電気電子系 News

中川研究室 ―研究室紹介 #29―

スピントロニクスと磁性応用素子

  • RSS

2016.09.27

電気電子系では、最先端の研究施設と各分野で活躍中の教員の直接指導により、学生でも世界に誇れる研究成果を出し、自分自身で発表することができます。電気電子系には、大きく分けると「回路」「波動・光および通信」「デバイス」「材料・物性」「電力・エネルギー」の5つのグループがあります。各教員はいずれかのグループに所属しており、研究室単位での研究が行われています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、電子スピンによるスピントロニクスと磁性による新たなデバイス創造を行う、中川研究室です。

教授 中川茂樹

材料・物性グループ
電気電子コース
研究室:大岡山キャンパス・南3-709
教授 中川茂樹別窓 助教 高村陽太別窓

研究分野 スピントロニクス、磁性デバイス、磁気記録・記憶
キーワード スピントロニクス、大容量垂直磁気記録、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ
Webサイト 中川研究室別窓

主な研究テーマ

電子スピン

当研究室では「電子スピンに着目した次世代材料・デバイスの開発」を目的に、伝統的な永久磁石材料から、最新のスピントロニクス材料・デバイスまで幅広い分野の研究を行っております。電子スピンは磁気モーメントと密接な関係を持っていますから、スピンの制御は物質の磁化の制御を行うことを意味します。ナノメータサイズの薄膜や人工構造を作製することにより、既存の材料に垂直磁気異方性などの新たな機能を付加することで、磁気抵抗メモリ等の不揮発性低消費電力デバイスを実現することができます。

最近の研究成果

薄膜作製技術

スパッタリングはターゲット物質に加速したイオンや原子を照射すると、ターゲット表面の原子が運動量交換を経て飛び出してくる現象です。この現象は熱蒸発とは異なり、物質の昇華点の違いにあまり影響を受けません。また、飛び出してくる原子(スパッタ粒子)は数eV程度のエネルギーを持っていて、蒸発の熱エネルギー(0.1eV程度)よりも大きなエネルギーを持っています。このような特徴を利用して、スパッタ粒子を基板に堆積させれば、様々な機能的な薄膜を作製できます。

  • 対向ターゲット式スパッタ(FTS)法

磁性薄膜を薄い領域でも高品質に作製する技術として対向ターゲット式スパッタ法を、本研究室のオリジナルな技術として開発してきました。これは2枚のターゲットを向かい合わせて同時に陰極として動作させ、ターゲット面に垂直に加えた磁場と2枚のターゲットの陰極降下部で高密度プラズマを閉じ込める方法です。これを利用して種々の磁性薄膜や機能性酸化物膜などを作製しています。

対向ターゲット式スパッタ法 1

対向ターゲット式スパッタ法 2

  • 高異方性磁界を有する磁性薄膜

対向ターゲット式スパッタでは、条件を整えて成膜すると、薄膜内部に異方的な応力を形成することができます。内部に応力がありますと、逆磁歪効果によって、大きな異方性磁界を有する薄膜が実現できています。この現象を利用して、従来の10倍以上の高い異方性磁界をもつCoFeB薄膜を実現しました。この値は共鳴周波数換算で、10GHzに相当する大変大きなものです。

  • 超高感度応力観測システムの開発

応力形成が機能的な薄膜の形成に重要であることがわかりましたので、これをさらに推し進め、薄膜の厚みが数原子層の非常に薄い領域の内部応力を、スパッタ成膜中にリアルタイムで観測できるシステムを開発しました。現在、このシステムを用いて、薄膜の成長初期過程の解析を行っています。

垂直磁化型スピントロニクス

従来の電子デバイスは電子の電荷のみを利用したものがほとんどで、電子のスピンは積極的に利用されてきませんでした。電子スピンの向きを、UpとDownで区別できれば、「スピン依存散乱、スピンフィルタ、スピン注入トルク、スピン注入マイクロ波発振」などの様々な現象を利用した機能デバイスを実現することができます。特に重要な応用先として、電源を遮断しても情報を失わない垂直磁化型磁気抵抗メモリ(MRAM)に注目しています。

  • 垂直磁化スピン磁気トンネル素子

垂直磁化p-MTJの構造図と断面TEM像

垂直磁化p-MTJの構造図と断面TEM像

右図は、本研究室で作製したMRAMの基本メモリ素子である垂直磁化トンネル接合(p-MTJ)の模式図と実際の断面透過電子顕微鏡(TEM)像です。大きな磁気抵抗効果を得るためには、MgO膜の(100)配向が必要ですが、きれいな(100)配向が得られています。このp-MTJ構造で64%の磁気抵抗効果を得ることに成功しました。

  • 応力誘起垂直磁化反転(SAMR)の提案と実現

圧力印加による磁気特性の変化の実証

圧力印加による磁気特性の変化の実証

MRAMの書換動作(磁化反転)にはスピン注入磁化反転方式が用いられようとしていますが、大きな磁化反転電流密度が問題となっています。この電流密度を削減するために、歪によって特性が大きく変化する超磁歪薄膜で構成したMTJと圧電体の融合デバイスを本研究室から提案いたしました。右図は、超磁歪Terfenol-D薄膜に圧力を印加した際の磁化特性の変化を異常Hall効果で検出したものです。圧力の印加により磁化特性が大きく変化していることがわかります。この効果を磁気抵抗素子に応用すれば、磁化反転に必要な電流密度を大幅に削減できると考えています。

  • 垂直磁化型ハーフメタル強磁性体の開発

フルホイスラー合金の超格子構造の磁化

フルホイスラー合金の超格子構造の磁化

ハーフメタル強磁性体は、Up(Down)スピンしか電子が流れない究極のスピントロニクス材料です。MTJに応用すれば理論上無限大の磁気抵抗比が得られる夢の材料です。本研究室では、垂直磁化型ハーフメタル強磁性体に関する研究を行っております。ハーフメタルと期待されるフルホイスラー合金をベースに、超格子構造や酸化物接合構造を形成することで、垂直磁化を実現しています。(右図)

次世代垂直磁気記録媒体の開発

  • グラニュラー型垂直磁気テープの開発

対向ターゲット式スパッタは基板にプラズマが触れないため、低損傷でスパッタ成膜できます。このため極薄の高分子フィルム上に成膜することに適しています。グラニュラー型垂直磁気テープを試作したところ、1カートリッジ当り50TB(テラバイト)を実現できるテープ媒体を作製できることがわかりました。

永久磁石薄膜の開発

  • 高エネルギー積を有する永久磁石薄膜の開発

対向ターゲット式スパッタの高いプラズマ閉じ込め効果を利用することで、SmCo5合金ターゲットからのスパッタを可能とし、これを用いてSmCox薄膜を作製しております。磁気センサーなどへの応用が期待されています。

教員からのメッセージ

中川先生より

電子材料の持つ新しい特性の探索や、新たな作製・加工技術の開発を通して、今後増えてくるであろう様々な新しい現象を「子供の時のような好奇心で受け止め、理解して応用できる力」をつけてもらいたいものと考えています。

今、多くの新しい機能がスピンと磁性に関する分野から生まれています。研究室は和気あいあいでお互いに協力し合って、「よく学び、よく実験し、よく楽しむ」というポリシーを実践しながら研究室生活を送っています。一緒に新しい世界に一石を投じる研究をしてみませんか?

電気電子系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 中川茂樹
E-mail : nakagawa@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3564

※この内容は2016年3月発行の電気電子系パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

  • RSS

ページのトップへ

CLOSE

※ 東工大の教育に関連するWebサイトの構成です。

CLOSE