電気電子系 News
有機半導体を用いた各種デバイス(トランジスタ、EL、太陽電池)、単分子膜、新規計測技術
電気電子系では、最先端の研究施設と各分野で活躍中の教員の直接指導により、学生でも世界に誇れる研究成果を出し、自分自身で発表することができます。電気電子系には、大きく分けると「回路」「波動・光および通信」「デバイス」「材料・物性」「電力・エネルギー」の5つのグループがあります。各教員はいずれかのグループに所属しており、研究室単位での研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、有機エレクトロニクスに関する研究を展開している、岩本・間中研究室です。
研究分野 | 有機エレクトロニクス、誘電体物性 |
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キーワード | 有機トランジスタ、有機EL、有機太陽電池、LB膜、キラリティ、新規計測技術 |
Webサイト | 岩本・間中研究室 |
現在、有機材料のもつ「柔らかい・軽い」といった性質を背景として、ユビキタス社会を支える新規な有機デバイスに関する研究が世界中で行われています。絶縁体というイメージが強い有機物ですが、ホール・電子輸送性材料や電極材料などが実用化されており、半導体や電気伝導体としての機能を持っていることも事実です。とはいえ、有機物の基本は誘電性であり、この誘電性を軸に多くの現象を捉えることが、有機材料の本質を活かしたデバイス設計には重要であると考えています。
岩本・間中研究室では、誘電体の持つ重要な性質である「分極」と「電気伝導」というコンセプトを柱に、誘電体工学の立場から有機材料の電子物性の基礎と応用、すなわち有機エレクトロニクスに関する研究を展開しています。
材料中を流れる電流(伝導電流)は、電荷(電子やホール)の流れですが、電荷は小さく直接観測することは不可能です。有機材料を用いたデバイスでは、動作機構が解明されていない点も多く、キャリアの流れを可視化することは、動作機構の解明や特性向上の鍵となります。我々は、光第2次高調波発生(SHG)が材料中の分極から発生することに着目し、この分極を可視化することでデバイス中の電荷を観測するという新しい手法を開発しました。有機材料は誘電体のように振舞うため、外部からの印加電界や注入されたキャリアによって分極されやすく、SHGは有機デバイスを評価する技術として、非常に適していると言えます。右図は、実際にペンタセンFETにおいて観測されたキャリア挙動の様子です。ソース電極から注入されたキャリアがチャネル中を拡がり、ドレイン電極に近づいていく様子が確認できます。このように、デバイス中における分極の伝播を通して、キャリアの動きを光学的手法によって可視化するシステムを世界で初めて実現しました。我々が開発した新規計測手法は、有機FETの動作に関して、電極依存性や絶縁膜依存性、トラップの影響など、様々な情報を得ることができ、動作機構解明やデバイス動作を最適化する上で非常に有効な手法として期待されています。また、有機FETの動作を記述するモデルとして、異なる誘電体の界面における電荷蓄積を表現するMaxwell-Wagner効果を基礎とした動作機構を提案し、実際に有機FETの動作を再現することに成功しました。このような技術は有機FETにとどまらず、現在開発が行われている、有機EL、有機太陽電池といった有機デバイスへ応用が可能であり、現在そのようなデバイスの評価にも用いています。
有機分子を用いて素子を作製する場合、素子特性は分子の向き(配向)に大きく依存します。そのため、分子の配向を制御する技術とともに、その「配向を評価する技術」も重要となります。我々は、分子の配向を表す指標として配向オーダーパラメータに着目して、分子膜のオーダーパラメータを、変位電流(MDC)と光第2次高調波(SHG)測定から決定するという研究を進めています。
界面に置かれた分子は方向をそろえて並ぶため、単分子膜は非対称な構造となります。その結果として、界面膜は自発分極を持ち、またレーザー光照射下において、構造の非対称性に由来する非線形分極が誘起されます。MDC-SHG法は、このような単分子膜レベルにおける分極を検出し、界面の構造を評価を可能にするものです。この評価手法は、単純な棒状分子だけでなく、キラル分子やバナナ型分子などにも適用することができます。例えばバナナ型分子では、拡張過程における特徴的な変位電流、表面圧波形が得られ、ピエゾ効果、フレクソエレクトリック効果の観点からの理論解析により説明できています。ここで得られた分極計測に基づく知見は、以降の分極の観測や制御する技術を開発する上での基本となっています。
有機材料の特徴は柔軟性にあります。このような柔軟性を反映して、水面上に展開された単分子膜では、膜の圧縮に伴って様々な形状をもつ分子膜ドメインが成長します。このようなドメインは、通常の顕微鏡では観察することはできませんが、ブリュースター角顕微鏡(BAM)という特殊な顕微鏡を用いることで観測することができます。実際に研究室で構築したBAM-MDC評価装置により観測を行うと、膜の圧縮に伴って、ドメイン形状が円形→双葉→三つ葉型へと離散的に変化するという結果を得ることができました。ドメインパターンには、分子自身の性質も強く反映されることが明らかになってきています。たとえば、キラルな性質の分子では、図3に示すようなドメインにおいて、「巻き」の方向がある特定方向に決まります。また、ラセミ体(左右キラル分子の等量混合物)においては、ドメインごとに左右のキラル分子が自発的に分離し、逆の「巻き」を持ったドメインが均等に成長することもわかりました。このような離散的(量子的)なドメイン形成は、外部刺激によってドメイン形状を制御できることを意味しており、純粋な科学的な興味に留まらず工学的な応用も期待されています。我々は、キラル構造から発する電気・光、電気・電気変換は21世紀の有機エレクトロニクスの鍵であると確信しています。
実際にドメイン内部の分極構造を可視化するシステムを構築し、分極構造がドレイン形状に与える影響について、世界で初めて明らかにしました。
電気電子系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
教授 岩本光正
E-mail : iwamoto@pe.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2191
准教授 間中孝彰
E-mail : manaka@ome.pe.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2673
※この内容は2016年3月発行の電気電子系パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。