代学の基礎を構築されました。このような偉大な研究者の冠のついた賞を受けることは大変な栄誉です。また、本賞はさらに最近10年間の業績が加速されていることも評価されるもので、我々の研究の方向性が間違っておらず、より精進するよう激励されたと感じています。
地球化学フェローは部位別同位体分布や質量非依存同位体分別、多重同位体置換などの自然存在度計測法を多岐にわたって開発し、同位体生命地球化学に新たな道を切り開いたこと、ならびにGSやEAGと日本の地球化学の協調の枠組み構築に貢献したことが評価されました。
与えられましたこの2つの栄誉は私一人でのみなせるものでなく、これまでの36名の博士、120名を超える修士、20名を超える学士など多くの学生、現在およびこれまでに支えてくださいました研究室の教員、スタッフならびに、国内外の多数の共同研究者、そして本学の教職員の皆様のご支援があればこそです。ここに記しまして感謝申し上げます。