生命理工学系 News
令和5年度第5回(通算第102回)蔵前ゼミ印象記
2023年10月20日、ZOOM遠隔講義にて、令和5年度第5回蔵前ゼミ(通算第102回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
2010年 東京工業大学 工学部 機械宇宙学科卒業
2012年 東京工業大学 大学院理工学研究科 機械宇宙システム専攻 修士課程修了
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
忘れかけていた言葉『ゆとり教育』を思い出させてくれた。牟田さんはゆとり教育世代だ。ゆとり教育自体は葬り去られたが、その申し子たちは、今、変革の原動力となり社会に新風を吹き込み、新しい時代を築こうとしている。牟田さんの話を聞きながら、「日本失速の元凶として ゆとり教育が槍玉にあげられたが、実は、日本の再生を担ったのは“ゆとり世代”だった」と後世の歴史家から評価される時代が来るのではないかと思った。
ゆとり教育の土壌の上で育った牟田さんの心に宿ったのは「宇宙」だった。その種が成長し始めたのは本学の「機械宇宙学科」に進み、小型人工衛星(数億円)のメカの設計を任された時だ。もしその機構(機械的な仕組み)がうまく作動しなければ、数億円と多くの関係者の努力が水の泡となる。夢でうなされる程のプレッシャーに耐え、打ち上げ成功時に夢のような感動を味わった。修士課程を終えて務めたNECでは、今度は数百億円の大型衛星の設計を担当した。この間、帰宅後や週末の時間を利用して、中高生向けの宇宙フリーマガジンTELSTARや宇宙ビジネスメディア『宙畑』(そらばたけ)の編集や記事執筆に積極的に関わり、宇宙産業を日本の基幹産業にするべく広報にも努めた。そのお陰で、(1)常に自分自身をアップデートすることができ、(2)視野が広がり、(3)理解の深化と増進につながったそうだ。執筆活動を通して、衛星という「モノを作る」という従来の発想に加え、衛星を利用する「サービスを作る」という発想も芽生え、それが“衛星データ利用プラットフォームの開発”という国家プロジェクトの一翼を担うことになるのだから、持つべきものは友とペンかも知れない。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
「2023年度3Q 蔵前ゼミを始めるにあたり」中島 肇(1977化工)蔵前工業会神奈川県支部長
この蔵前ゼミは、今回で102回を迎えることになります。この102回という歴史の重み、あるいは15年間つづいた時間の積み重ねが本ゼミの意義を良く物語っていると思います。しかも、その内容が毎回「印象記」として記録されています。印象記の筆者である広瀬茂久先生が本年度の「蔵前特別賞」を受賞されることになったのは、大きなニュースで、2008年7月に本ゼミがスタートして以来、一緒に蔵前ゼミを盛り立ててきた神奈川県支部としても大変誇らしく思っています。蔵前特別賞は毎年あるわけではなく、東工大の新しいランドマーク「Taki Plaza」を実現した滝久雄さんなど特別の貢献をした人が対象です。
第3クォータでは2回しか開催されませんが、Web上のアーカイブには100回を超える先輩からの指針やメッセージが蓄積されています。これらを活用して是非皆さんのこれからのキャリア形成に役立てて下さい。皆さんの積極的な参加を期待しています。
「蔵前ゼミ担当チーフ幹事からのコメント」淺川吉章(1977機械物理、79 MS)副支部長
この度は素晴らしい蔵前ゼミをありがとうございました。快活で飾らない語り口が印象的でした。
キーワードの中に「副業」を見つけたとき、これまでワークライフバランスの話はあっても、副業を切り口にした蔵前ゼミはなかったのではないかと思いました。しかし講義では、収入を得るための副業ではなく、違う価値、違うポジションの居場所を持つことの効用を説かれていました。曰く、視野が広がり客観的になれ、多様性にも寄与する、等々。また、複数の居場所があることで、一方がうまくいかない時でも精神的に救われるという側面もあるというお話は、広い意味でのワークライフバランスに繋がっていると納得しました。講義の前後で実施した同じ内容のアンケートで、副業に対するポジティブな回答が増えたことからも、受講生の「副業」に対する意識に変化があったのではないかと思いました。
「本業」についてのお話も、どれも大変興味深かったのですが、特に印象に残っているのは、人工衛星のシステム設計から技術営業を担当するようになって、衛星データ利活用の重要性を認識されたところです。それが起点になって、ものづくりから衛星データサービスの模索、大企業での新規事業の難しさ、「宙畑」の発行、さくらインターネットへの出向、転職と展開する中で、牟田さんの前向きな姿勢や行動力に感心し、そこにある「まずはやってみて、うまくいかなければ止めればいい」という一種の楽観性も重要な要素だと改めて認識しました。
この度は、「本業」と「副業」の複線キャリアについてお話しいただきました。ユニークな蔵前ゼミにしていただきましたことに、改めて感謝致します。さくらインターネットが、衛星データの民主化を推進するという国の事業を受託して開発した、衛星データプラットフォーム「Tellus」も民営化され、ビジネスとして発展させるフェーズに入りました。牟田さんご自身もこれまでのサービス運用やビジネス開発から、全体を見る立場、経営の立場へとキャリアアップを目指されています。同時に、企業の新規宇宙ビジネスを加速支援するという理念で4年前に共同創業されたsorano me(そらのめ)の飛躍も期待しております。
今後ますますのご活躍、ご発展をお祈り申し上げますとともに、引き続き東工大と蔵前工業会へのご支援、ご協力をお願い申し上げます。