電気電子系 News
プラズモニクスを用いた高効率有機EL素子、高効率有機薄膜太陽電池、および、放射冷却フィルムの開発
電気電子系では、最先端の研究施設と各分野で活躍中の教員の直接指導により、学生でも世界に誇れる研究成果を出し、自分自身で発表することができます。電気電子系には、大きく分けると「回路」「波動・光および通信」「デバイス」「材料・物性」「電力・エネルギー」の5つのグループがあります。各教員はいずれかのグループに所属しており、研究室単位での研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、金属表面に導入したナノ構造を用いた光と表面プラズモンの相互変換技術を開発し、光電子デバイスへの応用を行う、岡本研究室です。
材料・物性グループ
ライフエンジニアリングコース / 電気電子コース
研究室:すずかけ台キャンパス / 理化学研究所
特任教授 岡本隆之
研究分野 | ナノフォトニクス、プラズモニクス |
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キーワード | 光デバイス、有機EL素子、有機薄膜太陽電池、放射冷却、表面プラズモン |
金属が銀色をしているのはその反射率が可視域全域において高いからです。もちろん金属内部を光は伝搬しません。しかし、金属の表面に沿って光は伝搬します。この光は表面プラズモンと呼ばれており、金属中の自由電子の集団的な振動と強く結びついています。また、金属ナノ粒子中の自由電子の集団的振動は局在型表面プラズモンと呼ばれており、ナノ粒子の周囲には強い電磁場が局在しています。表面プラズモンをあつかった科学や工学は近年プラズモニクスという名前で呼ばれています。当研究室では金属表面にナノ構造を導入することで光を表面プラズモンとして蓄積したり、また、表面プラズモンから光としてエネルギーをとり出す技術を開発し、光電子デバイスへの応用を行います。
※当研究室は国立研究開発法人理化学研究所との連携の研究室であり、研究は主として埼玉県和光市にある理化学研究所で行ないます。
有機EL素子は厚さが1 µm以下の極薄の発光デバイスであり、視野角依存性がなく、色表現の範囲が広いため液晶ディスプレイを置き換える可能性を持っています。しかし、一方で生じた光エネルギーの20%しか自由空間に取り出せていないため、エネルギー利用効率は良くありません。これは光エネルギーの大部分が金属陰極表面を伝搬する表面プラズモンに変換され、熱に変わるためです。私達は、金属表面にプラズモニック構造と呼ばれるナノ構造を導入することで表面プラズモンを効率良く光として取り出すことに取り組んでいます。
有機太陽電池は安価に大面積の素子が簡単に作製できるという利点を持つので、次世代の太陽電池として期待されています。有機太陽電池はエネルギーの流れは有機EL素子とは逆ですが、その構造は基本的には同じです。相反則を考えると表面プラズモンを活用することで、有機太陽電池の高効率化が可能となります。有機太陽電池の活性層の厚さは数100 nm以下であるため、入射光は十分吸収されずに反射され、効率の低下を招いています。私達はプラズモニック構造を用いて活性層で吸収しきれなかった入射光を界面に沿って伝搬する表面プラズモンへ変換し、活性層での吸収を増強することで、変換効率の向上に取り組んでいます。
地球の大気は可視域の光を透過しますが、8〜13 µmにも大気の窓と呼ばれる赤外線の透過領域があります。この波長域は地表の温度に対応する黒体放射の波長領域とも重なっています。また、宇宙の背景放射から、宇宙背景の温度は約3 Kであることが知られています。そのため、太陽からの光を反射し、その一方で黒体放射により地表の熱を赤外光として宇宙背景へ捨てるようなフィルムを実現することにより、日中においても地表温度以下への冷却が可能です。冷却を高効率で行うためには、フィルムは太陽光波長領域で高い反射率を持つとともに、大気の窓領域の波長で高い放射率(キルヒホッフの法則により吸収率と等しい)を持つ必要があります。私たちはこのような光学特性を持つフィルムをプラズモニクスを用いて実現しようとしています。このようなフィルムが実現すると、エネルギー問題や地球温暖化問題の解決に大きく貢献すると考えています。
電気電子系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
特任教授 岡本隆之
E-mail : okamoto@riken.jp
※この内容は2016年3月発行の電気電子系パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。