電気電子系 News
電子デバイスを用いたテラヘルツ帯受信素子/テラヘルツデバイスを用いた超高速無線通信
電気電子系では、最先端の研究施設と各分野で活躍中の教員の直接指導により、学生でも世界に誇れる研究成果を出し、自分自身で発表することができます。電気電子系には、大きく分けると「回路」「波動・光および通信」「デバイス」「材料・物性」「電力・エネルギー」の5つのグループがあります。各教員はいずれかのグループに所属しており、研究室単位での研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、大容量テラヘルツ無線通信を研究する、鈴木研究室です。
デバイスグループ
電気電子コース
研究室:大岡山キャンパス・南3-710
准教授 鈴木左文
研究分野 | テラヘルツ帯電子デバイス、テラヘルツ応用 |
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キーワード | テラヘルツ、高電子移動度トランジスタ、共鳴トンネルダイオード、平面型アンテナ、無線通信 |
Webサイト | 鈴木研究室 |
およそ100ギガヘルツから10テラヘルツの超高周波領域はテラヘルツ帯と呼ばれ、従来の光・電子デバイスは動作できなかったため開発がほとんどされてきませんでした。しかしながら、近年の精力的な研究開発によりテラヘルツ帯で動作するデバイスが徐々に産まれてきており、これらを用いた、超高速無線通信、イメージング、分光分析、物性・天文・生体などいろいろな分野にわたる計測などがデモンストレーションされ始めています。このように少しずつ現実味を帯びてきたテラヘルツアプリケーションですが、皆さんが日常的に意識せずに使うような存在となるにはまだまだ技術的に高い壁がいくつも存在します。本研究室では、それら障壁を打ち破り実際にテラヘルツアプリケーションを身近な存在にすべく、ナノ構造を用いることにより半導体の極限的な性能を引き出しテラヘルツで動作する電子デバイス、および、それらを用いたテラヘルツ大容量無線通信の研究を行っています。
テラヘルツ帯は非常に単純なことですが周波数が高いことから帯域が大変広く確保することができ、この超広帯域を用いれば簡単な変調方式(例えば0と1のオンオフ)でも100Gbpsを超えるような無線通信が可能です。ところが、デバイスの開発が進んでいるとはいえ、テラヘルツの送信出力は微弱なため、感度の高い検出器が必要となっています。本研究室では高電子移動度トランジスタ(HEMT)に微細なゲートを集積すれば、極短チャネルにおいて電子が無散乱に走行するため高い電流が流れることを利用し、これにテラヘルツ帯の平面構造アンテナを集積した高電流感度の受信器を研究しています。従来はショットキーバリアダイオードなどを用いた受信器が一般的に使われていましたが、高い周波数で動作させるためにはダイオードの面積を小さくしなければならず電流感度は低下してしまう問題がありました。HEMTを用いた受信器ではゲートを短くすることで電流を保ちつつ高周波で動作することが可能になり、従来受信器に比べ10倍以上の感度が期待できます。
大容量の無線通信に広い帯域を用いるため、受信器は広帯域性が要求されます。開発した受信器の帯域幅を調べるため、周波数可変光源であるUTC-PDと周波数逓倍器の2つのテラヘルツ光源によるヘテロダインミキシングを用いた測定を行っています。測定から受信器の帯域幅が外部回路によって制限されていることが明らかとなり、外部回路を電磁界シミュレータにより精密に設計することにより100GHzを超える帯域幅が得られることも見積もっています。
従来のテラヘルツデバイスでは放射や集光のため光学的なレンズもしくは導波管が用いられてきましたがこれらはサイズが大きく携帯機器に搭載することは不可能でした。そこで、基板上に平面アンテナを集積することによってレンズ等を用いない新たな構造を模索しています。初期的な検討として平面型パッチアンテナを集積したHEMT受信器を作製しパッチアンテナにより受信動作が行われていることを示しました。また、姿勢無依存で無線通信が可能となる円偏波放射型の小型平面アンテナについても研究を進めています。
開発したHEMT受信器や共鳴トンネルダイオード(RTD)発振器を送信器として利用したテラヘルツ無線通信にチャレンジしています。RTDは現在電子デバイスで世界最高の発振周波数を持ち様々な周波数でキャリア信号を生成することが可能です。キャリア信号を多数使う周波数多重伝送が出来ればテラヘルツの広大な帯域をさらに有効活用することができ、大容量化が加速されます。
電気電子系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
准教授 鈴木左文
E-mail : suzuki.s.av@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3039
※この内容は2016年3月発行の電気電子系パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。