電気電子系 News
超低消費電力な不揮発性メモリの実用化加速へ
電子材料・物性グループのファム・ナムハイ准教授(電気電子コース 主担当)、白倉孝典大学院生(博士後期課程)、キオクシア(株)メモリ技術研究所 デバイス技術研究開発センターの近藤剛主幹を中心とした共同研究チームは、高いスピン流生成効率と高い熱耐久性を両立するハーフホイスラー型トポロジカル半金属(HHA-TSM)の一種である、YPtBi薄膜の作製および その動作実証に成功しました。
本研究成果は2月14日付(英国時間)の英国学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
近年、「スピン軌道トルク(SOT)方式」を利用した不揮発性メモリが、従来の「スピン移行トルク(STT)方式」よりも高効率にスピン流を生成できるという理由から注目を集めています。
SOT方式では、スピンホール効果を利用してスピン流を生成します。このスピンホール効果の強さはスピンホール角θSHで表され、その大きさは材料中の不純物濃度やバンド構造により決まります。純スピン注入源材料として、初期から研究されてきた重金属類は、半導体集積プロセスに対して高い親和性を有するものの、θSHが0.1台と小さいため、デバイス動作時の消費電力増大が問題となっていました。一方、図1(a)に示すトポロジカル絶縁体は1を超える巨大なθSHを有するものの、V族とVI族のみから構成されるため熱耐久性が300℃程度と低く、半導体集積プロセスに対する親和性が低いという問題がありました。今回の研究では、4.1という巨大なθSHと600℃という高い熱耐久性を併せ持った、HHA-TSMの一種であるYPtBi薄膜の作製と、低電流密度で生成されたスピン流による磁化反転の実証に成功しました。本研究成果により、SOT方式を利用した超低消費電力な不揮発メモリの研究開発の加速が期待できます。
研究チームは、巨大なθSHと高い熱耐久性を兼ね備えるトポロジカル材料を開発するため、HHA-TSMの一種であるYPtBiに着目しました。HHA-TSMは図1(b)に示すようなハーフホイスラー構造を有する3元合金であり、トポロジカル絶縁体と同様、スピンホール効果の強いトポロジカル表面状態(TSS)を有することが特徴です。本研究では産業応用を見据え、YPtBi薄膜の作製には量産プロセスの一種であるスパッタリング法を用いました。図1(c)は成膜温度を変えて製膜したYPtBi薄膜のBi含有量を示した図です。Bi単体の融点は270℃と低いですが、YPtBi膜中では理想組成である1を600℃もの高さまで保持しています。これはYPtBi膜が600℃まで安定であり、高熱耐久性を有することを示しています。さらにスピン伝導特性の評価を行うため、研究チームはスパッタリング法を用いてYPtBi膜と強磁性体CoPt膜のヘテロ接合膜を作製しました。YPtBi膜は平均表面粗さ約2Å(図1(b)に示す単位格子の3分の1)という超平坦な界面を有するため、CoPt膜は強い垂直磁気異方性を示しました。YPtBiの成膜条件を最適化することで、最大で4.1という巨大なθSHを実現することに成功しました。これらヘテロ接合膜を用いて、図1(d)に示すようなパルス電流による磁化反転実験を行ったところ、図1(e)に示すように、効率よくCoPtの磁化反転が確認できました。また、外部磁場を反転させることにより、磁化反転の方向が反転するというSOT方式の典型的な振る舞いが見られました。これら実験の結果、YPtBi膜はその巨大なスピンホール角により、重金属よりも1桁小さな電流密度でCoPt膜を磁化反転を可能とするスピン流が生成できることが分かりました。
掲載誌: | Scientific Reports |
---|---|
論文タイトル: | Efficient spin current source using a half-Heusler alloy topological semimetal with back end of line compatibility |
著者: | Takanori Shirokura, Tuo Fan, Nguyen Huynh Duy Khang, Tsuyoshi Kondo & Pham Nam Hai |
DOI: | 10.1038/s41598-022-06325-1 |
お問い合わせ先
東京工業大学 工学院 電気電子系
准教授 ファム・ナム・ハイ
E-mail : ham.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3934 / Fax : 03-5734-3870