生命理工学系 News
令和5年度第3回(通算第100回)蔵前ゼミ印象記
2023年6月23日、ZOOM遠隔講義にて、令和5年度第3回蔵前ゼミ(通算第100回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る大学院生に熱いメッセージを送ります。卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?
卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動(就活)とその後の人生の糧になります。
1999年 東京工業大学 工学部 情報工学科卒業
2001年 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 知能システム専攻 修士課程修了
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
忘れもしない2011年3月11日。東日本を 津波を伴う巨大地震が襲い甚大な被害をもたらした。Google マップを担当していた後藤さんは、すぐに動いた。救助や復旧の要となる道路の状況をいち早く、緊急車両や物流トラックの運転手に分かるようにしようとしたのだ。幸い、Googleには2005年に米国南東部を襲った大型ハリケーンKatrinaを教訓に、被災状況を地図に反映するための大規模なデータ処理システムが整っていた。後藤さんがまず考えたのは、自動車会社が持っている「走行データ」の利用だった。日本の自動車会社の多くは、自社製の車に内蔵されているGPS(全地球測位システム)の信号を日々蓄積してきており、それを利用すれば、「どの道が通れて、どの道が通れなくなっているか」が手に取るようにわかるはずだ。試しに、公開されていたファイルをダウンロードし、Googleの描画ツールに乗せてみると、海岸沿いの道路は 予想どおり 通行実績はなかった。ここまでは3~4時間ほどの作業で、インターネットで公開するには、あとはボタン1つ押すだけとなった。
そこで、法務の担当者に その場で「緊急事態なので何とかできないか」と相談したところ、「それは重要だから、至急やりましょう」となった。自動車会社からは快諾となって、半日以内で公開できたのは驚異的なことだ。皆の意識が1つになる経験は貴重な財産になっているに違いない。
震災から1年程して、後藤さんが石巻に視察に行った時に、案内してくれた運転手に「“通行マップ”(自動車通行実績情報マップ)を作ったんですよ」という話をしたところ、「そうですか、あの時トラック等を配送する時にとても役に立ったんですよ、本当に有難うございました」と言われ、しばらく言葉に詰まるほど感動した。自分たちの仕事のインパクトを最も実感できた瞬間だったようだ。それ以来、『世の中に役立つ、インパクトを与える仕事』について、より深く考えるようになり、今回の主要テーマとして取り上げることにしたそうだ。
印象記の続きは以下のPDFよりご覧ください。
益一哉学長のビデオメッセージ: 蔵前ゼミ通算第100回に寄せて
皆さんこんにちは。学長の益です。蔵前工業会神奈川県支部が企画、実施している蔵前ゼミが、本日で通算第100回となったことをお祝い申し上げます。
言うまでもありませんが、蔵前は本学 東京工業大学の前身である東京職工学校が1881年(明治14年)に創立された場所の地名です。その地の名前を取り、全学同窓会が蔵前工業会と称されています。
この蔵前ゼミは2008年7月に始まりました。すずかけ台キャンパスが横浜市にあるということもあり、神奈川県支部は何とか学生を支援できないかと、当時の関口光晴支部長や錦織經治(にしこり つねはる)元支部長が奔走し、講演と意見交換、交流の場として蔵前ゼミが始まったと聞いています。
しかし当初は授業ではなく自由参加だったため、参加する学生は少なかったようですが、講師の熱心さに感銘を受けた、当時の総合理工学研究科長だった前学長の三島良直先生と、生命理工学研究科長だった広瀬茂久先生、お二人のご尽力もあり、大学院の授業に組み込まれることになりました。その後プログラムには様々な工夫が加えられて、現在の形に至っています。
講師として、ボランティアで講演をされてきた先輩の方々の熱い思いが脈々と受け継がれ、本日通算第100回という節目を迎えることができました。これまで蔵前ゼミを支えて下さいました方々のご尽力にあらためて敬意を表します。
初期のころの講師には、ぐるなびの創業者で本学へも多大なご支援をいただいている滝久雄さんなどがおられます。最近は学生の皆さんがより身近に感じられるような、若手や中堅層など社会の最前線で活躍している講師も多くなってきたと聞いています。また、来年秋に予定されています東京医科歯科大学との統合も考えますと、より講師の幅も広がり、学生のみなさんの視野拡大にも貢献することが期待されます。
皆さんには、講師の生きざまを追体験し、社会に出てから羅針盤となるような「何か」をつかみ取ってほしいと思います。蔵前ゼミ創設以来の伝統であるゼミ終了後の交流会は、コロナ禍以降、開催されていませんが、皆さんが日ごろあまり話す機会がない神奈川県支部のシニア世代との交流ができるよい機会ですので、復活を期待しています。
最後に、蔵前ゼミの運営を支えておられる蔵前工業会神奈川県支部の皆さんや「企業社会論」を担当されている大窪先生をはじめとする大学関係の皆さんへ感謝を申し上げます。
以上、蔵前ゼミ通算第100回に寄せて、簡単ですが私からの挨拶とさせて頂きます。
淺川吉章(1977機械物理、79 MS)副支部長、蔵前ゼミ担当チーフ幹事からのコメント
この度は素晴らしい蔵前ゼミをありがとうございました。後藤さんに蔵前ゼミの講師をお願いするにあたっては、ご自身も講師経験者であるF社のKさんに仲介していただきました。Kさん曰く、後藤さんは世界的に活躍していて超多忙なので、引き受けてもらうのは難しいかもしれないとのことで、半ば諦めておりましたが、今回お話しいただくことができ、本当によかったです。
後藤さんはソフトウェアがご専門なのに対して、蔵前ゼミの受講生は生命理工学コースやライフエンジニアリングコースの学生が大半であることを、当初心配されていましたが、Zoomでの打合せやメールのやり取りを通して、講義内容の最適化を図られました。(後藤さんは、私が蔵前ゼミ担当のチーフ幹事になって以来、事前の意見交換を最も多くさせていただいた講師のお一人です。)
後藤さんが開発を主導してきたグーグルマップは、講義中に実施したアンケートによれば、受講生の95%が使ったことがあると回答しており、グーグルマップの話から始められたことで、受講生の興味を惹きつけたと思います。また、グーグルマップの将来像を垣間見ることができたこともラッキーでした。
示唆に富むお話がたくさんありましたが、「ネットという仮想空間で、現実空間のことを検索している」という言葉や、受講生の関心が高いと思われる転職のリアルを、「ストレス度」という切り口で話されたことなどが、強く印象に残りました。盛りだくさんの内容を時間内に収めていただき、ありがとうございました。
後藤さんのお話しのメインテーマは、「インパクトを与える仕事」でしたが、その延長線上のパネルディスカッションも非常に充実していました。パネルディスカッションでは、パネラーとなった学生の皆さんもしっかり事前準備をしていましたが、モデレーター役の後藤さんの的確かつ簡潔な対応が素晴らしく、パネラーの発言のよいところを取り上げ、各パネラーの意見を整理するなどして、議論を盛り上げてくださいました。約25分で打ち切らざるを得ませんでしたが、もう少し時間が取れればと残念に思いました。
この度は、通算第100回に相応しい、素晴らしい蔵前ゼミにしていただいたことに、改めて感謝致します。今後ますますのご活躍とご発展をお祈り申し上げますとともに、引き続き東工大と蔵前工業会へのご支援、ご協力をお願い申し上げます。