電気電子系 News
電力ケーブルの劣化メカニズムと診断技術研究
電気電子系では、最先端の研究施設と各分野で活躍中の教員の直接指導により、学生でも世界に誇れる研究成果を出し、自分自身で発表することができます。電気電子系には、大きく分けると「回路」「波動・光および通信」「デバイス」「材料・物性」「電力・エネルギー」の5つのグループがあります。各教員はいずれかのグループに所属しており、研究室単位での研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、電力ケーブルの劣化メカニズムと診断技術の研究を行う、中出研究室です。
電力・エネルギーグループ
電気電子コース・エネルギーコース
研究室:大岡山キャンパス・南3-614号室
特任教授 中出雅彦
研究分野 | 電力ケーブル、劣化診断 |
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キーワード | 絶縁設計、劣化診断 |
発電所で作った電気を送る送配電設備は、過去に建設したものが現在も大量に使われ、時に経年に伴う故障が発生します。都心ではケーブルを地下に布設し電気を送電しますが、故障は絶縁体内部で発生するため外からは見えません。経年に伴い故障の増加も予想されます。そこで、課電劣化や熱劣化など様々な故障モードを予想して整理し、必要なものについては診断手法を開発し、故障を起こす前に対処し、大量に存在する経年設備を長く大切に使っていく研究を実施します。
電力を送電するケーブルには大きく分けて、油浸絶縁紙電力ケーブルと架橋ポリエチレン電力ケーブルが有ります。油浸絶縁紙電力ケーブルはOFケーブルといわれ、導体の中心に絶縁油の通り道を作り、絶縁油に圧力をかけ、導体に巻き付けた絶縁紙にしみ込ませて絶縁するケーブルです。架橋ポリエチレン電力ケーブルは一般にCVケーブルと言われ、架橋したポリエチレンを絶縁体に使用します。
OFケーブルは比較的古くから使われてきたケーブルで信頼性が高く、高い電圧階級で使われています。しかし、絶縁油に圧力をかける必要があり、それに伴う加圧装置が必要で、油漏れに対するメンテナンスが必要です。
これに対し、CVケーブルは比較的新しいケーブルで、低圧から500 kVまで、広範囲の電圧のケーブルに使用されています。OFケーブルに比較し加圧装置などの付帯設備を必要とせず、油漏れなどに対するメンテナンスも必要ないため、近年は新設ケーブルのほとんどがCVケーブルです。
CVケーブル絶縁体の経年劣化として以下が考えられています。
課電劣化と熱劣化に関しては、運転電圧、使用温度範囲内の使用で、絶縁破壊を起こした事例はありません。水トリー劣化は課電電圧と水の影響によりプラスチックの高分子構造が破壊され、そこに水がたまり高分子構造が破壊されということを繰り返し、木のような形(トリー)に成長する劣化です。時に絶縁破壊事故を起こすことがあります。
これに対して、いろいろな診断手法が開発され、適用されています。特に66 kV以上の高圧ケーブルは絶縁厚が厚く、測定信号が弱いため診断が困難でしたが、損失電流法という非破壊診断法が実用化され使用されています。
一方、OFケーブル絶縁体の経年劣化として以下が考えられています。
これまでOFケーブルは運転電圧、使用温度範囲内の使用で、課電劣化と熱劣化を起因とした絶縁破壊事例はありません。しかし、経年が50年を超える設備も出始め、経年劣化に対する備えの必要性が強く求められています。
熱劣化に対しは接続部で採油された絶縁油の誘電正接が高い事象に対し、各種実験データをシミュレーションに組み込み、長期亘り異常発熱しないことを確認した研究があります。
当研究室では上記の研究等を参考にしながら、OFケーブルの経年劣化に関する研究を実施しております。
OFケーブルの接続部絶縁油が建設時のバーナー加熱で劣化し、誘電正接の大きなものがあります。経年により内部に浸透し発熱する恐れがあります。劣化油の浸透や熱劣化のデータを実験により採取し、長期劣化シミュレーションに組み込み、長期に亘り異常発熱しないことを確認しました。
電気電子系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
特任教授 中出雅彦
E-mail : nakade@ee.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3697
※この内容は2016年3月発行の電気電子系パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。